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第4話 現状維持

――勉強会翌日



ゴールデンウィーク最終日。

僕は自宅の部屋に設置されているディスプレイを見ながらコントローラーを操作していた。



「君は本当に女子への免疫ないよね」



ヘッドホン越しから聞こえてくる榎田の声は笑っている。

確実にからかわれている。



「悪いかよ…」



僕は淡々とコントローラーを操作し続けている。

つもりだった。



「はい、動揺しすぎ」



僕の画面に表示された『YOU LOSE』は動揺を物語っていた。



「陰キャに男女の集まりはハードル高すぎなんだよ…」



僕はふてくされながらも画面の操作を続ける。

榎田の操作の手は止まっている。



「どうした?次やらないのか?」



「ん~そろそろ夕飯だから終わりにしようかな

 またさ、あの4人で集まろうぜ」



「え?僕は榎田だけでいいんだが…」



「おや?口説いてるのかな?

 照れちゃうな」


榎田は再び笑いながらからかってくる。

もちろんそういうつもりは僕にはない。

ただわざわざ苦手な場にいるよりか、心許せる友人といた方が楽なだけなんだ。



「そうじゃない…

 ただ僕は今の現状に満足なんだ。

 それに女性は苦手だし、こんなに話せる友人もいる。

 僕は狭く深い輪で収まっていればそれで満足なんだ」



「まぁな。春江の気持ちもわかるけどさ。

 春江は勿体ないと思うぞ。

 もちろん価値観の押しつけと跳ねのけてもらってもかまわないけどさ」



榎田は僕に続けて話してくれた。



「俺は春江と友達でいてくれることも、頼ってくれるのも嬉しい。

 ただな、俺らはずっと一緒というわけにはいかない。

 大学に進学、就職、結婚となればどう足掻いても物理的な距離はうまれてしまう。

 そうなれば、春江は他に誰と話したりする?」



正直言い返せない。

僕は陰キャであると同時に臆病なのである。

変化が嫌いだ。



新しく前に進むことの変化。

進まずに居続けた結果の変化。

どんな変化も怖い。

だから僕は今この現状に甘えている。



「無理に友達を作れとは言わない。

 俺でよければいくらでも付き合うからさ。

 色々な変化を一緒に楽しんでみないか?

 せっかくの高校生活なんだしさ」



「色んな事をしてみた結果、それでも結局俺といることが楽しいっていうなら

 俺は一緒に遊べる限り、全力で相手するからさ」



ヘッドフォン越しではあるが、彼は笑っている。

直感でそう感じた。

もちろん悪意のある笑みではなく、親友として、僕のことを想ってくれているからだ。



我ながら良い友人を得たな。



――変化か。

僕の一番怖いものであるが、僕を思ってくれる友人がここまで言ってくれるのを無下にするのは人としてどうかとも思う。



――それでも。

少しだけ親友を信じてみようかな。



「わかった

 榎田がそうまでいうなら僕は少しだけ、変化の場に飛び込んでみようかな」



「春江~お父さんは嬉しいぞ~」



誰が息子だよ。

内心そう突っ込みながらも僕は笑みがこぼれていた。



「そうそう、そういやさ

 この前の勉強会の時、春江がトイレに言ってる時に来週また集まろう話が出たのよ」

 


早速か。

むしろこの為にそれらしい話をしてきたのか。



「また急だね

 何処に行くの?」



「買い物と勉強会とかいってたぞ

 春江も誘っておいてって名雪さんに言われたけど、どこか行きたいところある?」



名雪さんがね。

そう思ってくれてるのは嬉しい。

しかし。



「変化を試みようと思って僕に行く場所まで求めるのは早速ハードル高すぎないか?」



「はははっ

 ごめんごめん。

 まぁ来てくれるだけで一歩前進だしな

 また決まったら連絡するわ」



榎田はそう言うと通話を終了ボタンをおし、通話を終了した。

僕はBGMとずっと動かさずに放置し、薄暗くなったゲーム画面を前にただぼーっと座っていた。



――買い物に勉強会か。


一年生のころは榎田とつるんでいたらあっという間に終わっていた。

もちろん他の人とも多少なりの交流はしていたが、どうしても上手く馴染めなかった。


口下手で、上手く気持ちも伝えられず、気が付けば話しやすい人とばかり一緒にいた。



一年生は榎田と、二年生はそこからの新しい変化を頑張ってみるか。


僕は薄暗いゲーム画面の電源ボタンを押し、画面を閉じた。

消えた画面から反射し映る僕の顔は少し微笑んでいたように感じられた。

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