リザードマンの酒場と女騎士の夕食
今日の依頼はなかなかに大変だった。
海の奥地にある真珠を集めてほしいという仕事だったのだけれども、魔物が多くて苦戦した。
水中行動用のポーションを利用して、溺れないように活動していたのはよかったものの、私はそこまで水中戦が得意ではない。
そのため、いつもの数倍ほど疲れてしまった。
豪勢な食事が味わいたいほどに。
「そういえば……リザードマンの酒場が美味しい料理を出す、という噂があるな……行ってみようか」
リザードマン。
文字通りトカゲと人間の性質を両立している種族だ。街で見かけることも少なくない。
そんな種族の存在が経営している酒場。なかなかに興味がある。
「よし、今日はそこで夕食を取ろうか」
自分へのご褒美というのはいつだって大切だろう。
そう思い、私は行動に移るとした。
リザードマンの酒場。
そこそこの大きさの酒場には人が賑わっていた。
獣人、人間、リザードマン……様々な種族が賑わって語らっている。
働いている従業員はリザードマンとなっていて、店主らしい存在も当然リザードマンだ。
到着したのち、カウンター席が空いているのを確認して、私はそこに座ることにした。
「おう、嬢ちゃん、ひとりかい?」
「そうだな。私はひとりでやってきた。……気になることでも?」
「いや? ここを選んでくれるなら誰でも、どんな種族でも歓迎さ。ほら、メニューを選びな」
手渡されたメニューを見つめて、色々考える。
今日は海鮮系の魔物と戦うことが多かった。そういう縁で、海鮮系を注文するのもいいかもしれない。
しかし、それだけにするのももったいない気がする。少しは肉類も味わいたい。
海鮮、肉、そしてサラダ……こんな感じでいこうか。
「お茶を貰おうか」
「あいよ」
「あと、洞窟イカの炎魔術による照り焼きをひとつ」
「いいチョイスだな!」
「そうだな……暴れ牛の雷魔術のスパイスステーキも欲しい」
「それが主食だな!」
「そうなる。あとは、街の特産野菜サラダがほしい」
「毎度! じゃあ、早速注文を回しておくぞ!」
「ありがとう」
一般的な酒場などでは魔法による味付けは珍しいことも多い。
料理人が魔法を扱うスキルを持っているという状況はあまりないからだ。
ここの酒場では魔法による調理、味付けが為されるというのがわかったので、そちらのメニューを優先して頼んだ。
店主がお茶を手渡してくれたので、それを味わいながらくつろぐ。
周りの適度な会話する声が心地よい。
「しかし、嬢ちゃん、なかなか珍しいな」
「何がだ?」
「重装備じゃあないか。重そうだが……大丈夫なのか?」
「普段から鍛えてるからな。それくらいは問題ないさ」
「なるほど、そういうものか」
「ただ、今日の依頼はこの鎧で動くことはそんなになかったけどな」
「そうなのか?」
「海の依頼だったからな」
「なるほど、鎧のまま海には入れないと」
「よっぽど優秀な魔法金属でもなければ、錆びる危険も増えるし、なにより水の抵抗があるからな。鎧は使えなかったのさ」
鎧があった方が安心するかといったら、そういうわけでもない。
攻撃は受け流すことは基本として考えて、それでも失敗した時の対応として鎧で受けるということがある。
だから、鎧の有無はそこまで気にしていない。普段使いしている鎧は気に入っているけれども。
「……ん? そうなると、軽装備になっていたのか? 海の依頼は」
「まぁ、そうなるな。インナー……というか、水中行動用に適した装備を購入して行動していた」
「水着だな、ちょっとガチガチの鎧の中を見てみたかったかもしれないな」
「そこまで大層はないよ」
「どうだか。能ある鷹は爪を隠すみたいに、こう……中からすげぇの出てくるかもしれねぇだろ?」
「そこまで気になるなら脱ごうか?」
「おっと怖い怖い、遠慮するぜ。憲兵とかに訴えられたりしたら嫌だからな」
別に脱いだところで抵抗があるわけではないけれども、相手が警戒しているならやめておくのが無難だろう。
騒ぎを起こす為にここに来たわけでもないのだ。
「っと、来たみたいだぜ。まずはサラダだ」
「どうも、いただこう」
カウンター席のテーブルに一品、料理が置かれる。
街の特産野菜サラダだ。緑のレタス多めで、それ以外に様々な野菜があるみたいだ。赤いトマト、サラダチキン。そして知らない野菜もある。
ドレッシングで味付けされたそれらは、そんな味なのだろうか。さっそく食べてみよう。
「……比較的、酸っぱいな?」
