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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

他者理解なんて無理だよ

作者: レモンイカ

グロいです。悲しいし、鬱になりそうな変な話です。なんとなぁく書きました。楽しんで頂けると光栄です。

 よく、「人を殺しそうだ」と言われた。

 どんなだよって思うよね。でも、僕が喋るたびに、行動するたびに、「いつか人間を殺しそうだ」って言われた。

 確かに、何かを殺すのに快楽を覚えた。魚、亀、猫。中が見えたり、ビクビク震えながら動かなくなったり、感触が変わったり。その変化が面白くて、楽しくて。ペットにも手をかけた言い訳には少し苦しいが、そういう体質だったのだ。

 でも。人は殺さないと思った。流石に捕まるし、次は僕が殺されてしまう。そんなことはしない。でも。でも。


 僕が最初に殺したのは、殺した人間は、僕自身だった。


 夢を見たんだ。妙に現実味の有る夢で、僕は思った。いつか、やるって。誰かを殺して、自分も殺されるって。怖かった。自分以外に自分を殺されるのが。だから。


 僕は、自殺した。


 僕は、目の前の死神にそう語った。死神はコクリと頷くと、僕を連れて、上へ上へと昇っていった。


 連れてこられたのは、天国でも地獄でもない場所らしい。死神は僕に、ここで45日過ごすようにと言った。よく分からない空間で、霧がかかっているようで、湿っていなくて、雲の上のようで、天国ではないらしい。よく分からないが壁は有るようで、白い正方形の壁に囲まれた中にいるようだった。

「ここは?」

「自殺した人が来る場所です。」

「僕の他には誰もいないようだけど。」

「1人一部屋ございます。」

ふうん、と返事をしながら、部屋を眺める。特に何も無い部屋だった。何もなさすぎて、ここで45日過ごすのは、とても辛そうだと感じた。

「布団やベッドもない。本当にここで45日過ごすの?」

「貴方はもう死んでいらっしゃいますので、眠る必要がないのです。ただ、貴方は夢を見ます。」

「夢?寝る必要がないのに?」

「貴方は、言い換えれば永眠しているので、いつでも夢をみられるのですよ。」

そういうものか、と色々諦めた。僕は本当に死んで、色々変な場所に来たらしい。

「夢って、どうやって見るの?」

「睡眠中の夢と同じです。見たいものが見たい時に見れる訳ではありません。」

「もし見れなければ、僕は退屈で、45日もしない間にまた自殺してしまいそうだよ。」

「してもよろしいですよ。また死神による事情聴取が始まり、この部屋の45日がリセットになるだけです。」

「僕はもう死んでいるのに、また死ねるのかい?」

「貴方が望むなら、幾らでも。」

話せば話すほど、変な気持ちになる場所だった。死神もそうだ。話せば話すほど、訳が分からなくなる。

「夢…かぁ…。」

夢の内容を人に話せなくなったのは、いつからだろう。


 ふと気がついたら、何故かハンドルを握っていた。自分はトラックの運転席にいるらしい。 

 先程までの部屋は消え失せ、死神が助手席に座っていた。

「なるほど、これが夢か。」

「左様です。」

どうやら夢をみると、その夢の中に入る仕組みらしい。よく分からないが。

「なんだか見覚えが有るなぁ…。ああ、思い出した。こんな夢を、昔見たよ。」

「察しが良いですね。ここで見る夢は、全て貴方が生きている時に見た夢や物事です。」

と言うことは、もうすぐ僕は事故を起こす。

 キキーッという音が、妙にリアルに耳に響いた。ドンッという衝撃も、しっかりと届いた。夢通り、僕は血だらけの血だるまになった。

「最悪だ。服が濡れた。」

「貴方は、」

「死んでいるから意味なし、でしょ?」

幸い、痛かったり辛かったりはない。本当に夢の中のようだった。


 血だるまになったのも束の間、次は銃を握りしめていた。死神も同じく。

 この夢は確か、何かに追いかけられる夢だ。何かは忘れたけど。後ろに向かって、銃を一発ぶっ放す。デフォルメすると「ガォー」って声が聞こえて、僕と死神は前に向かって走った。

「そういえば、何に追いかけられたのか、夢の中で分からなかったんだよなぁ…。」

後ろを振り向いても、暗闇が広がるばかり。どうやら夢の中では、生きてる間に見たものしか再現できないらしい。走って走って走って、僕らは気がついたら、白い部屋に戻ってきていた。

「なるほど、これは退屈しようがないね。」

「お喜びいただけて何よりです。」

死神は、45日の間は僕と一緒にいるらしい。つまらないだろうに、仕事なのだという。僕は別に、いても居なくても同じだと思った。だってこいつ、ゲームのキャラクターみたいなもんだし。聞けば答える。聞かなければ何もしない。つまらないヤツだ、と僕は思った。


 ある日、僕は警察官だった。ある日は自衛官。ある日は学生。そして、昔…僕が小学生だった頃の夢をみた。

 僕がいる教室には夕日が差し、僕の他の人は帰ってしまったようだった。僕の手には、流し場を洗う用の洗剤があった。食器用洗剤に近いものだった。蓋は軽く、捻ると大きく開いた。

