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77 王都に巣食う猛獣

 決着がついた後、王が舞台に降りて来て、お褒めの言葉を頂いた。


「アスラン、伯爵となったそなたが更なる名声を手に入れたこと、ワシも嬉しく思うぞ」

「もったいないお言葉」

「アスラン先生が、剣聖か……いつかはそうなると思ってたけどね」


 フィリップ王の側には、クロード王子が控えていた。

 もちろん、俺は舞台上でひざまずいているぞ。

 

「イリヤ、エメラルド。

 なぜそんな遠くでかしこまっておる?

 御前試合は、流派の代表の試合ぞ。

 師範代のお前たちは、師の隣で栄光を受ける権利を持つ……早く来い」

「「はい!」」


 観客席で見ていたエメラルドたちは、早足でオレの側に駆け付けた。


「「先生……」」


 二人は瞳をウルウルさせていた。


「さて、勝者となったアスランは、この国で一番強い剣士だと証明された。

 この場で剣聖となる儀式を始めたいと思うが……皆の者どう思うか?」

「「おおおおお!」」


 会場は拍手で包まれた。


「さて、それはどうでしょうか」


 アルス王子が現れ、会場の拍手に負けないくらいに声を魔法で増幅していた。


「どうしたアルス、お主、体調を崩したのではなかったのか?」


 フィリップ王はそう言った。


「いえ、ちょっと所用があったものですから……父上、剣聖になるべき人物の要件とは何だったでしょうか?

 浅学な私に教えていただけますか?」


 アルス王子は父親を立てようとしたのだろう、少し嬉しそうにフィリップ王は話し出した。


「くくく、アルスよ。

 聡明なお主にも知らぬことがあるのじゃな?

 答えてやろう、剣士としての類まれなる実績があること。

 そして、人格が高潔であること……それが剣聖の条件じゃ」


 フィリップ王はそう答えたが、オレの眼にはマリクが高潔な人物だとはとても思えないが……

 

「そうでしたか、さすが父上。

 博識でいらっしゃる」


 そう述べて拍手をするアルス王子は、はた目にもわかるように父王に向けてゴマをすっているが、フィリップ王はまんざらでもなく嬉しそうだ。


「そうか、アルスよ。

 やはり、隠していてもわかるものにはわかるものじゃのう」

「ええ、父上からは溢れ出る知性があたりに零れ落ちておりますゆえ」


 ニヤニヤと笑うフィリップ王の横で、クロードは苦笑いをしていた。


「賢明なる父王へ申すべきことが一つだけあります」


 アルス王子はひざまずいてそう言った。


「面をあげよ……申してみよ、アルスの頼みじゃからの」

「ありがたきお言葉!

 ノイス、奴らを連れてこい」

「は!」


 控室からノイスと数百人の騎士団を率いたジルコムが現れた。


「何じゃ、騎士どもが大勢で物々しい。

 どうしたというのだ!

 アルス、説明をせよ」


 ……何だ、あの騎士団の数。

 

「すぐにわかるように説明いたします」


 アルスはパチンと指を鳴らした。


 縛り上げられた少女が二人、ノイスを先頭とした騎士たちに腕を掴まれ王の御前に連れてこられた。


 片方の少女には角が生えており、もう一方の少女の頭上には大きな傘がかけられていた。


「アコ、カーミラ……」


 オレの居宅である道場に残してきたカーミラとアコには、鉄血十字団の残党が警備にあたってくれていた。


 元鉄血十字団のベテラン団員が、縛られてノイスに連れられて来た。


「アスランさん、すいません……人質に取られててオレ達、何もできませんでした……」


 元鉄血十字団員は、ノイスに地面に蹴飛ばされ、涙をこぼしていた。


「アスラン、すまん。

 わらわもアコを殺すと脅され、何もできなかったのじゃ……」

「ごめんなさい、アスランさん」


 カーミラはうなだれており、アコは辛そうに唇をかみしめ涙を流していた。


「ノイス、アコとカーミラを放せ!」


 それを見て、


「何と恐ろしいことを!

 父上聞きましたか?

 アスランは、かの恐ろしい猛獣2匹を解放せよと言ったのです!

 このアスランが高潔と言えるでしょうか!」


 アルス王子は身振り手振りを大きくし、観客席にも今何が怒っているのか、わかりやすく伝えようとしているようだ。


「何を言っておるのじゃ、アルスよ。

 か弱い少女をそこまで厳重に縛らねばならんのか?」

「何をおっしゃいますか、父上。

 この二人を抑えこまねば、我々の命など瞬く間に露と消えゆくことでしょう」


 アルスは両の腕で自分の身体を抱き、ぶるぶると震わせた。


「大げさだな、この二人がどうかしたのか?

 ただの少女であろうが」


 フィリップ王の言葉に、アルスは勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべた。


「龍と吸血鬼、このユトケティアにとって、どちらのほうが脅威となると思いますか?」

「何を言うておる、アルスよ。

 どちらも伝説級の脅威であるが、それが今この状況と何か関係があるのか?」

「大いにあります」

「ええい、もったいつけるな、どういうことじゃアルス」


 フィリップ王の催促に、アルスが答えた。


「ここにいる少女が、その龍と吸血鬼でございます」

「な、なんじゃとおお?」


 辺りは騒然となった。


「ホントじゃあああ!」


 学者然として、白髭の男が叫んだ。


「赤い服の少女の角は、図鑑で見た通りの龍族の角とようく似ておる!」


 大げさに騒ぐ男のせいでアコは観客の好奇の目に晒されていた。


「あ……」


 アコは視線を落とした。


「アコ大丈夫じゃからの。

 わらわもおるし、きっとアスランが助けてくれる」


 カーミラは無理矢理笑顔を浮かべ、アコを励ましていた。


「フィリップ王!

 僭越ながら、私から報告させていただきます!」

「非常事態じゃ、許す。

 申してみよ!」


 うろたえるフィリップ王から許可を得たノイスは嬉々として話し出した。


「ブレンダン火山にて、アスランと龍が会話をする場に、私は同席していました。

 何やらアスランは火龍と密約をかわし、そしてアスランは火龍の娘を連れてブレンダン火山を下山しました」

「……な、何と!」


 フィリップ王はうろたえていた。


「この少女の角が証拠でございます。

 この娘は火龍!

 そして、アスランは火龍の娘を庇護していた!

 ……このことが意味することはどういうことでしょうか?」


 会場のざわめきがどんどん大きくなってゆく。


「母である火龍を倒したアスランに、火龍の娘がなつくとは思えません。

 とすると……これは私の推測なのですが……」


 ノイスは指を立て、クビを傾けながら考え込む演技をしていた。


「火龍はまだ生きていて……アスランと手を結び、そして火龍の娘を王都に送り込んだ。

 王都ディオラをブレンダン火山と同じく、溶岩渦巻く迷宮にするために」


 闘技場の観客たちは、ノイスの言葉で恐怖を植え付けられていった。

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