第8話 私の友達は友達
相合傘の一件から彼女とは無事に仲直りができた…気がする。
そして今、僕らは目の前に迫る中間試験へ向け勉強に追われていた。
といっても僕は比較的余裕がある方なので、そこまで苦労はしていないけど。
榎田もそこまで苦労していないのか、彼は学校が終わるとすぐに学校から帰りオンラインゲームにふけているという。
これで去年は僕よりも成績がいいというのだからまったくもって訳がわからない。
それよりも、僕の目の前には試験勉強に追われ項垂れている彼女達がいる。
「春江君~この問題教えて~」
「ほらほら、なゆきち
これはここの教科書に書いてあるよ」
「わぁ本当だ」と感激し、名雪さんは秋山さんに渡された教科書を眺めている。
なゆきちって呼ばれてるのか…。
横目で見る秋山さんは子をみるような目で名雪さんを見ている。
何故僕はここにいるのだろうか。
名雪さんに中間試験がピンチと頼み込まれ、図書室での勉強会に乗ったのはいいが……。
「ねぇねぇ春江君この問題はどう解けばいい…?」
「あ、あぁこの問題はこうやってとけば…」
僕は彼女に解くべき公式を伝えるため、彼女の横の席に着き、テキストのページを指し示す。
その光景を横目で見てい秋山さんは無表情でどこか怖い。
もしかして友達との勉強の時間を邪魔された僕に怒っている…?
「いつの間にか敬語とれてる」
ボソッと呟いた秋山さんの呟きに僕の教える指の動きは止まる。
鋭いな…秋山さん。
陰キャが私の友達にため口で話すなんて生意気だ…なんて言われないかな…。
この卑屈性格は本当に直したいが…陽キャギャルは怖い…。
「そうなの!
私達仲良しになったんだぁ!」
名雪さんは僕の腕を組んでくる。
仲良しアピールをするのはいいけど、近い…近すぎる。
僕は慌てて腕を振り払うと、慌てて訂正をする。
「こ、これは…ちがくて…ハンカチが…雨で…傘で…」
支離滅裂である。
パニックになり、僕にとって印象的であった単語だけが口から出てくる。
恥ずかしい。
「え?ハンカチで雨で傘?
ははっ、うける」
秋山さんは頬杖し、僕の顔をまじまじと見つめてくる。
その顔はにやついているが何を考えているのか掴めない。
「な、なんですか…」
「へぇ、うちには敬語なんだ」
「そ、それは…秋山さんには敬語使わないって約束していないから」
「アキちゃんにも敬語使わなくていいんだよ」
秋山さん恐怖心を抱きながらおどおどしていると、名雪さんは僕に声をかけてくれた。
「え?秋山さんにも…?」
クラスのザ・陽キャギャル代表みたいな人にタメ口で会話を…?
確かに同い年だし、遠慮する必要はないけど…緊張する。
僕とは住む世界が違う。
「そ、それは申し訳ないよ…」
「うちは気にしないよ
名雪の友達はうちの友達だから」
にかっと笑う秋山さん。
陽キャのコミュニケーション凄まじい。
「むしろ、うちに敬語で名雪にタメ口ってなんか変な感じするしな」
「じゃ、じゃあ徐々に…」
僕は彼女たちの圧に押され、かくして二人に敬語を使わない約束を取り付けられてしまった。
嫌な訳ではない。
ただ次四人で勉強会する時に、絶対榎田に何があったか聞かれる…。
一年の頃は陰キャで何事もなく、数少ない友人とゲームと勉強だけしていた僕が一年後には陽キャ女子二人と…こうして図書室で勉強会とは…。
人生何が起こるかわからない。
それからは引き続き勉強を再開し、僕らはテキストに向き合った。
――そして迎えた中間試験。
その結果は学年10位。
榎田は6位。
何故放課後ゲームばかりしていた彼が僕より上なのか。
「やぁ10位の春江君」
今最も話しかけてきて欲しくない友人が、余裕たっぷりに話しかけてくる。
「榎田さ、いつ勉強してるんだよ」
「まぁ…ゲームと勉強をバランスよくやるんよ」
器用すぎるだろ、このイケメン。
「春江君と榎田君は何位だったの?」
僕の座っている席に集まってきた名雪さんと秋山さん。
最近、この四人で席を囲む機会が増えた気がする。
これが…青春というやつか…?
「僕は10位だったよ」
「えぇ!すご…」
名雪さんはわかりやすいリアクションをとってくれる。
ありがとう。
そしてこれ見よがしににやついてる榎田。
「あれ、いつの間にか敬語が抜けてる」
秋山さんといい、僕の周りには鋭い奴しかいないのか。
今回は動揺せずに、この経緯をざっくりと説明できた。
「へぇ、青春だね
ついに春江にも青い春が…
名雪さんと春江か…お似合いだな」
榎田は何故かしみじみとしてるが、そんな訳ないだろうと切り返した。
「目の前にいるんだぞ!
名雪さんたちは善意で、より仲良くなれるために言ってくれたのに」
「うちも春江にタメ口許可したぞ」
秋山さんもフォローしてくれた。
ナイス秋山さん。
そういうことに無縁な僕にこの手のいじりは地雷だぞ。
「なーーんだ
ま、何はともあれ春江に友達が増えてくれたのは嬉しいことだ」
だから榎田は何故親目線なんだ。
僕は榎田の謎の親目線に呆れながら、秋山さんのフォローに救われ、高校二年生初の定期考査を無事終えたのであった。
その横で頬を赤らめている彼女を、僕はまだ知るよしもなかった。




