ふなばし猫の恩返し(たぶん)
船橋に住む冴えないサラリーマン、佐藤健太は、ある雨の夜、駅前のコンビニでずぶ濡れの黒猫を見つけた。痩せて弱っているその猫を放っておけず、健太は家に連れ帰り、温かいミルクを与えた。猫はゴロゴロと喉を鳴らし、健太の膝の上で安心しきっている。
数日後、猫はすっかり元気になった。つぶらな瞳で健太を見つめる姿が可愛らしく、彼は「クロ」と名付けて飼うことにした。クロは賢く、健太の言うことをよく理解する。
ある日、健太が仕事から帰ると、クロが玄関でソワソワしていた。そして、彼の足元に、見慣れない小さな包みを置いて、ニャーニャーと鳴いている。包みを開けてみると、中にはピカピカの100円玉が五枚入っていた。
「クロ、これは一体…?」
健太が不思議に思っていると、次の日も、その次の日も、クロは毎日五百円分の小銭を彼の足元に届けるようになったのだ。最初は驚いた健太だったが、毎日続くので、さすがに気味が悪くなってきた。
「一体どこからこんなお金を…まさか、近所の賽銭箱でも荒らしているのか?」
心配になった健太は、クロの行動を観察することにした。すると、クロは毎晩、健太が寝静まった頃にこっそりと家を出て行き、朝方になると何事もなかったかのように戻ってくることがわかった。
ある夜、健太はクロの後をそっとつけていくことにした。雨上がりの静かな夜道、クロはスルスルと路地を抜け、商店街の方へと歩いていく。そして、とあるパチンコ店の裏口に忍び込むと、しばらくして、またスルスルと出てきた。その口には、何やら小さな袋が咥えられている。
健太が物陰から様子を見ていると、クロは家に戻ると、その袋から100円玉を取り出し、いつものように健太の足元に置いたのだ。
「まさか…この猫、パチンコで稼いでいるのか!?」
健太は目を疑った。猫がパチンコをするなんて、そんな馬鹿な話があるはずがない。しかし、現実にクロは毎日お金を持って帰ってくる。
次の日、健太は思い切ってクロに話しかけてみた。「クロ、お前、一体どうやってお金を手に入れているんだ?パチンコなんて、猫ができるわけないだろう?」
すると、クロは健太の言葉をじっと聞き、ゆっくりと瞬きをした。そして、前足で床をトントンと叩いた後、玄関の方へ歩いて行き、ドアをカリカリと引っ掻いた。
「もしかして、外へ行けばわかるのか?」
健太はクロについて玄関を出た。クロは夜の街を先導するように歩き出し、二匹(と一人)は再びあのパチンコ店の裏口へとやってきた。
クロは裏口の換気扇の下に座り込み、ニャーニャーと鳴き始めた。すると、中から若い男性が出てきて、クロに何か小さな袋を手渡した。クロはそれを受け取ると、また健太の元へと戻ってきた。
健太が男性に声をかけると、彼は苦笑しながら事情を説明してくれた。「ああ、この猫ですか。うちの店の常連さんなんです。って言っても、パチンコをするわけじゃないですよ。うちの店、ネズミが多いんで困ってたんですが、この猫が来てから全く見なくなったんです。だから、毎日お礼に少しばかりおやつをあげてるんですよ。たまに、お客さんが落とした小銭とかも拾ってきてくれるんで、それも一緒にね」
健太は拍子抜けした。猫がパチンコで稼いでいるわけではなかったのだ。しかし、ネズミ退治と落ちていた小銭で、毎日五百円も稼いでくるクロの賢さには驚かされた。
それからというもの、健太はクロをますます大切にするようになった。クロは相変わらず毎日お金を持って帰ってくるが、健太はそのお金を猫用のおやつや新しいベッドのために使うことにした。
ふなばしの夜は、今日もまた、一匹の賢い猫と、ちょっと間抜けな飼い主の、温かい物語をそっと見守っている。そして、もしかしたら、どこかのパチンコ店の裏で、もう一匹、小銭を拾う猫がいるのかもしれない。
前にもこういった短編を出したため、ぜひ見てみてください!!