ドレッシングの風味が個性的だ。
レモンのようなすっぱさというべきだろうか。それよりは味わいやすいものの、しゃきっとするような味わいのドレッシングを使ったサラダになっていた。
「そりゃそうだ。ザマシメの実を使ったドレッシングだからな」
「ザマシメの実か……なるほど、そういう味になるわけだ」
ザマシメの実。急激な睡眠状態を誘発させてくる魔物に対抗する為に使われやすい果実だ。
一口食べると、強烈な酸味、すっぱさが襲い掛かり、眠気がたちまち吹き飛ぶような味わいをしている。
「ザマシメの実は、絞るとその効用が強く出てくるのさ」
「効用?」
「疲労回復とか滋養強壮だな。あと、肌がつやつやになるらしいぜ」
「なるほど、ありがたいな」
次の仕事を頑張れるようになるだろう、いい料理だ。
しばらく味わいながら、サラダを完食したタイミングで、次の料理がやってきた。
「はいよ、次は洞窟イカの炎魔術による照り焼きだ」
「よし、いただこう」
洞窟イカ。
今日それなりに遭遇した魔物だ。
大きさは一般的な人間種族の身長の半分から同等くらい。私が今日戦ったのは大体私と同じくらいの大きさのものだった。
倒した洞窟イカの素材はある程度持ち帰っているので、なにかしら食べることもできるだろう。
一口食べて、味を確認する。
「……かなり濃い味だな、嫌いじゃない」
豪快に炎魔法で焼かれた洞窟イカ、その味付けは個性的だった。
甘い味わいの中に料理酒の風味がある。イカそのものの色合いが赤いタレのようなもので彩られていて、美味しい。
「こいつは異世界風のアレンジをしているのさ」
「異世界風?」
「別の世界から来た旅人がよく口にしていた祭りのイカ焼きってやつのレシピを参考に作ったのさ」
「なるほど、祭りか」
「どんな祭りかは知らねぇが、夏にこういうのを発売することが多いらしいぜ。なんだかすげぇよな」
「技術力の高さを感じさせるな」
どんな世界にもお祭りがあって、美味しい食べ物を提供している。
なかなかいいものだ。異世界に行く機会などそうそうないが、そういう知識を持っている冒険者なんかとは話がしてみたい。
イカ焼きを味わったのち、最後に届いたのはステーキだ。
「さて、これがメインメニュー、暴れ牛の雷魔術のスパイスステーキだ!」
「楽しみだな……じっくり食べるよ」
暴れ牛。文字通り、大暴れする魔物の牛だ。
獰猛な性格をしていて、家畜用として飼うのは非常に危険。大きな角を持って暴れまわった暴れ牛を止められる存在はそうそう多くない。
しかし、その肉はとても美味で、暴れ牛を討伐したのち、その肉を調理場に持っていって、食事をとる冒険者も数多くいる。
私も暴れ牛を討伐する依頼を受けたことがあるが、なかなか倒すのが難しかった。
今回のステーキはどんな味になっているのだろうか。
さっそく味わってみよう。
「これは……!」
口に入れた瞬間、ピリッとする感覚がやってきた。
雷魔法で焼いたから、その雷が残り続けているというわけではない。もっと、スパイスの効いた、独特な風味の味わいだ。
「美味しいっ」
様々なスパイスの味わいが口いっぱいに広がって、香ばしさを感じさせる。
その中で、味わえるこってりとした肉の味わい。嚙み応えがあり、味わう度に肉汁が広がる。
純粋にパワーを感じる味だ。とても、よい。
「こいつにはピリリの実をスパイスとして使っている」
「あのピリリの実を?」
ピリリの実。
雷魔法の媒体としても使われる、雷の性質を宿した木の実だ。
強い衝撃を与えると、相手を痺れさせることもできるので、弾丸として重宝されることが多い。
「あぁ、衝撃に気をつけながら、小さく細切れにするとなかなかいいスパイスになるんだ」
「なるほど……料理はアイデア次第で色々できるんだな」
「様々な文化や、知識を取り入れて味わいを豊かにするのが俺たちの仕事さ」
「なるほどな」
様々な料理を味わって、元気が貰えた。
これなら明日以降も頑張れる気がする。
「英気を養えたよ、ありがとう」
「そりゃよかった、また来てくれよな」
「もちろんだ、今度はまた別のメニューを味わうよ」
なにげない、生活の中で訪れる日常。
食事を味わう時間はいつだって楽しいものだ。
今度、自分で何か作るときは、お店の料理を参考にしてみたりするのも楽しいかもしれない。私にその技術があるかはわからないけれども。
酒場で過ごす夕食時。
のどかな時間が、なにげない幸せを感じさせてくれた。




