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第7話 あたたかい雨

篠突く雨が教室の窓を叩きつける。



――あと一時間。


授業が終わろうが、この雨ではずぶ濡れになることが確定している。


今日の天気予報は晴れのち曇りだったはずなのに。

あの予報を信じた僕が悪い。



そしてあのハンカチの日以来、僕の心も雨模様である。


なんてクサい単語を並べてみたが、元気が出ないのは事実である。



あの日の彼女はハンカチを笑顔で受け取ってくれた。

しかし、それからというものの名雪さんから話かかけてくれる機会が減った。



別に話しかけてほしいというわけではないが…。

今まで当たり前にあったものが、僕のせいで崩れるのはやはり気にしてしまう。



あのハンカチの返却を榎田に任せ、その場面を見られたのがまずかった。

彼女は怒っているに違いない。



謝らなければならないのか。

謝るべきだろうな…。

気が重い。



ここ数日はそんな考えを堂々巡りしている。

実際、今の授業の話は一切頭に入ってこない。





授業終了のチャイムが雨の音と悩みの隙間をぬって聞こえてくる。



特に話すこともなかったのか、帰りのホームルームもとんとん拍子で終わった。

クラスの人たちは部活や委員会に向かい、何もない同級生たちは雨を嘆きながら教室を次々と後にする。



さて…僕も帰るとするか。

結局今日も彼女に謝ることはできなかった。


このままいつも通りの僕に戻るのか。



そんな鬱々とした気分のまま下駄箱で靴を履き替え、変わらず篠突く雨を目前に棒立ちする。


謝罪より先にこの雨をどう切り抜けるか考えなければ。



最寄りのコンビニまでは走れば5分程で着く。

そこまで濡れるの覚悟でダッシュするか。



――よし、いくか。



僕は覚悟を決め、校舎の扉をくぐった。


冷たい。



「傘忘れたの?」



校舎の扉をくぐり、雨に少し打たれた所で声をかけられた。

声の方向へ振り返るとそこには名雪さんの姿があった。



「ほら、また風邪ひいちゃうよ」



彼女は用意をしていたのか、自らの傘を半分僕に差し出す。



「え、あ、ありがとう

 でも名雪さんが濡れちゃいますよ…」



彼女のにっこりとした笑顔は篠突く雨の冷たさを忘れさせてくれる。



「心配してくれてありがとう

 ほら、入った入った」



少し身を引いた僕を再び傘へ招き入れる。


僕は躊躇いながらも彼女の傘に入り、学校を後にした。



――気まずい。


雨の中二人で相合傘で下校。

しかも、今一番どうしたらいいか分からない彼女と。


雨が地面を叩きつける音と僕らの靴が水たまりを弾く音。

歩幅も合わず、僕と彼女はぎこちなく歩幅を合わせるその音が妙に心をざわつかせる。



「あの…」



この空気を最初に割いたのは僕だった。



「この前はごめんなさい

 僕、本当に友達少なくて…

 な、名雪さんにどう返していいかすらわからなくて…」



僕は本当はちゃんと「ありがとう」と伝え、彼女に返したかった事。

変化を恐れ、榎田に注意をしてもらった事。

あの時の事を謝りたかったという話を雨音にかき消されないように、言葉に詰まりながらもしっかり話せた…思う。



「ふふ」



僕の必死の弁明を聞いた彼女はにこやかに笑っている。

何かおかしな事を言ったか。


僕はその笑みの理由がつかめず、不安がこみ上げてくる。



「私はもう春江君とお友達だと思ってるよ?」



覗き込んでくる彼女の顔はまだ笑みで満ちている。

相合傘での、この距離感での顔の接近はダメだろ。



「だからそんな悩まないで

 ちゃんと言葉にして話してくれてありがとう

 私はやっぱり嫌われているのかと思っていたから」



違う。

僕は咄嗟に嫌っているという言葉を否定した。



「ありがとう

 ハンカチの件は、春江君が私とお友達になってくれたら許してあげる」



彼女は相合傘のせいで少し髪が濡れている。

そんな彼女は悪戯な笑みを浮かべながら僕に友達の提案をしてくる。


断るわけがないじゃないか。



「こ、こちらこそよろしく…です」



「あと同い年なんだから敬語も禁止ね」



追加の要望…。

敬語禁止…こちらは少々ハードルが高い…。



「善処しま…する!」



「ははっ

 しまするって」



彼女の笑顔を見て、僕は初めて彼女につられて笑っていた。


この日、僕らは少し仲良くなれた。



篠突く雨は寒いけど、彼女の笑顔と今日の雨はなんだか少し暖かい気がした。

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