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第5話 熱と彼女と保健室

――ゴールデンウィーク明け初登校



変化か。

僕は榎田に言われ、前向きとまではいかないものの少し歩んでみようという気持ちになった。



時刻は正午過ぎ。

僕は気持ち新たに教室に飛び込む…はずだった。



少し硬く、柔軟剤はなく、日干しした太陽の香りが微かにする保健室のベッドに…。


僕は寝ていた。



何故だろう。

昼前から身体が妙に暑く、少し気だるい。



――風邪だ。



ゴールデンウィークに休みすぎた反動なのか。


僕はカーテンで仕切られたベッドで一人、保健室の先生の会議が終わるまで1時間程ベッドで休むことになった。



「うーだるい…」



頭痛が痛い。

…あれ?二重表現?


熱が出ると僕自身何考えてるかわからなくなる。

くだらない考えが頭をよぎる。



「……?」



カーテンの仕切りの向こうで布団が擦れる音がした。

保健室の先生か?


いや、他の生徒が寝ているのか。


てっきり僕一人の空間かと思っていたが、他にもいたのか。



「ねぇ、春江君だよね?」



名雪さん?寝起きのようなしゃがれ声で彼女はカーテンの向こうから僕の名前を呼んだ。



「名雪さん?」



そう尋ねると彼女は仕切りのカーテンを少しだけ、顔が見えるくらいの隙間を空けてきた。



「そうだよ」



寝起きの彼女の顔は、保健室の窓から照らす光に彩られ僕にはあまりにも美しく映っていた。


目をこすり、今まで寝ていた彼女はいつも見る天真爛漫な彼女とは違う輝きを放っている。



「い、いつから寝てたんですか?」



僕はまた、女性に対しどもりながら声を発してしまった。

どうして緊張してしまうのだろう。


普通に話すことはできないのだろうか。



「ん~三時間目が終わってからかな…

 なんか気だるくてね

 ゴールデンウィークぼけかな?」



彼女はくすっと笑い口元を隠すと、僕の方を再び見てくる。

僕は彼女の顔をずっと見ている。


正確には緊張して、顔を動かすことを忘れていたのかもしれない。



「春江君もゴールデンウィークぼけかな?」



まじまじと見つめてくる彼女の瞳は相変わらず綺麗だ。

……ん?


近くない?


名雪さんはベッドから起き上がり、僕のベッドの方まで歩み寄って来ていた。

熱のせいなのか、かのじょのせいなのか。



「顔赤いよ?

 熱あるんじゃない?」



彼女の手の平はゆっくりと僕の顔へと近づいてくる。



「だ、だ、大丈夫ですから」



口では抵抗するものの、僕は身体の倦怠感により手を動かし抵抗するのも億劫である。



「んっ」



「ほら、やっぱり熱がある

 早く帰って休んだ方がいいんじゃない?」



僕だってそうしたい。

けど、保健室の先生はあと一時間不在。



連れてきてもらった先生には「大丈夫」と答えてしまった僕は、保健室の先生を帰りを待つしかなかったのだ。



名雪さんの手の平はどれくらい僕の額に触れていたのだろうか。

彼女は僕から手を放し、仕切りの中から出て行ってしまった。



「本当に…大丈夫ですから…」



そう彼女を呼び止めたつもりだったが、聞こえなかったのだろうか。

彼女は保健室から出て行ってしまった。


きっと先生を呼びにいったのだろうか。

それはそれで早退できるからいいか…。



僕は目を瞑り、静寂が帰ってた保健室で安静にしていた。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。



熱があると時間の感覚もよくわからなくなる。



――つめたっ。



ふいに触れた冷たい感触に目をあけると、そこには名雪さんが。

僕の額には…タオル…?

ハンカチのような薄い布が置かれていた。



「これは…?」



「私のハンカチ。

 本当はタオルの方がよかったのだけど、見当たらなかったから私のハンカチで我慢してね」



彼女はいつもの眩しい笑顔とは違い、保健室からの木漏れ日の逆光のせいかどこか寂し気な顔をしていた。



「じゃあ、私は5時間目出るから安静にしててね

 また来るからね」



彼女はそう言うと背を向け、再び保健室から出て行ってしまった。



ハンカチ…薄いからかすぐ温くなってしまう。



やはり僕は風邪を引いてしまったのかもしれない。


先程よりも僕の身体は…少し熱い。

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