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悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい  作者: 唯野晶
テンペトゥス・ノクテム
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ほんの小さなざわめき

「あー楽しかった!」

「面白かったですわね!」


劇場を出たところで私とナタリーは大きく伸びをする。

アリシアも満足げにニコニコしている。しかし対照的にマリウスの顔はどこか浮かない顔だ。


「どうしたんですの?マリウスは気に入りませんでしたか?」

「いや、まぁ、楽しかったんだが……しかし……なんというか……あんな単純にヒロインの女性は恋に落ちていいものなのか?」

「恋愛なんてそんなものですわよ。一目惚れだったり、すれ違いだったり、いろんな出会いがあって、いろいろな出来事が全部恋に発展していくものなんですから」


私がそう答えると、マリウスはさらに難しそうな顔をする。


「……俺はどうも納得いかないな。女性というのはもっとこう、貞淑というか、思慮深いというか、慎み深いものじゃないのか……?」


さらに眉間にしわを寄せて大真面目にそんなことを言うマリウスを見て思わず吹き出してしまった。


「ふふっ、マリウスさんってば意外とロマンチストなんですね」

「なっ……!?い、いや、これは一般論であってだな……!」


顔を真っ赤にしながら必死に何かに対して弁明するマリウスを見て3人して大笑いしてしまった。


「そんな笑うことないだろう」

「す、すみません……。でもおかしくって」


本当に困ったような視線をナタリーに向けるマリウスがかわいくて、そんな真面目なマリウスが私も結構好きだったりする。


「仕方ないですわよ。ナタリーのせいではないですわよ。マリウスが……ぷっ、あは、あはははは」


笑いすぎて目にたまった涙を拭いながらナタリーが涙目でマリウスに謝る。


「ちょっと……レヴィアナさん……ふふっ……」


そんな私たちをマリウスが恨めしそうに睨みつけてくる。いつもは冷静沈着なマリウスの慌てふためく姿が面白くて私たちはしばらく笑い続けてしまった。


「そんなロマンチストのマリウスは誰か意中の人はいないんですか?」


アリシアが悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねる。

マリウスは一瞬言葉を失い、少し困ったような顔をして沈黙してしまった。


こんなの居ると言っているようなものじゃない、なんてまた笑いそうになってしまう。

アリシアは黙秘を続けるマリウスに追い打ちをかけるようにぐいぐい迫る。私もアリシアに加勢をしようと口を開こうとした瞬間だった。


「―――ちょ、ちょっとすみません!ちょっとトイレ行ってきます!いつもの喫茶店で待ち合わせさせてください!」


突然、ナタリーがそういって駆け出して行ってしまった。あまりの唐突さに3人で顔を見合わせてポカンとしてしまった。


***


「さっきは突然ごめんなさい。劇場の特製ドリンクがおいしくてたくさん飲んじゃったからでしょうか?」

「なんだ、そういうことでしたのね。クラウドベリーサイダーもこの広場の定番ドリンクになりましたものね」


少し気まずそうにポリポリと頬をかくナタリーを見てみんなで微笑む。

テラス席に流れる風はだいぶ涼しくはなったものの、劇場で興奮し、少し火照った私たちの体には本当に心地よかった。


話題の中心はやはり今日見た「流星剣士伝~愛ゆえに~」だ。

特にアリシアは主人公のアルディアーヌ姫役の女優さんがお気に入りらしく何度もあのシーンがいいとか、あの場面は泣けたとか言っていた。


「でもナタリーがこんなべたべたな恋愛モノの演劇を見たいだなんてめずらしいですわね?」


さっきはマリウスをからかうのに一生懸命なってしまい流してしまったけど、ナタリーが恋愛ものというと意外だった。

今日このメンバーで劇を見に行こうと企画したのはナタリーだった。ナタリーだったらマリウスに気を利かせてなんだか小難しい劇を観ようと言い出してもおかしくはないような気もする。


