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1-7話 お気をつけて、お客様。


「よかったあ〜」

安堵し箱を抱きしめてトイレを出て店長達に見せると店長は「なんだ、あったじゃ〜ん」



焦った〜と気を張って抜けたのか苦笑して脱力していた。



ウエイターはそれを見てまたやれやれみたいなジェスチャーをする。



「大変お騒がせしました・・・ 」

二人に謝る。



「まあ、見つかってよかったじゃない」

「俺、マジで警察突き出さるとこだったし」

二人が気を遣った返事や、自己を安否する感想は様々な言葉をかけられる。



「それでさ、どうするの?」

と店長が率直に質問しウエイターが

「またすぐ無くすんだろ。付けとけよ」

と指輪を付けるように促す。



「うん」

まだ、結婚は未知の世界だ。



(でもこの先、周吾が別の人といるのは嫌だ)



箱のリボンを外し蓋を開ける。

え、ここで付けるの?と店長はそんな顔をしていたが。



丁度いい。



二人が証人だ。



指輪を自分の左手の人差し指に付ける。



「ピッタリじゃん」

ウエイターがニヤッと初めて皮肉を言われた以外の笑顔を見せた。



「まあね」

と言うと「帰り無くすんじゃねーぞ」とまたウエイターに小声を言われ、それに対し店長は「お前は彼氏か?」とツッコんでいた。



店を出た時は陽はとうに落ちていた。



駅にはスーツを着ている人が見られて私みたいに呑んだ人や残業明けの人達なのだろう。



電車を待ちながらふと指輪を見る。



光る「それ」を見つめて「綺麗・・・ 」とやっと今度はプロポーズの時とは違う素直な感想を呟いた。



まだ怖い。



でも無くすのも怖い。



やっと気づけた。当たり前だけど。



そんな事がやっと分かると「はあ〜」と思った以上に大きな溜息が出た。



周りにいた人がそれに少し反応したの、でついぺこぺこお辞儀をする。



人の視線を少し浴びた後だろうか。

妙に指輪が気になる。



さっき付けた指輪に、まだ胸が高まっているし慣れない。



そうなるとますます落ち着きがなくなり、指輪にみんなの視線がいった気になった。



落ち着け、自意識過剰だ。



誰も取ったりはしない。



そう思考を巡らせているとホームに電車が入って来た。



席に座る。



そして指輪のケースが入ったバッグを膝に置く。



中々この時間帯でも電車は混む。



車内は丁度良く暖かい。



それに合わせてお酒やらさっきの緊張がきてうつらうつら眠気が襲う。



やば、寝るかも。



そう思うとまた横に人が座る。電車は思ったよりスペースがないにも関わらず詰められる。



こうなると寝られない。



よからぬ事を考える。



(まさか横に座った人が寝てる間に指輪を盗るかもしれない)



いや、流石にそれは自意識過剰だけどまた失くしたりなんかできない。



ふと、さっきのウエイターの『また、無くすんだろ。付けとけよ』という言葉を思い出しソワソワとバッグを握っていた手を指輪に重ねる。



(無くさない!今度は絶対に)



決意すると電車は走行を開始する。



バッグの隙間からスマホのライトが光り通知を知らせる。



周吾からだ。


『久しぶりに飯一緒に行きたい』

彼らしい。



つい口角が緩む。



すかさず返信する。



『今日いいお店見つけたんだ。

クリスマスディナーあるから一緒に行かない?』



(今度は私が周吾を連れて行く番だ)



魔窟に行ったらどういう反応を彼はするだろう。



驚いて喜ぶ?それとも邪道だって気に入ってはもらえないだろうか。



そもそも出禁にはされないだろうか。



接客をしているから今日の自分は相当迷惑な客だっただろう。



そんな事を電車に揺られながら考える。



タタン、トトン。



列車は走る。もうすぐクリスマスだ。



街の眩しく光るネオンを見ながら、もう一度綺麗と思った。


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