 僕はそれを、クラスで飼っていた亀の水槽に注いだ。

 別に悪意は無かった。ただ、どうなるのか気になった。悪い事とは思った。だから、バレないようにやった。

 そのまま僕は帰って、翌日亀は死んでいた。

先生は、冬眠できなかったからだと言った。先生が洗剤に気づいていたかは分からない。でも、もし気づいていても、言わないだろうなぁ、と確信めいたものがあった。

 夢の中で死神は、先生になっていた。

「なんで殺したんですか?」

初めて、死神から声をかけられた。

「別に悪意はないよ。…悪い事とは思ったけど。気になったんだ。どうなるかなぁって。」

言い訳のように、少し早口で言った。死神は、そうですか、とだけ言って、この夢は終わった。


 ある夢で、僕は中学生だった。このときは確か、野良猫を殺したんだ。口から少し泡のような唾液が出る猫の死骸を両手に持って、僕は下校の道から外れた路地裏にいた。確かこの後、友達に会うんだ。その友達に怒られて、罵られて、猫の死骸を奪われる。そしてその友達は、学校に来なくなるんだ。

 死神は、その友達になっていた。

「なんで、殺したんですか?」

同じ質問をされた。

「中が、どうなっているのか気になった。帰ったら、解剖しようと思ってたんだ。」

今度は、ゆっくりと答えた。あまり、いい夢では無かった。


 そうこうしながら、段々と日は過ぎていった。ある日は、白い部屋の中で過ごした。ある日は、銃撃戦に巻き込まれながら過ごした。またある日は、幼稚園の夢をみた。

 段々と日は過ぎ、今日で43日目だと知らされた。

 今日は夢をみていなかった。ただ、白い部屋の中に、死神と一緒にいた。

「なんで、自殺したんですか?」

死神は、もうゲームのキャラクターのように、聞かれたことに答えるだけではなくなっていた。ただ、質問を繰り返すようになった。面白味も、代わり映えもしない質問ばかりだった。少々つまらなささえ感じるそれに律儀に答えたのは、死神がいなくなったら1人になってしまう、という強迫感があったからだろう。

「最初に言ったでしょ?殺されたくなかったから。」

「貴方は殺すのに?」

「人は殺さないよ」

「なら、貴方も殺されなかったはずですよ」

「僕ね、殺されるのは何にでも嫌だったんだ。昔から。病気でも、老衰でも、事故でも死にたくなかった。いつか自殺したいって思ってた。あの夢は、きっかけに過ぎないんだよ。」

ふと気がつくと、その夢の中にいた。

 僕は笑っていた。血の雨の中で。ふと、1人の兵隊がこちらに銃を向けた。僕は気づいていない。彼が引き金を引くとほぼ同時に、僕は倒れた。

 たったそれだけの夢だ。それだけの夢で、僕は死んだ。でも、僕は満足している。それが僕の夢だったから。

「45日まで、あと2日かぁ。」

どんな夢をみるんだろう。段々と、精神が辛くなってきている気がした。


 次の日見た夢は、ペットを殺した時の夢だった。真っ白な猫だった。タヌキのように太っていて、撫でるとゴロゴロと喉を鳴らした。だから、僕が首に手をやっても、目を細めて喜んでいた。野良猫より、抵抗は少なかった。

「なんで殺したか、でしょ?」

いつの間にかいた死神に、声をかける。

「言って意味あったの?今まで。分かった?僕の言ってる言葉の意味。どうせ犯罪者思考だとか思ってたんでしょ?」

死神は答えなかった。ただ、僕の隣に突っ立っていた。

「他者理解が不能だから排除する。簡単な事だよね。僕らにとっての本気が、他人にとっては理解不能で耳を防ぐしかない戯言でしかない。だから殺す。世界から追い出して、死刑にする。仕方ないよね。理解不能なんだから」

死神は、そうですか、とだけ言った。段々と腹が立ってきた。どうせこいつが居なくなってもあと1日だ。1人でいい。いや、今は1人になりたかった。

「そろそろ君も飽きたでしょ?ああ、仕事だから居るんだっけ?少し位サボってもバレないよ。まぁ分かりやすく言うと、君が邪魔なんだ。消えてくれない?」

そこまで、段々と早口になりながら言った。嫌になった。何もかも。ここで45日過ごすのも、段々と嫌になっていた。あと1日。だから耐えようと思った。それでも、1人になりたかった。

「分かりました」

よく分からないが死神は消えた。仕事を放棄したのだろうか?別にどうでもよかった。ただ、1人になれたことに嬉しくなり、逆に、寂しくもなった。


 次の日の夢は、僕が死のうと思った日の夢だった。確かその日は、ただただ死にたかった。理解は求められないと思う。でも、誰にも分からない事にも苛つくような、よく分からない、気持ち悪い感情があった。

 洗面器に、塩素系の洗剤を入れる。亀の水槽に注いだように。続いて酸性の洗剤。混ぜるな危険を、ゆっくり混ぜていく。

「なんで自殺するのか、でしょ?」

誰も居ないのに、独り言で呟く。確か、本当に死ぬ時もそうだった。なんとなく、何も喋らずに、誰にも伝えられずに死ぬのが嫌だった。独り言だから誰に伝わるも無いのに、自殺だけは、殺しの中で唯一怖かったのかもしれない。

「僕が死のうと思ったのは…。」

考えれば、いっぱいあった。悪くなってた親との関係。馴染めない学校。下がる成績。積もってた罪悪感。でも、どれも言いたいことでは無かった。

「…なんでだろうね。」

呟いて、咳き込んだ。肺が痛かった。塩素が発生していた。もう十分で、僕は死ぬ。

「死んだほうが、いいんじゃないかって思ったからかなぁ…。」

社会的にも、自分的にも。確か、死ぬ間際、僕は泣いていた。多分生理的なものだが。塩素で塩酸にでもなったのか、とても苦い味がしたっけ。


 45日の終り。

 僕は1人、部屋の片隅で座り込んでいた。無気力、というのが似合っている。自殺前日を思い出す。

 ふと、前を向く。死神は消えている。何かしたい訳でも、悲しい訳でもない。ただ、涙が流れる。


 45日の終り。僕は、1人で、ゆっくりと落ちていった。











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