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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part1
10/11

10 フィスト・オブ・ヴォリューミナスヘアード・下級生①

高取と米山の共同任務と大企業の影。10~12まで続きます。





 日野区万願寺の近くにある小さなアパート「フラン」。


「やっぱりだ! くそったれ!」


 電話を切った紙尾かみおステロウは妻のマルメに向かって言った。


「あなた、どうしたの?」


「今、街路がいろさんから連絡があった。ヒロコが通っていた保育園の土壌を分析してもらったら微量のハチマルという物質が検出された。これでヒロコの死因がフシモリだと証明できる!」


 ステロウとマルメの娘ヒロコは昨年、幼い子どもの心臓が急激に弱り、死に至る原因不明の奇病により五歳の若さで命を落とした。ヒロコの通う「イモヌキ保育園」ではこの四年で数十人が同じ病により亡くなっていた。遺族たちの中には四年前に保育園の隣にできたフシモリの関連企業フシモリテックの工場が原因だと訴える者もいた。


「街路さんに話を聞いてくる」言うなりステロウは家を飛び出し、家から十分ほど歩いたところにあるアパートへと向かった。階段を上がり、四階の街路という表札のドアを叩いた。


「よく来てくれました」


 ドアが開き、街路ジュリオがステロウを笑顔で迎えた。街路の息子トウタはヒロコと同い年で家族同士も懇意にしていた。しかし、トウタを奇病で亡くすと街路は原因を探すことに執念を燃やした。それにより街路は妻と意見が別れ離婚。一人で原因を探していた。その半年後にヒロコが亡くなり、ステロウも街路と協力することになった。


 二人は畳に腰を下ろす。街路が丸い机の上に紙束を置いた。


「知り合いに学者がいてね。そいつに頼んで保育園とその付近から採取したものを各々調べてもらったんです。そうしたら、土壌からハチマル粒子が見つかりました。こいつはハグレレアメタル加工で発生するガスが大気中で科学反応を起こし粒子となったものです。成人には影響が少ないが小児がこの粒子を吸い込むと血管の健康を損ない心臓病を発生する可能性が高いみたいです。フシモリテックもハグレレアメタルを扱っています。これで奴らと戦えますよ!」


 目の下に隈を作った街路が捲し立てた。


「そうですね! でも街路さん、フシモリは近隣への地域貢献として保育園に援助金をだして、遺族にも金をばらまいている。慎重に進めていきましょう」


「わかっていますよ。でもこれでようやくわかった。四年前の工場建設当初から地域支援を行っていたのは最初からこうなることを知ってたんだ! 汚い奴らだ!」


 街路とステロウは今後の対応を話しあい、ステロウは街路の家を後にした。





 ステロウはサバ缶の訪問営業を終えて、家に向かっていた。


 ブーブーブー、携帯端末が鳴った。マルメからだ。


「はい」


『あなた、大変よ! 街路さんが自殺したって!』


「なんだって!?」


『詳しいことはわからないんだけど、昨日の夜アパートから身を投げて亡くなったそうよ。遺書も見つかったって・・・・・・』


「そんな・・・・・・」


 ステロウは呆然としたように立ち止まる。


「これからフシモリと戦えるって時に自殺するなんて・・・・・・。そんな雰囲気はまったくなかった・・・・・・まさか!? フシモリが!?」


『あなた・・・・・・』


 ステロウは家へと急いだ。


 ハチオウジモノレールに乗り、万願寺駅につくと階段を駆け足で下りていった。


 ステロウの反対側から階段を上がってくるウルフカットで頭頂部の髪が大きくふくらんだ若い男がいた。特徴的な髪形で黒いコートを着ているその男がなぜか気になった。


 階段の中ほどですれ違う。若い男が突然スッと寄ると上げた手がトン、とステロウの右胸に当たった。


手芹蛇練できんじゃね


 男が小声で呟いた。


「あうっ!」


 軽く手が当たったにも関わらず一瞬、激しい痛みがステロウを襲った。


「すみません」


 若い男が言うのを無視して、ステロウは階段を駆け下りた。ステロウは右胸を押さえながら家に着くと出迎えたマルメに詰め寄った。


「マルメどういうことだ?」


「さっき近所の小林さんと話してた時に聞いたのよ。大変なことに・・・・・・あなた胸を押さえているけどどうしたの?」


「いや、階段で人にぶつかってから痛くて・・・・・・それよりもこの前に会った時、街路さんは死ぬような状態じゃなかった。ハチマルの検出でこれから戦おうとしてたんだ」


「あなた、まさか・・・・・・」


「ああ・・・・・・奴らがやったんじゃないかと俺は思っている。このタイミングは変だ。くそったれ! 奴ら・・・・・・!?」


 ステロウが苦しげに右胸を抑えだした。


「あなた! どうしたの?」


「痛い・・・・・・胸が・・・・・・うぐっ」


 ステロウは口から血を吐くと床に倒れた。


「あなたぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 マルメの悲痛な声を聞きながら、ステロウの意識は途絶えた。





