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003.襲撃

「なるほど...状況は悪化するばかりだな」


先行部隊の6人はギルド本部へ報告に行くと、本部長は深いため息をつく。今回の緊急要請はあくまで大量発生の解決、つまりは魔物の討伐だ。もし明確な悪意をもって人に仇名すのならば、また別の対処や調査が必要になる。


本部長のため息が止まらない。クラウスたちもイスに深く腰を掛ける者、頬杖をついてめんどくさそうにしている者、腕を組んで気難しい顔をしている者。皆それぞれの形で今回の件の重度を認識している。最初に口を開いたのはレーンだった。


「とにかく、ここで気を落としていても何も解決しない。それよりも今後どうするかを話し合うほうが先決だと思うね」


「話をするにしても、だ。情報は出ているにしても具体的な対処法は思いつかないのよな。ワシの魔素計量器も死霊術の魔素にあてられてイカれてしまったからのう」


数十の下位霊体を相手にしている間、ウォーグナーは魔素計量器で周辺を調べていたところ、死霊術の術式から漏れ出て残留していた魔素のせいで異常値をたたき出してしまい、そのせいで組み込んだ計測用の術式が破損してしまっていた。


本来なら術式を上書きするだけで正常に作動するようになる簡易なものだが、残留魔素を取り込んでしまったせいか上書きしても一向に直ることはなかった。皆が一様に唸りを上げていると慌ただしい足音が会議室の外から響き、止むと同時に勢いよくドアを開けた職員が大声を上げる。


「ほ、報告します!只今大量発生の一波がこのアルデミラに向かって侵攻を進めています!数は200、早急な対応が必要です!」


「なんだと!」


なんともタイミングが悪い、いやむしろ侵攻するタイミングとしては完璧だろう。今、ギルドの主要メンバはここにいる6名以外は出払ってしまっている。後続部隊に調査の中止を呼びかけ、この街に帰投を命じたとしても既にアルデミラに被害が出ているのは間違いない。


更には軍勢200。これはクラウスらが遭遇した町の壊滅に関わったメインの群れに間違いないだろう。だとすれば、単眼巨鬼クラスの魔物が先導していることになる。今このアルデミラに残っているギルドメンバは良くてBランク・Cランクパーティだけだ。


「明らかに狙ってるとしか思えねえな。どうする?等級Bランク以上の奴らは俺たちで相手するにしても...」


「数と質の問題、ですね。とにかく、片っ端からBランク以上のギルドメンバや魔物との戦闘・討伐経験がある傭兵団に声をかけるしかありませんね」


「一度このメンバでパーティの再編成をする。クラウス、アリア、レーン、ウォーグナーは早急に討伐を優先。メルテテとアルルは人員確保のために、私と一緒に来てくれ」


四人はすぐさま現場に急行する。このままでは街の防衛に手が回らず、住民や街に被害が出てしまうだろう。アルデミラは高々とした城壁に囲まれているが、200もの群れに総攻撃を食らえば無事では済まない。門番はいるが、行商人や来訪者の関門を担当しているだけで戦闘力は皆無に等しい。


事実、街の外に出ると門番は身を丸くして怯えているようだった。4人は丸い背中を横目に、臨戦態勢を取る。未だ視認は出来ないが、時期に相対することになるだろう。クラウスが自分の獲物の確認をしているとレーンが声をかけた。


「クラウス、こんな時にどうかと思うが僕からのプレゼントだ」


レーンが空間収納を施した鞄から取り出したのは光を反射することのない漆黒に、外装に蒼い装飾を施したガントレットナックル。表面には魔鉱が使われており、劣化防止と硬化の術式を施してあるため、多少、いや相当荒い使い方をしても問題ないだろうとわかる。


「僕の魔巧技師としての最高傑作だ。ウォーグナーにも錬成を頼んでいてね、硬度と強度はピカイチだよ。命名はさしずめ、常闇誘う装甲掌(ミッドナイト・ガント)ってところかな」


「また随分大層な名前だな、でもありがたく使わせてもらうぜ」


クラウスがガントレットを装備すると、キィィンという音とともに装飾が光りだす。心なしか体が少し暖かい感覚を覚える。レーンによれば魔力操作の補助魔法も組み込んであるらしく、保有魔力の少ないクラウスにとってそれはありがたいものだった。


通常魔法を使用する場合は一定量の魔力と魔法適性が必要になる。魔力が膨大であっても魔法適性がなければ魔力を魔法として放つことはできない。その逆も然り。たとえ魔法適性があったとしても保有する魔力が少なければ発動するための魔力が枯渇してしまう。


「俺は保有魔力も魔法適性も低いからな。魔力操作はありがてえ、これで効率よく身体強化とスキルに振れっから長期戦には持って来いだな」


「ただし、性能をふんだんに盛ったせいで肝心の攻撃力は君が使ってる獲物より劣る。更には重量も現行より1.2倍ほど重い。身体強化を使用する前提で作っているから、それだけ気を付けてくれ」


要は普段使いは出来ない代物ということだ。今回に限ってはかなり有効な武器になるだろう。ウォーグナーからも使用後はメンテナンスが必要になる旨を伝えられた。それだけ、強力であるということだ。全員が武装を完了し、いつでも迎撃可能な状態に態勢を組む。


