第3話 勉強会②
――勉強会当日
僕は待ち合わせ場所へと向かう道中に榎田と合流した。
「おはよ春江~
俺は春江がクラスの女子と仲良くしてるなんて感激したよ」
親目線かよ。
僕は言葉には出さず内心榎田にツッコミを入れたが、別に仲良くしているつもりはない。
ただ誘われたから。
断る理由もないし、きっと榎田目当ての勉強会だろうし僕が恋のキューピットになれたら学食でも奢ってもらおう。
「別に、ただ誘われただけだから」
僕は淡白に返答した。
名雪さんはこの淡白な返答を続けていたら泣かれてしまったが、僕は誰に対してもこうなのだ。
別に誰だからとかではない。
この返答に気分を害さず、いつもの僕だからと受け入れてくれる彼は一番話しやすい友人である。
「たしかここだっけ?」
そんな会話をしながら歩みを進めていると、気が付けば待ち合わせにしていたファミレスへと到着していた。
「あ、春江君たちこっちこっち」
名雪さんたちは先に到着していたらしく、ファミレスのテーブル席についていた。
僕らは手招かれた席へと着席する。
名雪さんの隣には茶髪に緩いパーマをかけた女性が座っていた。
「こっちは私の友達の秋山ことアキちゃん」
秋山と呼ばれた女性は僕らと同じクラスである。
認知はしている。
しかしクラスの中でもクールで、ギャルという印象で正直少し怖い。
「秋山です
春江君に榎田君だよね
よろしく」
秋山さんは淡白に挨拶をすると、既に広げていたテキストに目を落とした。
「素っ気ないけど
アキちゃん人見知りだからさ
慣れると超可愛いんだよ」
名雪さんは笑ながらそうフォローすると、秋山さんは軽く彼女を小突く。
「ごめんごめんって
さて、皆集まったし勉強会しよ
中間試験も近くてピンチなんだよね」
僕らもドリンクを注文し、男女向かい合う形での勉強会が始まった。
「榎田君、理系科目得意なんだっけ?」
全員(僕以外)ゴールデンウィークの宿題を片付けている中、最初に口を開いたのは秋山さんだった。
「得意と言っていいかはわからないけど、できる方かもね」
榎田のそう答えられる自信はどこから。
事実ではあるけど、さらっと言い放つ彼はやはりイケメンだ。
「ここの問題の解き方さ、教えてほしんだけど」
秋山さんは榎田にテキストを見せると、榎田はどれどれと覗き込む。
「あぁここはね…
あ、対面だと教えにくいから席変わろうか」
榎田はさらっと女子の席の隣に移動できるのか。
どんな修行を積めばそんな事をさらっと…。
そんなことを考えていると、榎田は秋山さんの隣へ。
そして名雪さんが僕の隣へと移動してきた。
「なんか合コンみたいだね」
名雪さんはくすっと笑ながら僕に言ってきたが、僕は合コンを知らない。
「同い年だよね…?」
しまった。
声に出てしまった。
「たしかに
映画やドラマとかでよく見るからさ」
彼女は笑ながらそう返すと、テキストを広げ僕の前へ持ってきた。
「ねぇねぇ、ここ教えて」
僕に国語の質問をしてくる名雪さん。
どう返していいかわからない。
女性と話すのも苦手な上に勉強を教えたこともない。
教えたくないわけではない。
ただどうしていいかわからない。
「え、えぇと…」
僕は助け船を求めて榎田の方を見る。
しかし、榎田は秋山さんに教えるのに集中しており僕の事なんか見ていない。
助けてくれよ…僕の親友よ。
僕は一人でどうしようか悩んでいると、耳元で小声で囁く声が聞こえてくる。
「あの二人、なんか似合うよね」
うわぁぁぁぁぁ。
僕は席の一番端へすかさず移動した。
「ごめんね
驚かせるつもりはなかったの」
名雪さんは笑ながら僕の方を見ている。
やっぱりからかわれてる。
「あははははははは
小動物みたいでうける」
正面の席で秋山さんも大笑いしている。
そんなに面白かったのか…。
穴があったら入りたい。
「アキちゃんがこんな笑うなんて珍しいね」
「春江君て面白いね」
涙を拭いながら秋山さんは褒めてくれる。
褒めてくれたのかわからないけど。
「あ、ありがとう…」
その後、これがきっかけで場が和んだのか秋山さんも話しながら勉強会を無事に終える事ができた。
僕もこの場では少しだけ話すことができた…と思う。
「じゃあ私たちはここで
また学校でね!
二人が教えてくれて助かったよ」
名雪さんと秋山さんは僕らに手を振りながら、駅方面へと去っていった。
「春江がこんなに女子と話せるなんて…俺は感激だよ」
――だから親目線か。
「場の雰囲気に飲まれたのかも…」
「素直じゃないな~」
榎田はニヤニヤしながら僕を見ている。
強者の余裕か。
女性と話していたのがそんなに嬉しいか。
僕はそれよりもあの耳元で囁かれる破壊力が高すぎて…。
あの子はなんであんな距離感おかしいんだ。
高校生というのはこれが普通なのか。
僕はやはり女性がまだ得意ではない。