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87 冒険者たち

「行くよ、アンタ達。

 当代きっての剣の達人とのひと勝負だ。

 気合入れな!」

「「うおおおおおお!」」


 ギルドマスターレイラの掛け声で、冒険者たちは身震いをしながら咆哮した。


「アンタ達、突撃だよ!」

「「おおおおおおお!」」


 突っ込んでくる冒険者たち目掛けて、無数の矢が放たれた。


「「うわあああああ」」


 突如として放たれた矢に、冒険者たちは慌てふためいた。


「「アスランさん!」」

「お前たち……」


 鉄血十字団の団員たちが機械弓片手にオレの側に駆け寄ってきた。

 ……そうか、さっきの矢はお前たちの矢か。

 やはり、いい腕をしてるな。


「いくらアスランさんとはいえ、子どもを背負って戦えないでしょう。

 アコさんは私が命に代えても守り抜きますから」


 ベテランの団員はオレの背中からアコを背負った。

その他の団員たちは機械弓を構えて円陣を組み、オレたちを守るように取り囲んだ。


「鉄血十字団の残党か」


 レイラは機械弓にひるみもせず、つかつかと歩み寄って来た。


「撃て!」


 ベテラン団員の指図で、団員たちはレイラ目掛けて機械弓から矢を放った。


「はあッ!」


 レイラは自分目掛けてきた矢をすべて防いで見せた。


「「何だとおおお」」


 団員たちはレイラの技量に恐れおののいた。


「はは、鉄血十字団の団員たち。

 大した腕じゃないか。

 アンタ達の矢は寸分違わず、すべて額と心臓を狙って来た。

 まあ、技量が確かだからこそ、防ぎやすいんだけどねえ。

 私はその二か所だけ守ればいいんだからさ」


 レイラは額を狙った矢を剣で防ぎ、自分の心臓を狙った矢をすべて鞘で防いでいた。


「ま、もうこの鞘は使いものにならないだろうけどね」


 けらけらと笑うレイラには、フィリップ王から拍手が授けられた。


「おお、レイラ。

 おまえのその卓越した技量で、見事アスランを捕らえて見せよ。

 褒美はそなたの望みのままをくれてやる」


 高らかに宣言した王の言葉に、冒険者たちは大声で答えた。


「「おおおおお!」」

「そういうことだからさ、アスランさん。

 できれば神妙にお縄について欲しいんだけどねえ」

「……それは出来ないな。

 アコとカーミラはこの国から出ていく。

 それまでは、あいつらと一緒にいてやらなきゃならないからな」


 レイラはそれを聞いてニヤリと笑った。


「義理堅いね、アスランさん。

 私はそんなアンタのことが嫌いじゃなかったよ」


 レイラは何だか嬉しそうに目を細めていた


「行くよ、アンタ達!」

「「おお!」」


 レイラの言葉で、王の衛兵と冒険者がオレ達に襲い掛かってきた。

 鉄血十字団の団員たちがオレを守るように立ちふさがったが、機械弓に矢を込める前に接近戦を挑まれなすすべなく壊滅してしまった。


「「ぐ……」」


 アコを背負ったベテラン団員を守るべく、剣を握り前に出た。


「「先生!」」


 疲労困憊なのだろうが、エメラルドとイリヤは剣を握りしめてオレの側に駆け寄る。


「お前たち、あまり無理するなよ」

「「先生こそ」」


 イリヤとエメラルドの声が揃ったのが妙におかしくて、オレたちは眼を見合わせて笑いあった。

 

 ガキィイン!


 あちらこちらで剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。


 オレに剣が迫る前に、鉄血十字団やイリヤが相手をして、冒険者や衛兵をあっという間に弾き飛ばしてしまう。


「流石だな」

「ふふ、ボクがここに居る限り先生の出番はないよ」


 イリヤはくすくすと笑っていた。


「じゃあ、楽させてもらおうかな」

「別にいいけど……あ、ちょっと無理そう」

「「覚悟!」」


 あっという間に剣士の集団にイリヤは取り囲まれ、一気に守勢に回ってしまった。


 なるほど。

 イリヤに対して息の合った波状攻撃だと思ったが、レイラの指揮か。


 一人一人の技量はイリヤに及びもつかないが、複数人で立ち回ることにより、うまく互いの隙をカバーしあっている。


「アンタ達、ちょっとだけイリヤ姫を抑えてくれよ。

 その間に……私がアスランさんと戦うからさ」

「「おお!」」


 冒険者たちは息の合ったチームワークでイリヤを取り囲み、互いの隙を補ってイリヤと互角の戦いを繰り広げた。


「トロサール、ボクに勝てると思ってるの?」


 イリヤは自分を取り囲む一団の中にいた剣士トロサールを睨みつけた。


「イリヤ姫に勝てるとは思わないけどね。

 時間を稼ぐことくらい、ちょっと気合を入れれば、オレだってできますよ」


 トロサールは大きく息を吸い込んだ。


「レイラがオレたちに頼みごとをしたんだ。

 一対一でアスランさんと戦いたいってさ……オレらはさ、みんなレイラに借りがある。

 だから、レイラに頼まれちゃ断るわけには行かねえんだよ!」


 トロサールたちは鬼気迫る表情でイリヤへ波状攻撃を続けていた。


「はは、やればできるんじゃないか。

 アンタ達」


 レイラは今まで見たことのないほどの笑顔を見せてくれた。


「……アスランさん、一目見ただけでアンタが強いってのはわかったよ。

 だからこそ……剣を交わしてみたいって思うのは私のわがままなんだろうけどね」


 レイラは剣を握った片手を前方へ突き出した。

 そんな構えの剣術流派はオレは知らない。

 レイラの剣はどうやら型にはまらない自己流なんだろう。


「……ここから逃げたければ私を倒すんだね、アスラン・ミスガル」

「わかった」


 ここまでお膳立てされれば、戦わないわけにも行かないだろう。


「全力で受けて立つ」


 オレは、剣を上段に構えた。


 レイラは女性にしては長身だが、オレと比べればリーチが短い。

 長所をぶつけるように戦うのが、剣の常道だ。

 相手が顔見知りだったとしても、手を抜くつもりなどない。


 ただ、レイラが笑みをたたえているのが、ただの強がりだとは思えないのだが……


「はあああああ!」


 レイラはリーチの差を無視して、突撃し斬り込んで来た。

 それに対し、オレは落ち着いてレイラへ上段から剣を振り下ろす。


「はあああ!」


 レイラは突撃を止め、後ろへ一気に跳び、オレの剣を回避した。


「もらった!」


 一気に加速し、前進して斬りかかってくるレイラに振り下ろした剣を斬り上げ牽制。


「くッ……」


 態勢を崩したレイラへ小剣を投擲し、それと同時に距離を詰める。


 小剣を回避するのに精一杯になったレイラへ近づき、手を取って地面へ投げる。


「ぐあ……」


 叩きつけられたレイラの首筋に剣を突きつける。


「そこまでだ!」


 オレの言葉に、冒険者たちは一斉に視線をこちらへ向けた。


「「レイラさん!」」


 地面に倒れたレイラを立たせ、首筋に剣を突きつけたまま手をひねり無力化した。


「ははは、私の負けだ。

 アンタ達、剣を納めな」


 レイラの言葉で、冒険者たちはその場で武器を手放した。

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