今回のパーティで前衛を張れるのはクラウスだけ。いくら最高峰ランクパーティであっても200を超える軍勢を相手にするのは無理だろう。迎撃するにしても耐えられる時間はそう多くない。早めの増援がないとこの防衛ラインも突破されてしまうだろう。


「前方に敵視認!接敵します!」


城壁の高台からクラウスたちに向けて叫ぶ。目の前からは狂角魔猪(クレイジーボア)魔銀狼(ダイアウルフ)の群れが突っ込んできている。詳しい数までは把握できないが、大量発生の斥候部隊であることは間違いなさそうだ。


クラウスが前線を上げて威圧する遠吠(ハウンドスタンス)を打ち込み、駆け上がる。回避系スキルと攻撃系スキルを駆使しつつ後衛に魔物が向かわないよう連撃を叩きこむ。魔物の等級は精々Dランク程度だが数が多い。


村で対峙した下位霊体よりも多く、後続が控えているとなるとここでスキルを打ち続けるのは悪手だが、そうでもしないとアルデミラに魔物が流れてしまう。魔物の等級は飽くまで個体の能力に対してランク付けしているだけで、遭遇戦や混戦では地形や、環境、数など色々な要因で等級以上の戦闘を求められる。


事実、クラウス一人ではこの数を相手にするのはどれだけ多対一が得意だと言っても限界がある。これ以上はクラウス自身が持たないし、前衛が潰れればアルデミラに被害が及ぶのは言うまでもない。ただし、後衛が優秀であれば話は別だ。


癒樹の鼓動(ヒーリングビート)!」


癒樹の鼓動(ヒーリングビート)。回復対象者の心臓の鼓動に合わせて継続回復(リジェネ)効果を付与する回復術師の技。自然治癒の高速化を行うことで、この程度の魔物の攻撃ならば受けた分はすぐ回復してしまう。持続効果は熟練度によるが、アリアはその持続効果が人一倍長い。


本来は長くても3分程度だが、アリアのそれは一度かけてしまえば一戦闘を耐えうるレベルだ。彼女の固有スキルである旋律の調和(ハルモニア)は永続魔法や継続回復術の持続効果を跳ね上げる効果をもつため、一人で数人分の回復術師を賄えてしまう。


「魔力操作と使用魔力の効率、さらには持続効果の大幅強化。いつ見ても美しいね、一度君にもテスターとしてデータを取らせてもらえるとありがたい」


「私専用の武具や装飾品を作ってくれるのならやぶさかではないわね」


レーンはもちろんだともといい、戦闘中にも関わらず魔力観測器でアリアのデータを取り始める。膨大な魔力は扱いを間違えれば暴走し、歯止めが利かなくなってしまう。魔力暴走を起こせば最悪、魔法師としての生命線が立たれてしまうほどに。


それを完璧と言っていいほどに自身の魔力操作を行えている彼女はレーンにとってもいい観測対象だ。そして、アリアは縦続詠唱も得意とする。固有スキルと合わせた支援技はクラウスの立ち回りをより強化する。


「私が支援してあげてるんだから落ちたら承知ないわよ!」


暖かく、リズムを揺らす旋律に乗せて橙、紫、緑のノーツがアリアの周りを弾むように飛び交い、奏でる。その音はクラウスの体に溶け込み、小気味よく跳ねる。まるで羽が生えたかのように動きが軽く、あまつさえ対峙している魔物の動きが遅く見えている。事実、クラウスの回避速度、攻撃速度が格段に上昇しているのだ。


彼女の縦続詠唱の特性は旋律の調和(ハルモニア)の影響を受け、コンダクターが指揮する奏楽のようにメロディとして味方に作用する。軽々と飛舞する流浪人(ディベルティメント)は、魔力消費軽減と行動における速度の上昇効果を味方に付与する。


「いつ見ても素晴らしいですな、さすが戦場の支配者コンダクト・ジェネラル、アリア・ベネディの本領は」


「やめてよね、その二つ名。全然可愛くない。もっと私らしい華やかで可愛げのある名前がよかったわ」


裏で素晴らしいを連呼し続けるレーンを横目にクラウスの動きはより俊敏に、より早い連撃を叩きこんでいる。自身の身体強化も相まって、斥候部隊の数は見る見るうちに数を少なくしている。ウォーグナーたちはそれを見ながら次に流れる後続の本部隊との戦闘に向けて準備をしていた。


「魔法攻撃が出来る奴が裏にいればもっと楽なんだけどよぉ、俺だけ大変すぎじゃね?」


「あんたが一番に体を張るのは今に始まったことじゃないでしょ、私が後衛をやってあげてるんだから文句言わないでくれないかしら?」


後ろの地獄耳には彼の発言を逃がさなかった。戦闘中、ましてや様々な音が飛び交う中クラウスの言葉を一言一句聞き分けているのは彼女がコンダクターと言われる所以でもある。数も残り少ない。第一波はもう既に耐えきったと言って間違いないだろう。流石はAランクパーティと言ったところか。いや、寧ろこの程度は出来てくれなければ困る。それが最高峰ランクを保持する者の責任だからだ。


「へーへー、そうでしたそうでした。んじゃあ残りも蹴散らすぜ!」










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