ちょこっと追加。地獄からの追放。小林さんの場合
残された小林さんのその後
地獄からの追放。小林さんの場合
「もう、刑期の一万年は過ぎましたよ。」
「困るんですよね。後が使えてるんですから。」
すっかり細身になった「小林さん」こと、亡者番号1051562477。
しかし、娑婆っ気が抜けないのか、地獄へ来て一万年経つのにまだ人の姿を保っていた。
このところ、看守の牛頭馬頭に毎日責められている。
「そんなこと言われても…」
「自分の意志で自由に心の成長は出来ませんから。」
「申し訳ありませんが、もうしばらくここにいる訳にはいきませんか?」
そんな、こんなでかれこれ、数十年ゴタゴタが続いている。
看守の牛頭馬頭も困り切って顔を合わせている。
とうとう、所長の閻魔大王の所へ連れて来られた。
閻魔は小林さんの健康診断結果を見ながら言った。
「亡者番号1051562477。刑期に変更はありません。
極刑の上、ここを出ていただきます。」
小林さんは、がっくり肩を落とす。
「そんなに、悲観したものでないですよ。」
「ここの亡者の大部分も、最後は同じ刑罰を受けた後、ここを追放されますから。」
刑罰は公開処刑である。
処刑と言うと俗世では死刑を意味するが、地獄の亡者は死なないので
地獄を追放されて娑婆に転生することを指す。
公開するのは、他の亡者への見せしめの意味がある。
しっかり拷問を受けて、本来の魂魄の姿になり、早くここを出所してほしいという閻魔大王の親心であった。
しかし、あまり効果はないようだ。
小林さんは、仲間の亡者が見守る中、地獄の広場中央に置かれた巨大まな板に縛り付けられた。体を固定するためである。
「大丈夫。痛いことはありませんよ。」
閻魔が声をかける。
「経験済みですからよく分かってます。」
小林さんは覚悟を決めたように目をつぶる。
牛頭が小林さん胴体に大きなまさかりを振り下ろし、真っ二つにした。
解放された小林さんは、血も流れない。
小林さんの上半身は、全体が一端丸まった後、人間の形を取り戻した。
同じように、小林さん下半身も別の人間に形を変えた。
こうして小林さんは二人になった。
これから、俗世に追放され転生するのだ。
お互いの姿を見合ってどう思うのだろう。
「真っ二つにすれば、煩悩も少しは減りますし。」
「地獄で足りなかった苦しみを、俗世でじっくり堪能してください。」
閻魔大王の言葉に小林さんズは、涙を流しながら恨み言を言った。
「こんな酷い刑罰はありませんよ。」
魂は不滅だ。誰も分割することなど出来ない。
二人に分かれたように見えても、彼らの足元は、細い紐でつながっていた。
小林さん達の姿が消えた。娑婆へと転生されていった。
彼らは、生まれ変わっても「運命の赤い糸」という名前の魂の紐で結ばれている。
お互いを求め合い、惹かれ合い、必ず片割れにたどり着き、結ばれるのだ。
そして、出会ったら最後、生涯に渡って互いに罵り合い、傷つけあうのだ。こんな残酷な罰があるだろうか。
閻魔大王は送られていく二人を見送りながら言った。
「行ってしまいましたね。この苦行を糧に、俗世で今度こそ日々精進してくれるといいですが。」
「俗世ではそれまでの記憶を失いますから難しいでしょうね。」
看守の馬頭が尋ねた。
「それにしても、今回のカップルはユニークでしたね。あんな組み合わせが許されるのでしょうか?」
「転生した世界に依るでしょうね。」
「まあ、何とかなるんじゃないですか。」
閻魔様はあくまで楽観的であった。