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悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい  作者: 唯野晶
物語の終わり、創造の始まり
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柚季 vs 実紗希_2

「星々の嵐よ、我が力と共鳴し、雷鳴を轟かせろ!稲妻と嵐の融合、ヴォルテックテンペスト!!」


右腕から放たれた巨大な雷が、実紗希に向かって一直線に飛んでいく。

魔法障壁を展開する時間はあったはずだ。

しかし実紗希は、そのまま私の魔法を正面から受けた。


「俺を止める?はっ?どうやって?」


実紗希が嘲笑する。その体どころか着ている制服も焦げ目1つない。


「知らなかったのか?ヒロインは死なないんだよ」

「……知ってるわ」


モンスターの森で実紗希とお父様が戦ったと思われる場所を確認した。

私なんかとは比較にならないお父様の魔法が地面をえぐり、木々をなぎ倒していた。テンペストゥス・ノクテムを圧倒したナディア先生が一目置いていたお父様の魔法だ。同等かそれ以上の威力があってもおかしくない。

しかし、相対していた実紗希はこうして今も元気でいる。

予想はできていたが、目の前でこうしてみるとやはり衝撃的だ。


「でも実紗希も知らないでしょ」

「なにをだよ」

「最大まで強くしてもイグニスたちには追い付けなくて、イグニスたちと自分の弱さに悩んで、何も思い通りにならなくて、無力さに打ちひしがれて、それでも必死にもがいて、あがいて、でも、やっぱり最後にはみんなに助けてもらって。アリシアはそんなヒロインなのよ」