 玩具工場でおもちゃの猿を組み立てる仕事が終わるとマルメは家に帰った。マルメ以外誰もいなくなった家で一人、安い日本酒を飲んでいる。


『・・・・・・ハチオウジ市内で先月から連続して発生した爆破テロについてドウナッテシマウノカと名乗る集団が犯行声明を出したとのことです。詳細については捜査の関係上明らかにされておりませんが政府に対しての挑発的な内容を含むとのことです。続いてのニュースです。タマ動物公園で先日生まれたライオンの・・・・・・』


「うるさい」


 酔ったマルメは現実離れしたニュースに苛立ちを押さえられずテレビを消した。


 あの日、ステロウは帰らぬ人となった。警察には肩がぶつかった男を調べ欲しいと懇願するが黙殺され、病死として処理された。マルメは立て続けに娘と夫を亡くし失意に暮れると共にどちらも影にフシモリがあると確信し、激しい怒りを感じていた。


 酒などほとんど飲まなかったが、ヒロコの死後からやりきれない思いを流すかのように飲みだし、ステロウを亡くしからは更に量が増えた。


 ピンポーン、飲み始めたばかりでまだ冷静なマルメは夜の来訪者に苛つきながら玄関へ向かった。


「どなたですか?」


「夜分恐れ入ります。矢迷値と申します。ご主人の件で協力できると思い伺いました」


 不審に思うもついドアを開けた。そこには黒いソフト帽を被った小太りの男が立っていた。


「ご主人の仇を討ちたいと思いませんか?」





 BARヤギ。高取はカウンター内で話す米山に視線を向けた。


「先月、紙尾ステロウという男が突然胸の痛みを訴え死んだ。紙尾の右肺の組織は強烈な力で破壊されていた。それなのに特に事件性もないということで病死扱いになったんだ。だけど、奥さんが言うには家に帰る時に駅でぶつかった男がやったという。紙尾は娘ヒロコが病気で亡くなり、原因を探っていた。そして、協力していた街路ジュリオという男は自殺している」


「つまり、その娘さんが亡くなった原因がこの不審死に関わっているということですか?」


 高取はウイスキーのロック飲みながら言った。


「そうだ。その原因は・・・・・・」


「フシモリだ」


 米山の発言を遮って後藤が言った。


「私の情報網で今回のことを知った。それで米山に遺族の紙尾マルメに接触するよう指示した。今回の事件はフシモリによる隠蔽工作の一つだろう。紙尾ステロウの右肺が破壊されたのは即死レベルのものだが、家で突然発生している。街路ジュリオも投身自殺だが、解剖情報を見せてもらうと転落した衝撃以上の力が胸を破壊していた。これは・・・・・・超人による犯行だ。警察はフシモリの圧力で知っていながら闇に葬ったんだ」


 米山は後藤に頷き、再び話し始めた。


「後藤さんの言うようにこの件はフシモリが関わっているよ。奥さんの話だと二人が死ぬ少し前に保育園からフシモリテック由来のハチマル粒子を検出した。これが小さい子供に心筋梗塞を起させた証拠になると街路は紙尾は突き止めたんだ」


「フシモリですか。彼らの強引なやり口や企業間の闘争による歪みはハチオウジの至る所で起きてます。こうやって悪事を揉み消してたんですね・・・・・・」


 高取はフシモリによって理不尽に殺された人々を思うと怒りが沸いた。肩がピクピクと動いた。


「前にも何度かフシモリの使役する超人を葬ったことがある。奴らはこのハチオウジ市を巨大な権力で支配していて何人も消されているわ」


 コールマンが高取に吐き捨てるように言った。コールマンの表情から憎しみが伝わる。


「紙尾マルメさんからはご主人を殺した奴を始末してほしいと依頼を受けた。本来であれば娘さんを死に至らしめたフシモリへも制裁をしたいところだが・・・・・・」


 米山は悔しげにうつ向く。高取も同意するが疑問が浮かんだ。


「一つ良いですか? 今回のことを考えると・・・・・・後藤さんはフシモリが関与している事件を逐一調べているんですか?」


「今は彼女の依頼を完遂することを考えろ。言えることがあるとすればフシモリはこのハチオウジに巣くう巨大な悪だ」


 後藤が淡々と言うとカウンター内の米山が拳を握りしめているのが見えた。高取は直感的に彼らとフシモリの間には何かあると感じた。だが、今は話す気はないようだ。後藤の言うように依頼を完遂することに集中すべきだろう。



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