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83 何千、何万と振るってきた剣

「アスラン、お前とは後で遊んでやるからよ……そこ、どいてくれねえか?

 そこの王に用があるんでね」


 マリクはとても楽しそうに口角を歪めた。


「……何の用だ?」

「何の用かだと?

 決まってんだろ、殺すんだよ。

 オレが手に入らねえものは要らねえんだ、オレを称賛しねえ王なんて要らねえ。

 だから壊すんだよ」


 ぞっとするような冷たさで、マリクはそう言い放った。


「後でお前とは遊んでやるからよ」

「……マリク、オレは後回しか?」

「何だアスラン、寂しがってるのか。

 ぎゃはははは、待ってろ、ちゃんと遊んでやるからよ」


 マリクは腹を抱えて笑っていた。


「ああ、そうか。

 どうもオレとの戦いを後回しにするなと思っていたが……やっとわかった。

 マリク、お前オレと戦うのが怖いんだろ」


 オレはマリクを見つめてニヤリと笑った。


「……何だと?」


 マリクの笑顔はすぐさま引きつったように表情を変えた。


「マリク、お前はさ。

 生体魔導具なんて、言わば禁じられた魔道具を引っ張り出してもなお、オレと戦うのが怖いんだろ? 無様に負けることになるから」

「おい……今なんて言ったんだ?」


 眉毛をピクつかせているマリクは、沸き上がる怒りをこらえているようだった。


「マリク、お前はオレより弱い。

 だから、怖がってオレと戦うのを後回しにしてるんだろ?」

「ふざけるなあああああ!」


 マリクは左手に瘴気を集中させ、紫がかった魔力弾を形成、こちらへ向かって射出した。

 後方にクロードとフィリップ王がいて回避できないため、剣を振り斜め下に叩きつけた。


 魔法弾はドオン、とすさまじい音を立てて、ぶつかった地面を揺るがした。


「……俺が怖がっているわけがねえだろうがッ!」


 マリクは激怒していた。

 人は図星を突かれると激怒するとは言うが……


 ただ、とりあえずマリクの注意をオレに向けさせることには成功したようだ。

 襲われてる他人を助けるより、自分に襲い掛かってくる相手をいなす方がずいぶんやりやすいからな。


 ふと周りを見れば、観客たちは騒がずに口を結び、秩序を保って出口へ向かっているように見えた。

 イリヤや、鉄血十字団の残党、それに……冒険者ギルドのヤツらも避難に協力してくれているようだ。


 騒ぎを聞きつけたレイラも、ギルドメンバーに指示を出しているようだ。

 目があったレイラは、オレに向かって親指を立ててウインクをしていた。


 頼むぞ、みんな。

 観客が避難し終えるまで、しっかりと時間を稼いで見せるから。


「おい、マリク。

 得意げに魔法弾なんて使いやがってよ。

 そんな魔法じゃ、オレに傷一つつけられやしないぞ!」

「何だと!」


 正直、魔法弾を弾き飛ばした衝撃で痛みがあったから、傷一つないって言うのは言いすぎかもしれない。


「マリク、正直オレはお前のことが好きじゃない。

 でもな、オレはお前と戦うのは嫌いじゃないんだ。

 まあ、できれば周りに迷惑をかけない方法で戦いたいって言うのはあるけどな」


 オレは剣を下に置いた。


「何が言いたい?」

「……オレと戦いなら、せめて剣で攻撃してこいよ。

 お前がどんな武器を使ってこようが、オレはかまわない。

 だがな、オレに勝ちたいなら、お前が何千、何万と振るってきた剣にしろよ。

 オレとお前が先代に教わって、毎日振るってきた剣が、1日で覚えた魔法弾なんかに負けるわけないだろうが!」


 マリクの表情が嬉しそうに見えたのはオレの気のせいだっただろうか。


「望むところだ!」


 そう叫ぶと、マリクは猛スピードで空中を移動し、オレへ斬りかかって来た。


 マリクの空中からの斬り下ろしに対し、上段は分が悪いと判断。

 剣を拾い、一歩踏み込んで斬り上げる。


 刃同士の正面からの激突となったが、剣閃の威力は同等、つばぜり合いとなった。

 さすがに魔導具で生体機能を強化されたマリクとの腕力勝負は分が悪かったため、剣を引いていなし、軽く左足で蹴りを入れて距離を取った。


「くくく、そんなもんかよ、アスラン」


 蹴られた脇腹を気にする素振りもなく、マリクは平然と着地した。


 それに対して、オレはつばぜり合いでスタミナを消耗してしまい、肩で息をしているあり様だ。


「ははは、生体魔導具ってヤツもどうやら大したことないみたいだな!」


