幸せな魔法使い
ある日、世界で初めて本物の魔法が観測された。
皮肉にも世界初の魔法使いはテロリストだった。
初めて魔法が観測された3日後には世界の人口の6割が死滅していた。
各国への無差別な魔法での攻撃。
魔法を持たないただの人は、軍人も文民も、大人と子供ですら何ら差はなく。
ただ身を伏せて暴虐が通り過ぎるのを待つしか他にはなかった。
観測から4日後、第二の魔法使いが生まれる。
何故これまで魔法使いが生まれなかったのか、そして生まれるようになったのか、人々は自然と理解することになる。
魔法とは世界に抗い、世界を変える力であると。
たとえこの世界を破壊し尽くしてでも、この世界を変えてしまいたいと、強く思うことが魔法使いの最低条件なのだと。
魔法使いに幸せなものはいない。
全てを変えたいと思っているものが魔法使いになるのだ。
観測から1年後、人類に残された生存可能領域は二割にまで減っていた。
魔法使い同士の争い、魔法使いが世界を変えたことによる影響、魔法使いが存在することによる影響。
人間とは強いもののようだ。
世界が変わってしまっているのだから今生きているのは既に人間ではないのかも知れないが。
それでも人間たちは、変わってしまった世界でも変わらずに生きていた。
「父上、やはり私は魔法使いになるようです。」
「そうか、お前がそう望むのであれば私はお前を送り出すしかない。」
「父上……」
『私』は悔しかった。
『父上』が魔法使いでなくなったことが。
『魔法使い』が幸せになれないことが。
魔法使いの力の源は変えたいと思う力だ。
現状に満足してしまえば力を失う。
後ろを振り返ってしまえば力を失う。
立ち止まってしまえば力を失う。
ただ力を使い続け、前へ進む以外にないのだ。
そんな世界を『私』は変えたかった。
幸せな魔法使いがいてもいいじゃないか。
世界を豊かにする魔法があってもいいじゃないか。
人を笑顔にする魔法があってもいいじゃないか。
荒廃と殺戮しか産まない魔法にどんな価値があるのか。
私は変えたかった。
原初の魔法使いがこの世界を変えてしまったように。
『彼』のことは大罪人として伝え聞くしかない。
『彼』がこの今の世界を作り上げたのは確かだ。
魔法使いすらも『彼』が作り上げたのだろうか。
この荒廃と殺戮の魔法使いたちを。
そうではないと『私』は信じている。
ほかでもない『私』が魔法使いとなるからだ。
『私』はこの世界を変える。
『魔法使い』を笑顔を作る存在へと変えるために。
「あなたは……」
「ああ、お前、魔法使いなんだってな」
「魔法使い殺し……」
「そうだ。俺は魔法使い殺し。魔法使いを殺し尽くすために魔法使いになった。お前たちがいなければ……!」
「あなたは魔法使いを殺し尽くした先に何を見ているのですか?」
「世界平和だよ。お前たち魔法使いにはわからないだろうがな!」
なんてこともない日常。
魔法使い同士も自分たちの正義で争っているのだ。
『魔法使い』を憎んでいない魔法使いはいないのだ。
そうして自分自身がその『魔法使い』になっていく。
『私』は世界を騙し、世界を知る『魔法使い』になった。
世界を騙し、全ての人間、魔法使いを騙すのだ。
簡単なことだったのだ。
全て、最初から騙されていた。
そう、魔法使いなんて最初からいなかったんだ。
たとえこの世界を破壊し尽くしてでも、この世界を変えてしまいたいと、強く思うことが魔法使いの最低条件。
つまり、そう思っていても魔法使いになれない人間もいるのだ。
その差は何なのか。
「よう、また会ったな。いつもちょろちょろ逃げやがって。今日こそぶっ殺してやる。」
「おひさしぶりです。残念ですが、それは叶いません。」
「はっ!逃げる以外に能が無いくせに言うじゃねえか!」
「もう、この世界には魔法使いはいませんよ。」
「はぁ?」
「あなたが遊び歩いている間に故郷の皆さんは復興を頑張っていますよ。」
『私』は世界を渡る。
ああ、『私』は幸せな魔法使いになりたかった。
幸せな魔法使いにはなれなかったが、誰かを幸せにする魔法使いにはなれるかもしれない。




