80 誰が絵を描いた?
「フィリップ王……」
オレとて、それなりに王に気に入られていた自負はある。
信頼を裏切るようでつらいが……
アルス王子が部下に顎で指図し、騎士たちに王を支えさせた。
「吸血鬼と火龍を従え、その情報を隠蔽し、挙句の果てには王命を無視した。
アスラン・ミスガル! これを反逆と呼ばずに何と呼ぶのだ!
この場で私が成敗してくれる!」
アルス王子は、右手に剣を構え、左手に盾を構えた。
「フィリップ王、アスラン先生は反逆などするつもりはない。
ボクはそんな人にはついて行かないよ」
イリヤがフィリップ王に語り掛けた。
「くくく、イリヤ姫までも、たらし込むとはアスランも罪深い男だ。
フィリップ王とアスランかどちらか選べとなれば、イリヤ姫は疑いようもなくアスランを選びます。
イリヤ姫はそれほどまでにアスランに惚れ込んでおるのです」
アルス王子は下卑た笑いをした。
「ボクの気持ちを分かった風に語らないで」
イリヤは眉毛をピクリと動かしている、怒っているようだ。
「イリヤ、お前もワシを裏切るのか?」
フィリップ王は弱弱しくつぶやいた。
「聞くまでもありません。
行くあてがなければ、アスランも反逆などと大それたことを実行に移さないでしょう。
これは、ガーファ王国の企みでもあるのです」
「イリヤ、ゼキ……ワシを裏切ると言うのか!」
「ち、違う!」
フィリップ王はもはやイリヤの言葉には耳を貸さないようだ。
「賢明なる父王。
ここまでの大それた企み、だれが絵を描いたかお気づきですか?」
アルス王子がフィリップ王に語りかけた。
「ガーファとアスラン。
その両方に近しいのはイリヤ姫ですが、王族にももう一人、近い人物が居ましたよね?
アスランに師事し、ガーファ王国に遊学した王族が確か……今この場所にも居たはずです」
みなの視線がアルス王子の兄、クロードに集まる。
「クロード、お主まさかこんな大それたことをしよるとは……」
「違う、僕はそんなこと……」
アルス王子の配下の騎士がクロードに近づき、首筋へ槍を近づけた。
「やめろ、私に何かあったらどう責任を取るつもりだ!」
クロードの言葉に騎士たちは気圧された。
「クロードを組み伏せろ! お前たち、死にたいのか!」
アルス王子の一声で躊躇していた騎士たちはクロードを床に引き倒し、首筋に槍を這わせた。
「く……違います、父上……」
「宮中で孤立するお前と妃を、ワシだけは気にかけてきたつもりだったのだがの」
フィリップ王は落胆したのか、ため息をついた。
「アスラン、お前とクロードが手を組んでいたことを自白するならば、死罪だけは許してやろう」
アルス王子は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……オレはクロードに一時的に剣を教えていた。
ただ単にそれだけの関係だ。
まあ、本音を言えばもう少し心を開いて欲しかったけどな」
「ウソをつくな!」
オレの話を、アルス王子は真っ向から否定した。
……疑心暗鬼に囚われた人間というものは、随分いやらしい顔をするものだな。
アルス王子はクロードと顔のつくりは似ているはずだが、表情が悪いのか、随分醜悪な顔つきに見える。
「フィリップ王、クロードは人との関わりにおいて、誰にだって壁を作るような人間だった。
物腰は優しくてユーモアもあるが、まるで自分の味方を作るのを、自ら拒否しているような……」
「何が言いたい?」
フィリップ王はオレに尋ねた。
「クロードは、自分が優秀であることをわかっていた。
少なくとも剣は、人一倍の才能を持っていたんだ」
「それがどうした、優秀だから反逆をしても許してくださいって言うのか?
ふざけるな! 国家に対する反逆は、たとえ兄であっても償ってもらうぞ?」
アルス王子は感情をむき出しにして、オレにつっかかってきた。
……アルス王子は内心、クロードの優秀さを感じ取っているのだろうな。
「でもね、剣をすぐにやめてしまった。
聞くところによると魔法もそうらしい」
「剣も魔法もすぐやめたのは、クロードがただの根性なしだからだ!
だからだれも味方がいないんだ!」
アルス王子は甲高い声で叫んでいた。
「フィリップ王、クロードは自分の母の身分が低いことを重々承知していた。
だから、争いを起こさないように控え目に生きていたんだと思うんです。
跡目争いを起こさぬように。
そのクロードが反逆を起こすなんて私には到底思えません」
「うむ……」
フィリップ王はオレの言葉を真剣に受け止めてくれているようだ。
「違う、クロードは反逆者だ!」
「アルス、そなた少しうるさいぞ。
王族たるもの、気品を持て」
フィリップ王にたしなめられたアルス王子は悔しそうに唇を噛みしめた。
「わ、わかりました……」
「騎士たちよ、クロードに対してワシがきちんと調べは行う。
じゃが、それまでは王族として対応せよ。
傷など、つけるでないぞ?」
「す、すいません!」
フィリップ王に命じられるまま、アルス王子の部下の騎士は押さえつけていたクロードを立ち上がらせ、椅子に座らせた。
「私の言葉に耳を傾けてくれてありがとうございます、フィリップ王」
頭を下げて礼を言った。
「アスラン。
礼を言うなら、その小瓶と火龍の娘をこちらへ渡してくれれば助かるのだがの」
フィリップ王は、ため息をついた。
「それは出来ない相談です」
「フッ。
アスランよ、爵位は惜しくはないのか?」
フィリップ王の問いに首を振った。
「……貴族になんてなりたくはないですが、お金は欲しいですし。
いい武器や防具なんてのは高いですからね、金でも爵位でも、もらえるものは断りませんけど……」
……オレが迷うときには、いつも先代の声が聞こえてくる。
「オレは孤児だったところを、先代に拾ってもらいました。
昔、幼いながらに戦場働きをしていたオレを、どうして道場に迎え入れてくれたのか、聞いたことがあったんです」
「ほう……」
フィリップ王は眉を動かした。
先代は、フィリップ王とも親しかったと聞く。
「『居場所が無さそうに見えたから』……先代は、そう答えた。
行くあてもなく戦場を渡り歩いて来たオレは、道場に来てやっと安心して眠ることが出来た」
……道場に入って初めのころ、オレは慣れない環境でなかなか寝付けなかった。
そんなオレを見て、先代はオレが寝るまで頭を撫でてくれていたっけ。
「火龍と吸血鬼の居場所は、オレが作ります。
先代は、爵位のために小瓶を渡すより、その方が喜んでくれるような気がするから」
「アスランさん!」
アコがオレにぎゅっとしがみついた。
心なしか、オレの懐の小瓶の中の水蒸気が揺れたような気がした。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや評価をもらえると、執筆のモチベーションになります。
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




