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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
11/11

11 フィスト・オブ・ヴォリューミナスヘアード・下級生②

高取と米山の共同任務と大企業の影。10~12まで続きます。





 立川区北口の雑居ビルに「マッサージ店ニホンシ」と書かれた部屋がある。

 

 店内では半裸で男が寝そべっている。奥から白い施術服を着た米山が現れた。


「今日はどんな感じで揉みましょうか?」


 半裸で寝ている中年の男が腰に手を当てる。


「思いっきり強いのでお願いするよ。先週は突然の休業だろ。体が凝ってて」


「すみませんでした。サービスで安くしておきます」


 米山は男の腰を上下に往復して強く揉みしだく。


「あっあっあっ! うーん! あっ」


「どうですか?」と言いながら米山はさらに力を入れた。


「最高だよ。もっと頼むよ。あっあっ」


 米山は表の仕事としてマッサージ店を経営していた。超人の力を活かした指圧が凝りを緩和させて諸症状を治しているのだが、同時に快楽のツボも刺激して顧客に快感を与えていた。このことから口コミが広がり、マッサージ店だけでもある程度の稼ぎを得られるようになった。


 米山が腰の一点に気の力で光る親指を押し付けた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 男の快楽の悲鳴が谺する。


 マッサージを終えると米山は店を閉めて外に出た。ソフト帽を被り、薄手のコートを着た米山は外階段をゆっくりとおりた。


 隣のビルの一階には大衆酒場チェーン「夜鳶軒」があり、仕事帰りのサラリーマンが吸い込まれていく。最近、店舗数が増えた居酒屋で町中華メニューも充実している。安い店ではあるが味が口に合わず数回しか行っていない。


 北口から立川駅を抜けて、南口まで歩いてきた。


 ふと米山が暗がりを見ると派手な服を着た三人の男たちが密談をしている。一際、派手な男の手が機械化されていた。戦闘用サイボーグ改造を施したヤクザの構成員だ。


 米山は舌打ちした。元々は死の年により大勢の負傷者が発生し、その中で手足の欠損や身体の障害を補助する目的で日本のサイボーグ技術は大きく発展した。さらにサイボーグ技術は軍事転用も考えられたが表向きは戦闘用サイボーグ改造は禁止された。しかし、裏ではヤクザや傭兵たちは合法に見せかけ、戦闘用サイボーグ改造を行っていた。その表と裏、両方でフシモリは利益を出していた。そのことが頭を掠め、怒りを感じつつも振り払うように米山は先へ急いだ。


 夜の南口をさらに人波をかき分けて進む。脇の小道に入ると壁には室外機が並び、地面をネズミが駆けまわっていた。奥へと進み電飾看板「愛」と書かれた店に入った。


「あら、よねちゃん、いらっしゃい」


 新伝台しんでんだいと書かれたネームプレートをさげた五十代の派手な化粧をしたホステスが出迎えた。


「やぁ、アヤコちゃん」


 米山は新伝台アヤコに笑顔で返し、カウンターに座ると隣の赤いスーツの男に話しかけた。


「ありがとうな」


「良いよ。米山さん、あんたらの仕事はやりがいがあるからね」


 赤いスーツの男、五次安ごじやすスミセツは自慢げに言った。


「で、どうだった? 目安ぐらいはついたか?」


「なめてもらっちゃ困りますよ。ちゃんと特定してますよ、俺を誰だと思ってるんです」


 そう言うと五次安は爬虫類のような顔に笑みを浮かべ、カウンターの上に写真を置いた。盗撮したとおぼしき、荒い画像には若い男が写っていた。


「手口から情報を探ってたら出てきましたよ。こいつは接者せっしゃルシル。色々と過去にやらかしていますが・・・・・・フシモリの力でチャラにされて使われてる下っ端でしょう、それでも実力は認められてるから下級生なんでしょうけどね」