とはいっても、まぁ雑談次いでくらいの軽い気持ちで尋ねた質問だったのだが、ナタリーはなんだかびくっとしたように見えた。


「あ……あの……もしかして、レヴィアナさんもあまり気に入りませんでしたか?」

「ううん?そんなことはないですわ。わたくしはとっても楽しめましたわよ?」

「ふーっ……よかったです!初めてシルフィード広場に来た時に見た演目の続きでしたので皆で見ておきたくて。マリウスさんは退屈だったかもしれないですけど……」

「そんなことない。俺は……まぁいい経験だったぞ?」

「といいつつマリウスさんストーリーの意味わかっていないじゃないんですか?あのアルディアーヌ姫はなんで王子様の告白を断ったのかちゃんと理解してますか?」


アリシアがにやにやと少し意地悪そうに質問を投げかける。


「いや、ほら、なんというか……なんだ……?本当は好きではなかったとか……?」

「ほらぁ!やっぱり!!マリウスさんってなーんにも乙女心理解できてないじゃないですか!」

「い、いや、でもな!そういうアリシアはわかってるのか!?」

「ふふふ、恋する乙女ならわかりますよ」

「はあ?なんだそれは……」


そんな二人のやり取りを微笑みながら聞いていたらふとナタリーと視線が交わる。ナタリーはなんだかバツが悪そうな感じで笑う。私も同じような笑顔で返す。


……なんだろう……少しひっかかるものがあるような……ないような……?


でもその違和感は一瞬だけで、途中何度か飲み物のお代わりもはさみながら、その後はただただひたすらにたあいもない会話に花を咲かせ続けた。

初めてマリウスと会った時の第一印象の感じの悪さや、ナタリーがアリシアの焼き菓子に夢中になって食べ過ぎて保健室に行ったこと、実はマリウスも甘いもの好きというような本当にとりとめのない話を日が暮れるまでずっと続けていた。


ひとしきり笑いあって、少し会話が途切れた時、急にナタリーが何かを思い出したような声を上げて立ち上がった。


「あー……、皆さんすみません!私セオドア先生にお手伝い頼まれてたのをうっかりしてました」

「そうですの?わたくしたちも手伝いましょうか?」

「私一人でできそうなことなので大丈夫ですよ。みんなは楽しんででください!」


そういいながらてきぱきと自分の荷物をカバンにしまいこんでいく。


「今日はほんっとうに楽しかったです!本当にありがとうございました!」


ぱたぱたとお辞儀をして、そのままたたっと走っていきそうになったところをマリウスが立ち上がり声をかける。


「なぁ、ナタリー!」

「へ?マリウスさん?どうしたんですか?」

「今日の夜、魔法訓練に付き合ってほしいんだが、その予定は長くかかりそうか?そろそろうまくできそうなんだ」

「え!?本当ですか!?えっと……うー……そうですね。それでは19時に魔法訓練場で待ち合わせしましょう」


マリウスにそう言って元気よく手を振りながらナタリーは去っていった。


「お手伝い……なんなのでしょうか?」

「ふーむ?ナタリーを指名ということは精密魔法のカリキュラム作成とかだろうか?」

「セオドア先生の事だからきっと書類整理とかですわよ?全くわたくしたちのこの楽しい時間を奪い取った罪は重いですわ!」


ぷんすこと怒る私にアリシアは苦笑している。


「まあまあ……それより、今日はこの後どうしましょう?」

「わたくしは本屋さんに寄りたいですわね。最近発売された『月刊魔女通信』の今月号を買っておきたいんですの」

「あ!私も読んでるんですよ!ご一緒してもいいですか?」

「もちろんですわ!では早速行きましょうか。ほら、マリウスも行きますわよ!」


私は椅子から立ち上がるとまだ座ったままのマリウスの腕を引っ張った。


「あぁ……」


なんだかよくわからないという表情でナタリーが去った後を見つめていたマリウスを連れて、もう少し日常を満喫しようと喫茶店を後にした。





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