 ……正直しんどいが、ハッタリってやつも必要だからな。


 弱っているところを見せて、早めに片をつけようとされても困るから。

 観客の避難が終わるまでは、精一杯時間を稼いでおきたい。


「はッ。

 強がるのはよせよ。

 アスラン、お前が息が上がるのを見るのは久しぶりだぞ。

 長い付き合いなんだ、それくらいわかる」

「ははは、お見通しか」


 オレとマリクは互いの剣筋や息遣いすら知ってる間柄だ。

 呼吸の荒さで相手の状況を把握するくらい、造作もないことかも知れない。


「アスラン。

 俺はさ、お前の本気が見てえんだよ」


 マリクは空中から落ちてきた壁の断片を細切れに斬った後、剣ではじくようにオレに向かって飛ばしてきた。


 微妙に回転をつけられて飛んでくる壁のかけらを正確にマリクへ打ち返すが、マリクは飛んできた断片を左手から発した魔法力で粉々に破壊してしまった。


「グレアス一刀流の代表を決める大会のことだ。

 先代が存命のころは、いつも先代が出場していたが。

 決勝のとき、先代と当たるといつもお前、手を抜いてたよな?」

「……そんなことあるわけないだろ」


 ……手を抜いたつもりは無い。

 ただ先代と戦うときは、闘争心みたいなものが薄れていたような気はする。


「いいや、お前は手を抜いていた。

 傍から見れば分かる。

 数年前から、お前と先代の試合を傍から見ていた俺にだけはわかっちまったんだ。

 俺を子どものようにあしらったその剣で、お前は先代に対して、てんで気合の入らねえ剣をふるった」


 硬質化した生体魔導具が脈動し、ただでさえ血走っていたマリクの眼が真っ赤に染まった。


「俺は本気で剣聖になりたかった。

 だから、先代に手心を加えたお前の剣が許せなかった」


 紫がかかったマリクの顔が、どす黒い瘴気を纏わせていった。

 

「本気で剣聖になりたい奴がよ……政治や女、使えるものすべて使って、なりふり構わず剣聖目指して何が悪い!

 本気じゃねえ奴の横から、剣聖を横からかすめ取ることの何が悪いって言いやがるんだ!」


 マリクの絶叫が、会場を埋め尽くした。


「……でもなあ、そんなことより許せねえのは、本気じゃねえお前より、オレの方が弱かったことだよ」


 マリクが両手で剣を握ると、辺りを漂っていた瘴気が剣の刀身にまとわりつき、漆黒に染まった。

 

「本気で来いよ、アスラン。

 先代よりも強い、本気を出したお前の剣。

 それを叩き潰したならば、やっと……オレは自由になれるんだからよ」

「「先生!」」


 イリヤ、エメラルド、レイラが武器を持ってオレの元へ駆けつけた。


「お前たち、終わったのか」

「うん! レイラさんが助けてくれた。

 観客はみんな逃げ終わったよ!」


 イリヤは得意げに胸を張った。


「ま、フィリップ王とクロード王子は見届ける責任があるって言って、そこに残っているけどね」


 レイラが指さした先には、フィリップ王と、それを支えるクロードがいた。


「追放した王が何を言うかと笑っても構わぬ。

 アスラン、生体魔導具をここで止めねばどれだけ被害が広がるか想像もつかぬ。

 アスラン、頼む。

 マリクを止めてくれ!」

「僕からもお願いします!」


 王と王子の願いを、むげにするわけにも行かないか。

 オレを育ててくれたのはこの国だから。


「先生、これを」


 エメラルドが、氷の魔法剣を持ってきてくれた。


「助かるよ」


 避難が終われば、全力で攻撃に転じようと思っていたから、この武器があって助かるよ。

 オレは久しぶりに、エメラルド特製の魔法剣を抜き放った。


「マリク、待たせたな。

 観客も逃がし終わったし、最強の剣も手元にある。

 お前のリクエストに応えて、本気でやってやるよ」

「今までは、客を逃がすために手加減してたっていうのか……おもしれえ、オレを虚仮こけにしたこと、地獄で永遠に反省するんだな!」


 そういったマリクは、剣を上段に構えた。

 もちろん、オレも同じように構えは上段だ。

 

 オレたちはこの型が最強だって教わって来たから。

 なあ……そうだろ、マリク。

読んでいただきありがとうございます。


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よろしくお願いします。


次回、5月12日メドに投稿予定です。

お付き合いくれると幸いです、よろしくお願いします。

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