「いつもの手口だな。超人として覚醒した者に目をつけて、罪を犯していれば帳消しにしてスカウト。そしてフシモリのエージェント、下級生として使役する」


「米山さんの弟もそうでしたからね」


「エニシは下級生のさらに下っ端だった。奴らのやり口に耐えられず逃げたが殺された。許せないよ・・・・・・俺のことは良い。この接者だが居場所はわかるか?」


「まだ特定できてないです。ただ、ナイカというクラブに頻繁に出入りしてるという話です」


「それだけわかれば上等だ。後は奴が犯人かどうか確かめるだけだ。助かる」


 米山は封筒を五次安に渡した。五次安は受け取ると中の札束を確認し頷く。


「毎度ありがとうございます。今後ともこの情報屋を贔屓にしてくださいよ」





 町田区一番街「クラブ・ナイカ」。


 ズンチャカズンチャカ、フロアに重低音が鳴り響き、レーザー光が飛び交う。派手な格好をした若い男女が踊っている。


 スーツ姿の高取はもの珍しそうにあたりを見渡した。クラブには学生時代に数回行っただけで慣れていなかった。横に立つ米山が高取を小突いた。


「あんまり来たことないようだな、これも訓練だ。自然にフロアに溶け込むめよ」


 米山が笑いながら高取にジンを渡した。


「米山さん、いくら接者を探すためとはいえ、良い歳した男二人がクラブにいたら浮きませんか?」


「バーカ、良いか、俺たちは酔ったサラリーマンだ。ナンパに来たふりをする。そうしてれば怪しまれないよ」


 米山はそう言うと辺りを物色した。奥のテーブルに踊り疲れて酒を飲んでいる若い女性二人へと目を向けた。


「高取、あの二人に声をかけろ、一杯奢りますとか、乾杯しましょうとでも言うんだ」


「はぁ、わかりました」


 高取は米山と連れ立ち、若い女性に近づいた。二人とも二十歳頃でロングカーディガンを羽織っている。


「すみません。乾杯しませんか? 奢りますよ」


 高取が言うと二人は横目で見るなり、冷たい視線を向けた。


「いいです!」と二人が吐き捨てるとテーブルを離れた。何かを言いかけようとする高取の肩に米山は手を置いた。


「もう良い、あんな奴らどうでも良い、次だ、次」


 高取は当然、調査の為とわかってはいたが良い気分ではなかった。それからも周囲に溶け込む為と思って声をかけ続け、その度に断られた。米山は慣れているのかどこ吹く風だ。高取は奥に座る仕事帰りと思われる二十代の女性二人組に目をつけると意を決して声をかけた。


「すみません。乾杯しませんか? 奢りますよ」


「えー、どうする?」黒髪のおとなしそうな女性が隣にいる茶髪の女性に確認をしている。


「本当に奢ってくれんですか? なら良いですよ」


「ありがとうございます」


 茶髪の女性がそう言うと高取はようやく安堵感を得た。その時、すかさず米山が高取を押しのけるようにやってきた。


「おー、後輩がごめんねー、二人とも可愛いねー、何飲みたい」


 米山が鼻息荒く言うと女性達二人組が顔をしかめた。高取は空気が変わるのに気づいて米山を小突いた。


「・・・・・・あっ、そういえば次の約束あったよね」


 黒髪の女性が言うと茶髪の女性も頷いた。


「そーだったね、ごめんなさーい、私たちいかなくちゃ」


 二人組はそそくさとその場を後にした。


「くそ、なんだあいつら」


 米山が舌打ちして吐き捨てた。


「米山さん、まさかとは思いますがここで本気でナンパしようとしてませんか? それに本当にクラブでナンパとか成功したことあるんですか?」


 米山が高取を睨んで肩を叩いた。


「そんな訳あるか! 調査だよ、調査、それに俺は昔はモテてたんだ」


 そう言うと米山はカウンターに酒のおかわりを取りに行った。結局この日、接者は現れなかった。


 それから高取は仕事が終わるや米山と何度もナイカに通って情報を収集した。しかし、接者は現れずに一週間が経った。この日も二人はナイカに通っていた。


「見てみろ。あそこのサラリーマンは失敗するぞ」


 高取はスクリュードライバーを飲みながら米山の言う方に視線をやる。ちょうどサラリーマン二人組が女子に振られていた。


「私もそう思いました。短期間ですがだいたい流れがわかってきましたね」


「よくわかるようになったな。俺が鍛えただけはあるな、良いか・・・・・・!?」


 米山が入口に目線を向ける。高取も同じように目線を向けると瓶のビールを飲みかけた手を止めた。一人の黒いコートの男が目に入った。男はウルフカットだが頭頂部の髪が膨らんで大きくなっている。


「接者・・・・・・ですね」


 入口にいる接者はあたりを見渡していた。高取と米山はダンスフロアへと移動し踊る若者に紛れた。接者がバーカウンターに移動し、エールを頼むと周囲を見渡している。


「今日はここで奴の動きを見張り、尾行して巣を確かめる」


 高取の耳元で米山が呟いた。


「巣ですか気付かれませんか?」


「俺にまかせておけ」


 高取は踊る人の隙間から接者の行動を観察した。接者は酒を飲みながらも女性の動きを注視しているようだ。話しかける女性もいるがほとんど無視をしている。接者が若い真面目そうな男と派手な女に顔を向けると近づいていった。


「何をしようとしてるんですか?」


 接者は派手な女の脇を通りすぎた。一瞬、女の頭を指で一突きするのが見えた。派手な女が若い男を置いて頭をさすりながらトイレに向かった。


「何だ!?」


 高取は米山と顔を見合わせた。接者が何かをしたのだろうか。



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