08 お前はイチからやり直せ
辺りを動き回りながら連撃を加えてくるマリクに対し、鏡のように動き回り同じ技を正確にぶつけていく。
「マリク、これがお前の剣の限界か?」
オレの挑発に対しても、マリクは反応する余裕すらない。
剣をぶつけるのを繰り返していくと、段々とマリクは押されていった。
「く……クソぉ」
マリクの顔から、既に余裕はなくなっていた。
オレの動きについていくのが精いっぱいだからだ。
「ねえ。
エメラルドは気づいてるよね?」
「ええ、当然昔から気づいています。
流麗と言われるマリクさんの剣より、アスラン先生の剣の方が綺麗だってことに」
イリヤとエメラルドはうっとりとした目をして、剣舞を見つめていた。
「そんな訳ないじゃない!」
マーガレットは慌てていた。
「でも……どうして私にもアスランの剣が美しく見えるのよ!」
「わかった!
アスラン先生はきちんと斬るときに力を込めてるんだ!」
ユイカが叫んだ。
「ご名答」
イリヤが拍手をした。
「剣とは相手を斬るためのものです。
アスラン先生はしっかりと一撃一撃に力を込めています。
それに比べて、マリクさんの剣は流れるような剣舞です。
力が込められてない弱い剣……要は、ただの踊りです」
エメラルドは冷静に分析をしていた。
「く、くっそおおおおおお!」
「遅いんだよ」
そろそろ終わらせるか。
今までマリクが繰り出してきた技の数々を、マリクが技を出すよりも速く、連続して叩きこむ。
「ぐああああ!」
マリクは受けるのが精いっぱいとなり、吹っ飛ばされて道場の壁に激突した。
「……クソがぁ……」
壁にめり込んだマリクに剣を突きつけた。
「魂の入ってない剣だったら、オレだって型どおり綺麗に振れるんだよ。
マリク、お前の剣は弱い。
剣聖だか何だか知らないが、お前は一からやり直せ」
「ち、ちくしょう……」
マリクは、か細い息を吐き続けていた。
「「先生!」」
エメラルドとイリヤ、ユイカがオレに駆け寄ってオレの手を握り、飛び上がって喜んでくれた。
「お、覚えてなさいよ!」
マーガレットは捨てセリフを吐いて、一人で逃げ出した。
「ははは、おめでとう。
剛剣の勝利ってところかな?」
レイラが拍手をしてくれた。
「剛剣か。
いつものオレの剣であれば、マリクはいったい何をされたかわからないまま一撃で負けただろう。
マリクの態度が目に余ったからな。
いわゆる『わからせてやった』ってヤツだ」
昔はマリクも熱心に剣を振るっていたもんだけどな。
いつしか人に取り入る汚い生き方を覚えて、金と女に執着するだけの人間になってしまった。
「マリク、聞こえてるんだろ?
オレはお前のような生き方はできない。
だが、マーガレットに取り入って剣聖の免状を手に入れたことまでは、頭から否定する気はない」
マリクの髪を掴んだ。
「ただな、お前は真っ当に生きてる弟子、ヒョードルを使って悪さをした。
先代はもういないから、オレがお前にお灸をすえるが……
次はないぞ」
「……だまれよ、クソが」
マリクが吐いた唾をかわす。
「さて、このために来たようなもんだからさ。
私たちがマリクを連れてくよ」
レイラの指示で冒険者たちがマリクを担いだ。
「各所に報告しておくけど……マリクは現役の剣聖だ。
任命した軍務大臣の手前、牢屋にぶちこまれることもないだろうし、剣聖をクビにも出来ないだろうね」
「そんな……」
ユイカは怒っていた。
「そうだ。
ひとつだけアスランさんの耳に入れておきたいことがある。
先代の剣聖は病に倒れるまで、ずっと剣聖を務めていたけど、それは先代が対外試合に負けたことが無かったからなんだ」
レイラは稽古場に掲げられた「アスラン一刀流」と書かれた看板を指さした。
「例えば、来月王宮で行われる御前試合があるんだけどさ。
剣聖は負けるわけにいかないだろうね。
ああ、そうそう。
来月の御前試合は新参の道場でも予選からだったら、だれでも出場できるみたいだよ?
もう王宮で受付やってるみたいだから、印鑑忘れずにね」
「「貴重な情報ありがとうございます!」」
エメラルドと、イリヤ、ユイカはレイラにお礼を言った。
3人は互いに目くばせすると、そそくさと2階へ駆けあがっていった。
「おい、お前ら何するつもりだ?」
3人はすぐに2階から戻ってきた。
「机の引き出しにありましたわ」
「やった」
「わーい」
エメラルドは後ろに手を回して何かを隠し持っているようだ。
「お前……まさか……」
「私たち、王宮に用ができました」
エメラルドたちは脱兎のごとく走り出した。
「おい、こら待て!
印鑑返せよ。
お前ら、御前試合に出場登録するつもりじゃないだろうな?」
「ボクたちに任せて。
アスラン一刀流が世界に名を広げるチャンスなんだから」
イリヤは楽しそうに笑っていた。
「ええ。
剣聖という名前があるべき場所に戻る。
ただそれだけのことですわ」
エメラルドは涼しい顔で走っていた。
「先生、露店のある大広場で、焼き鳥とシチュー買って待ってるからね!」
ユイカは口からよだれを垂らしていた。
「ユイカ、お前はオレに昼飯おごらせたいだけだろうが!」
「私たち、先に行って大広場で待ってますからね!」
笑いながら3人は外に出て行った。
大広場に向かっていったのだろう。
「まったくあいつら……はしゃぎやがって」
オレが勝ったことがそんなに嬉しいのかよ。
きっと、オレに王宮に行って登録してほしいんだろうな。
「剣聖」になる権利を得るために。
ふと、辺りを見渡せば男の生徒は倒れた奴らを連れて帰り、女の子は壁の補修や片づけを自主的に行ってくれていた。
「みんな、ありがとな」
オレの声掛けに、みんな泣きだした。
マリクから決闘に勝ったら「剣聖を譲ってやる」と言われたのに、オレが「生徒に手を出すな」と言ったことが嬉しかったらしい。
気にするなと声掛けをして、とりあえず、みな道場から返した。
ふう……自分で剣術道場するつもりなんて無かったけど……いい子たちなんだよな。
……ぐるるる。
はは、腹が減ってやがる、真剣勝負のあとだから当たり前だけどな。
剣聖を目指すかどうか。
ふふ、何をするのもオレの自由だ。
これからは、好きに生きよう。
とりあえず、エメラルドたちと飯でも食うか。
軽やかな足取りで大広場の露店を目指した。
≪読者の皆様へ≫
これにて1章完結です。
作品を読んでいただきありがとうございます。
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2章はユイカの話です。
ぜひ読んでくださいね!