表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/88

84 とくと味わえ

「「はああああああッ!」」


 マリクと互いに上段から斬り結ぶ。


 強い衝撃が互いの身体を揺らした後、つばぜり合いへ移行。

 生体魔導具から焼けるように熱い瘴気が漏れ出し、腕に痛みが走る。


 痛みに耐えかねたオレは一瞬強い力を剣に宿してマリクの剣を弾き、少し距離を取った。


 互いに魔法剣の類を使っているから、つばぜり合いに及べば双方の身体にダメージが入る。

 ……生体魔導具で覆われているマリクに比べ、生身のオレには少々分が悪いようだ。

 

「チィッ……」


 ずいぶん腕に痛みと痺れが残った。

 剣を振るのに支障がないといいが……

 

「ははは、どうしたよ?

 アスラン、表情にいつもの憎らしいほどの余裕がないようだなあ?」


 マリクは上機嫌でこちらへ近づいて来る。


「先生……」


 遠くから戦いを見守るイリヤは不安げな表情を浮かべていた。


「そんな顔するなよ、イリヤ。

 いつものように、勝ってやるから」

「……はい!」


 イリヤは余裕を取り戻したようだ。

 同じく不安そうだったアコをぎゅっと抱きしめ、応援に精を出してくれた。


「先生、頑張って!」

「アスランさん、頑張れ!」


 イリヤとともに、アコもオレを応援してくれた。


 遠くに置いてある氷の中からも声が聞こえたようだし、心なしか、懐の小瓶も少し震えたように感じた。


「応援、感謝する。

 ……見ててくれ」


 そう言うと、オレはマリク目指して全速力で駆け出した。


「くくくく、どうやら生体魔導具ってヤツは腕力だけじゃなく、視力も強化してくれるようだぜ。

 お前の位置が手に取るようにわかるぞ?」


 左右にジグザグに動きながら距離を詰めているオレに対して、マリクは心臓の位置へ正確な突きを放った。


 その突き目掛けて、オレは幾度も連撃を食らわせた。


「はああああああッ!」


 自らへ迫る無数の氷の刃を、その剣で貫きながら突撃してくるマリクに対して、氷刃は有効打とはならなかった。


 だが、空中に浮かぶ無数の氷の刃は、オレの姿をくらますためには十分な働きをしてくれた。


 後方、マリクの死角に移動したオレは、マリクの首筋へ刃を振るった。


 グニュウ、と気色の悪い音がしたと思えば、マリクの腰にある生体魔導具の鞘から肉塊が幾重にも折り重なるように飛び出してきており、剣がマリクの首の骨へ届くのをギリギリのところで防いでいた。


「ぐ……あああああああ!」


 マリクが体の向きを変え攻撃してくるタイミングで、何とか肉塊に絡めとられていた剣を抜き、マリクの攻撃を防いだが、ものの見事に吹っ飛ばされてしまった。


 空中で態勢を立て直そうとしているオレに向かって、マリクはこれを好機とばかりに突進して斬りかかってきた。


 攻撃に意識が向きすぎているマリクの虚を突くように、懐から小剣を投擲。

 マリクの眼へ投げつけたが、まるで意志を持っているかのように生体魔導具は肉塊を発生させ、マリクへの攻撃を受け止めた。


「……魔道具に防御を任せ、マリクは全力で攻撃に集中する、か。

 正直、生体魔導具ってヤツはうらやましいほどの性能だな」


 思わずため息が漏れた。


「ぎゃはははは、お前が持っている魔法剣を遥かにしのぐ性能だからなあ?

 くくく、ユトケティア最強の魔導士が作った氷の魔法剣も、禁じられた魔道具、生体魔道具リビングガジェットには及びもつかねえようだなあ?」


 笑いながらも、マリクは攻撃の手を休めない。

 回避と防御を織り交ぜながら、何とかマリクの猛攻をいなし続け、距離を取った。


「……だがな。

 エメラルドが作ってくれた剣が、そんなに弱いわけがないだろ」


 弟子をバカにされ、怒りがオレの身体を駆け巡っている。


「何言ってんだよ、さっきから武器の差で防戦一方じゃねえか。

 アスラン、お前弱えよ。

 それでよ、お前の弟子も弱え!

 ついでにお前の弟子が作った武器も、死ぬほど弱え!

 ぎゃはははははは!」


 エメラルドの瞳が曇ったような気がした。

 

「先生!」


 飛び出してきては、ふらついたエメラルドをオレはすぐさま駆け寄って、倒れないように支えてやる。


「魔法剣を作る私の腕が足りなかったから、先生に負担をかけてるんですね」


 エメラルドは血の気を失った顔色をしながら、なおも両手に魔法力を集中させていた。


「私が至らなかった分は、私が補います」

「……イリヤ」

「うん」


 駆け寄って来たイリヤにエメラルドを預けた。


「私も、一緒に戦います……イリヤ、後生ですから離して!」

「エメラルド。

 冷静さが足りないよ。

 先生の眼を見て」


 イリヤはオレの顔を指で指し示した。


「あれが負けを覚悟した瞳に見えるの?

 先生は、勝つことしか考えてないよ。

 それに……ほら、見てよ。

 先生は、もう勝ちを確信した目をしてるから」


 別に勝ちを確信したわけじゃない。

 ……ただ、覚悟が決まっただけだ。


「エメラルド。

 お前がオレにプレゼントしてくれた剣は、生体魔導具よりずっと強いよ」


 両手でしっかりと魔法剣を握った。

 魔法剣は静かに魔力の渦を刀身から吐き出し、あっという間に魔法剣は氷の嵐をその刀身にまとわせていた。


「ははは、減らず口を叩きやがる。

 さっきまで、押されに押されまくってた癖によお!」

「それはただ、オレに覚悟が足りなかっただけだ」

「……何が言いたい?」


 魔法剣を上段に掲げ、踏み込みながらマリクへ斬りかかった。


「ははッ!

 その剣より、生体魔導具が上だって、さっきさんざん学んだはずだろうが。

 いいぜ、忘れたって言うなら、もう一度思い出させてやるよ!」


 マリクも正面から、オレに斬りかかって来た。


「「はあああああああッ!」」


 真正面からぶつかり合う剣は、瘴気と冷気が混ざり合って、その場に黒い氷嵐を生み出していた。


 時間が経つにつれ、瘴気は勢いを弱め、勢力を増してきた氷嵐が、ゆっくりとマリクの方へ向かっていった。


「な、何故だ!

 何で俺の剣が負けているんだ!」

「さっき言っただろ?

 オレに覚悟がなかったって。

 でも、マリク。

 お前は本望だよな?

 オレに本気の剣をぶつけて欲しいと言ったのはお前だからな?

 ……いつも、相手が死なないように努めていたオレの剣の本気、味わってみたいと言ったのはお前だぞ。

 おい、マリク。

 何怯えてるんだよ。

 オレの全力の剣、その全身で味わい尽くせよ、この大馬鹿野郎!」


 氷嵐がマリクの身体を包み込んだ。


「あ……あ……うぎゃあああああああああ!」


 マリクの身体を守ろうとした肉塊は現れる側から肉片となり、斬撃と氷刃がマリクの身体をずたずたに切り裂いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