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最愛の父からの手紙

「んっ……んーー……」


目を開けると、そこには見慣れた天井があった。寝ぼけた目をこすろうと手を動かすが、なんだかいつもよりも重く感じた。

視線を外に向けると日はすでに高く上がっている。

昨夜お父様と別れてからどうやって寮に戻ったかすら、正直よく覚えていない。

服を見るとまだドレスのままだった。おかげで若干体が痛い。


「っふーっ……」


上半身だけ起き上がり机の上を見る。机の上にはリボンと、お父様から受け取った大きなカギが置いてあった。


(やっぱり、あれは現実……だったのよね?)


夢であればどれだけよかったか。もうイグニスのあの声を聴くことがないのかと思うとまた自然と涙が零れた。


――――コンコン


扉がノックされた音が部屋の中に響く。


「レヴィアナさん?いらっしゃいますか?」


ナタリーの声だった。結局あの後ボール・ルームに戻らなかったから心配してきて迎えに来てくれたのかもしれない。

それに、今もナタリーのノックで目を覚ましたのかもしれなかった。


「――――……」


ふとリボンが目に入る。

今ナタリーに会う勇気はなかった。だから声を潜め、そのあとのノックも聞こえないふりをしてまた布団をかぶった。

しばらく経つとナタリーの気配が消えた。やっとあきらめてくれたみたいだった。


「……ごめんなさいね、ナタリー」


静かにベッドから這い出でドレスを脱ぎ制服に着替える。授業が始まった時間帯を見計らって、学園長室に歩みを進めた。


(お父様ってば……いったい何なのかしら?)


ふとお父様が最後に見せた笑顔が脳裏をかすめた。なんだか悲しそうな、それでもどこか嬉しそうな。そんな笑顔だった気がする。

コンコンとノックをするが返事はない。それに部屋の扉には不思議な錠がかけられていた。


(これは……魔法?結界?)


錠というよりも扉そのものに鍵がかけられているようだった。

昨夜受け取った鍵を差し込むとすんなりと開いた。

中央には威厳のある机と椅子が置いてあるが、そこにいるはずの人物は見当たらない。


(部屋にはいないのかな?もしかして、中座してしまったとか?)


そういえば昨日この鍵を受け取った時に「朝一」と言っていた。授業も始まったしどこかのクラスの授業に顔を出していたり、学園内の見回りをしているのかもしれない。

とは言え、私も授業に出席する気にもならず、そのままソファーに深く腰掛けた。


「ぐーっ……」


お腹の音が鳴った。時間を確認すると12時になっていた。それでもお父様は現れなかった。

この部屋に入ってから意識的に見ないようにしていたものがある。机の上に、魔法紙ではない、私が持っているのと同じ紙が置かれていた。


それ以外はきれいに整理されているのに、それだけは机の一番目立つ位置に、まるで存在を主張するかのように置かれていた。


「――――……」


なんとなく、その手紙には手を付けたくない。付けるべきではない、そんな気がした。


「きっと、お父様は何か事情があって遅れているだけ……」


自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

13時になっても来なかったら、いや、14時になっても来なかったら、そうして先延ばししていると、いつしか日は暮れ、窓の外は真っ暗になっていた。

途中何度かこの部屋を外したから、きっとその時に入れ違ったんだろう。そう思って待った。待ち続けた。


それでもなお、学園長室にお父様が来る気配はなかった。時計は24時を回っていた。


「なんで……どうして来てくれないの?」


もう、紙を開くしかなかった。手が震えたが、意を決してゆっくりと開いていく。


『名前のわからない、親愛なる君へ』


そこには、きれいな、きっとお父様の字でこう書かれていた。


***


君がこの手紙を読んでいるということは、私はもう君の前にはいないのだろう

君、君と書いていると流石に他人行儀が過ぎるね。

いつものようにレヴィ、と呼ばせてもらうね。


レヴィ、学園生活は楽しいかい?

もし、この世界を楽しんでくれていると私はとてもうれしい。


いくつかかける範囲で残しておこう。

私は解体新書を手に入れ、そして三賢者になった。

真実を知ったモノは、この世界のストーリーテラーとなり、ストーリーにそぐわない行動をしたら最愛の人が最悪な形で死ぬ呪いにかかる。

そして、最後には自分も消えて、そしてやり直す。

何度も、何度も、何度もだ。


私たち三賢者の魔力が強いのは単に修練した期間が長いだけ、そしてそういう役割になった。

そうして、私は安い救いに手を伸ばしてしまった。


今回私は失敗した。

うっかり、ただ、半ば確信的にレヴィアナ解体新書を見られてしまった。

その日からレヴィアナはおかしくなった。

そしてあの日、レヴィアナは魔法の暴走で魔力が尽き確実に死んでいた。

そう、私が殺したんだ。レヴィアナを、そして私の心を救うためにね。


でもレヴィアナは、レヴィはこの世界に転生した。

初めはまた私に対しての呪いかと思った。

でもそうではなかった。

屋敷で楽しそうに笑うレヴィを見て、私はレヴィがこの世界に来たことに感謝した。

その姿で、その声で笑いかけてくれて、レヴィに救われた。

精神的にも、文字通りあの屋敷の反乱でもね。


屋敷の反乱でひっそりと退場しようと思っていたんだけど、おかげでレヴィがセレスティアル・アカデミーで楽しんでいる姿を見ることができた。

本当に感謝している。ありがとう。


そして、私はレヴィの親ではなかったけど、私はレヴィの親であれたらと思っていた。

見ず知らずの私のことを「お父様」と呼んでくれて本当にうれしかった。

これだけはどうか忘れないでほしい。

いつだってレヴィを愛しているし、大切だと思っている。

レヴィが困ったら何をおいても助けたいと思っているとね。


君に降り注ぐ不幸はすべて私のせいだ。

このままだと世界が君を殺さないとも限らない。

だから、私はここで今回の自分の未来を終わらせようと思う。


本当にすまない。

優しいレヴィにはつらい思いをさせてしまうかもしれない。

ただ、これだけはわかっていてほしい。


これは私が望んだ結末だ。

私が三賢者になって初めて、前向きな感情でそうしたいと思えたんだ。

だからどうか責任を感じないでほしい。


もっとレヴィのいろんなことを知りたかったけど、そろそろ森に行かないとね。


最後に一つお願いがある。

いつかまた会えた時、どうか、私のことを「お父様」と呼んでくれないだろうか?

その日をずっと楽しみに待っているよ。


君の親愛なる父、アルドリック・ヴォルトハイムより――――




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