「笑わせる。それはゲームの中のアリシアだろ?俺は違う」


実紗希は無詠唱のヒートスパイクを展開しこちらに一斉に放ってきた。複数のヒートスパイクが束になり私めがけて飛んでくる。私はそれを同じ数のサンダーボルトで相殺した。


「実紗希も同じよ。私が、いえ、わたくしがきちんと悪役令嬢としてあなたのこといじめて差し上げますわ」


まだこのポケットの中に入っているこれを使うべきではない。もっと、ちゃんと実紗希に思い知らせてあげる必要がある。


「じゃあ、やってみろよ!」


実紗希が一気に距離を詰めてくる。私はすぐに距離を取りつつ詠唱を始めた。


「天空に渦巻く雷雲よ、我が力に応えて轟け!稲妻の竜巻、サンダーストーム!」

「そんなの効かないよ!」


上空に魔法陣を展開し、無数の雷を落としていく。

しかし、実紗希はそれにもひるまずに突っ込んでくる。私が放った雷は意思を持っているかのように実紗希を避け、地面をえぐっていく。


「な?言ったとおりだろ?爆炎の力、我が手に集結せよ!爆炎の閃光、フレアバースト!」


実紗希が魔法を唱えると、高威力の爆発魔法が私に向かって飛んでくる。

私はエレクトロフィールドで相殺する。しかし、実紗希は間髪入れず次の魔法を展開させた。


「地獄の炎を纏いし眼差し、敵を薙ぎ倒せ!業火の討手、インフェルノゲイザー!」

「くっ!光と熱の融合、我が手に集約せよ!荒れ狂う極光、プラズマウェーブ!」


実紗希の放った火球が私の出したプラズマにぶつかり、弾け飛ぶ。

その威力はすさまじく、お互い大きく後ろに飛ばされた。


「はぁっ……はあっ……はあぁぁっ」

「っく、っふぅっ……」


少しの攻防の後、お互いに呼吸を整える。


「驚きましたわね。なかなかやるじゃありませんの」

「今更気づいたのか?何がいじめてあげる、だ。アルドリックの攻撃が効かなかったんだ。今更柚季の雷魔法なんて効くかよ」


実紗希は余裕そうに挑発してくる。親友のこんな一面初めて見た。


「ふふっ、そうね、確かに実紗希さんのいう通ですわよ。わたくしの魔法はお父様よりずっと弱いですわ」

「相変わらずお父様、ねぇ?で?いつまでそのふざけた口調続けるの?降伏宣言でもしたら、卒業式の背景くらいにしてあげてもいいけど?」

「……あら、そんなことしませんわ。だって、実紗希さんってばわたくしが想像していた何倍も、弱いんですもの」


精いっぱい皮肉を込めて挑発してみた。悪そうな顔もしてみたつもりだけど、きっと『レヴィアナ』が演技する悪役令嬢顔には到底達していない。


「弱い……だと?」


それでも実紗希には十分効果があったみたいだ。怒りに顔を歪ませる。


「えぇ、そうですわ。サンダーストーム程度でもあたらないなんて、わたくし驚いてしまいましたもの」

「だから俺に攻撃が効かないってことだろうが!」

「はぁ……まだわからないんですの?こういう事ですわよ」


本当に弱い、ただただ当たったら音が鳴る程度の、庭先の小石をちょっとだけ弾き飛ばす程度の、そんな無詠唱のサンダーボルトを実紗希に放った。


「……っっつぅ!?」


ぱちぃという音が鳴り、実紗希は右腕を見て、それから驚いたような顔をしてこちらを見る。

あたった右腕には少しだけ焦げ跡のようなものがついているだけだ。


「お前……今なにしたんだ?」

「あら、貴族であるわたくしに質問なんてご自身の立場をご存じないようですわね」

「っく、ふざけるな……!」

「ふざけてなんておりませんわ。こういう事ですわよ」


また同じようにサンダーボルトを実紗希に向かって放つ。同じように、今度は左腕にぱちぃという音とともに炸裂した。


「っっつぅ、お前……」

「あらそのお顔、2度もヒントを差し上げましたのにまだわからないんですの?これだから平民の女は……」

「うるせぇっ!!そのレヴィアナのセリフをやめろ!!」

「アリシアであるあなたをいじめるのにちょうどいいではありせんの」


そういってスチルでも何度も見たように口に手を当て、実にわざとらしく実紗希を嘲笑する。


「お前ぇぇぇ!!」


実紗希が怒りに任せて魔法を放ってくるが、私はそれをすべて避けていく。


「ほらほら、そんな攻撃じゃ当たりませんわよ。それに淑女たるもの、そんな大振の攻撃はいかがなものかと。攻撃はこのように優雅でないと」

「この……っ!」


実紗希はがむしゃらに魔法を乱射する。私はそれをすべて躱して見せた。


「くそっ!なんで当たんないんだよ!!」

「単調だからですわよ。それよりわたくしの攻撃が当たった理由、まだわかりませんの?」

「いいから答えろよ!!さっさと!!」


私はもう一度口に手を当て、精いっぱい馬鹿にするように笑った。


「あらあら、昔わたくしにいろいろ教えてくれた頃のあなたの方が賢かったのではありませんか?」

「っっつ、この……」

「――――あなたは死にませんわ。死んでしまうような攻撃は全部この世界によって無効化されてしまいますものね」

「だからなんだ!俺に攻撃は効かないってことだろうが!」

「ちがいますわよ。死ぬような攻撃が効かないだけであって、攻撃が効かないわけではありませんもの」


私はそういって、またぱちぃという音を鳴らす。今度は実紗希の左足に直撃した。


「ぐっっ!!」

「ね?攻撃はちゃんと当たりますでしょう?」

「なにが……言いたいんだ」


痛みに顔をゆがめながら実紗希がこちらを見る。


「今までの模擬戦も、テンペストゥス・ノクテムとの戦闘でもあなたはちゃんと攻撃を食らっていたではありませんか」

「それは……っ」

「誰にそそのかされたかは知りませんが、こんなことにも気づかないほどあなたはお馬鹿さんになってしまったのですか?」


実紗希の顔が悔しさにゆがむ。


「あら、その顔はやっと気づきましたの?先ほどの魔法の衝撃でも目を覆っていましたものね」

「っっつ……柚季ぃ!!」


実紗希から今まで感じたことがないほど濃密な殺気が放たれた。それは風となって私の髪をなびかせる。実紗希はまるで獣のように私を睨みつけた。


「あらあら、怖いですわね。そんな表情をなさるとせっかくのかわいらしいお顔が台無しですわ」

「だから、だから何だっていうんだ!こんなたいしたことない攻撃いくら食らっても……」

「えぇ、ですからいくらでも食らわせて差し上げますわ」


右手を正面に向け、魔法陣を展開する。


「わたくしは三賢者であるアルドリック・ヴォルトハイムの娘、レヴィアナ・ヴォルトハイムですわよ。魔力の量も、魔力のコントロールも平民のあなたとは比べものになりませんわ」


魔法陣をさらに細分化し、一気に広げる。私の背中は一面サンダーボルトの魔法陣で埋め尽くされた。


「っな!?こ、こんなのって」


実紗希の顔が恐怖にゆがむ。


「これがあなたの言う大したことない攻撃ですわ」


私は右手の人差し指を軽くはじいた。それに合わせて10発ほどサンダーボルトが飛んでいく。


「くっ!無数の炎が舞い踊る戦場、灼き尽くせ!炎の結界、イグニッションフィールド!」


実紗希がとっさに防御魔法を展開する。私の放ったサンダーボルトは炎の壁に飲み込まれていく。

私はすぐさま次の魔法陣を発動させる。次、次、次……。

細かい雷の雷撃が、実紗希の防御魔法に次々と切れ目なく直撃していく。


「っっつ、この……!!」


実紗希は必死に防御魔法を展開していくが、私の魔法はイグニッションフィールドを削っていき、展開した魔法陣を半分ほど残した状態で、ついに実紗希の防御魔法がはじけた。


「あら、お久しぶりですね。ごきげんいかが?」

「こんな……こんなバカな……。話が違う……、俺は、俺は!」


実紗希はその場にへたり込んだ。


(ま、こんなところかしらね)


こんなの私もしたくないし、もう十分だろう。


「はぁ……普通これくらいの威力の魔法なんて常時展開の防壁で防げるんだけど?あなたちゃんとカスパ―先生の授業聞いてなかったでしょ」


ポケットのネックレスを取り出しながら実紗希に歩み寄り、まだへたり込んでいる実紗希の前にしゃがんだ。


「それに、こんなのがあるのも知らなかったんじゃない?」


そういってネックレス、ディヴァイン・ディザイアを実紗希の首にかけた。




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