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75 御前試合・予選

「「アスラン先生、がんばって!」」


 石造りの闘技場に、門下生たちの応援がこだまする。

 ……やはり、応援っていいものだな、力が湧いてくる気がする。


「アスランさん、門下生の応援がいっぱいだね」

「ありがたいことだよ」


 大剣使いセイル・グローサリーの言葉に謙遜せず、頷いた。


「セイル、頑張って!」


 セイルと同じ年くらいの女の子が、一人大声をあげていた。


「セイルにもいい応援があるじゃないか」

「できれば、かっこいいところを見せたいけどね……」


 まだ年若いセイルは自分の背丈よりも大きな剣を抜き、中段に構えた。


「アスランさん、手加減なんてしないでね。

 僕は自分の剣とどれほど開きがあるか、確かめなくちゃいけないから」


 セイルは大きな目を見開き、オレをまっすぐに見据えた。


 年若いとはいえ、流派の代表として御前試合に臨んでるんだ。

 ここで手加減するわけには行かないな。


 抜刀した後、剣を床に置き力を抜いて構える。


 【初太刀の型】、剣を床に置いたところから始まるグレアス一刀流基本型。

 最強の型でもあるこの型で、セイルを迎えうつことにしよう。


「……覚悟はいいか?」

「もちろん」


 大剣術の名の通り、セイルはオレが使っている剣よりも長い剣を使用している。


 セイルよりオレの方が腕が長いが、その腕の長さを加味してもなお、セイルのリーチの方が上回っているようだ。

 

 セイルは中段に構え、剣先を揺らすようにして牽制してきた。


 普通の剣術流派であれば、間合いに差があれば回避行動の後に反撃するが……

 オレの習って来たグレアス一刀流に、大剣に対しての型など存在しない。


 相手より速く剣を振る、することはただそれだけだ。


「ハアアッ!」


 地面に落ちた剣を拾い、数歩セイルとの間を詰め、剣を振る。

 リーチで負けている分、踏み込みの速さと、剣速で上回るしかない。


 セイルは大剣に対して一直線に突撃してくるとは思わなかったのだろう。

 剣を振りあげるのが遅れた。


 中途半端な位置に掲げたセイルの大剣に対して、まっすぐにふりおろす。


「く……」


 バキィンと音がして、セイルは大剣を折られ、吹っ飛ばされて地面に転がった。


「く、くそ……」


 疾走して近づき小剣を投擲。

 セイルの脇の下に小剣を突き刺し、セイルの服と地面を固定すると、首筋に剣をつきつけた。


「ははは、剣を折った相手にも無力化するまで油断しない……剣士の鑑だね」


≪勝者、アスラン一刀流、アスラン・ミスガル!≫


 闘技場は歓声に包まれた。


 セイルの服に刺さった小剣を抜き、手を取って助け起こしてやる。


「……あー、一瞬で終わっちゃった」


 セイルは残念そうにつぶやいた。


「剣速と踏み込みだけでやられたね……基礎技術の時点で全然及ばないのか」


 セイルはブツブツとつぶやいていた。


「アスランさん、来年は本選で会えるよう頑張るからね」

「ああ、お互いにな」


 ――予選は続く。

 多種多様な剣術流派が、磨いて来た剣術をぶつける場だ。

 オレはとりあえず順調に勝ち進んでいるけど。

 

 グレアス一刀流は本選からだから、先代の随行としても予選に来たことはなかった。

 でも、この熱気独特なものがあるな。


 強豪、古豪は本選からだから、新しい剣術流派が、新しい剣術を持ち込んでくるのに触れることが出来る。


 カーライル剣盾術、アーダイン二刀流、ハリボー細剣術、ゴドウィン長剣術……


 気になったのはこの辺かな。

 立ち回りが新しい。

 

≪決勝第一試合、アスラン一刀流アスラン・ミスガル対ハリボー細剣術、クオラル・ハリボー 入場ください≫


 おっと呼ばれた。

 マイクを持った年若い美女が実況を担当するらしい。

 伸びのある高音が、闘技場中に満ちていた。

 

 細剣術レイピア使いか。

 準決勝をチェックしていたが、長身痩躯の剣士が細く長い剣を鮮やかに使いこなしていた。


 さて、細剣に対する型がないから、どうやって挑むか。

 槍と想定して戦うか、それとも……


 舞台に上がると、すでにクオラルは抜刀して構えていた。


 ん……このクオラルってレイピア使い、やっぱり隙だらけだな。

 決勝だが、予選ならこんなもんか。


 ただ油断させているって可能性もある。

 どの道、オレの習得した剣術は先手を取って全力で相手を叩き潰す剣術だ。


 真っ向から相手するだけだ。

 上段に構え、相手の動向を窺う。


「アスランさん、今日ね。

 私の婚約者が見に来ているんです。

 それで……決勝に来れました」


 クオラルはしみじみと話し出した。


「それで頼みなんですけど……」

「何だ?」


 クオラルは小さな声で話した。


「一撃でやられるのカッコ悪いんで、手抜いてもらえますか?

 数分間、戦って……それでアスランさんの勝ちでいいですから。

 私アスランさんには勝てませんから、せめてカッコつけさせてもらっていいですか?」


 クオラルは、卑屈な笑顔を見せた。

 ……どんな相手にだって、勝つつもりで剣を振るうんだ。

 それができないなら、剣士とは呼べないぞ


「……手を抜いた剣を覚えると癖になるぞ」

「今回だけですから」


 卑屈な笑顔を浮かべるクオラルに近づき、軽く細剣で牽制してくるクオラルに普段通りの一撃を振り下ろす。

 細剣を破壊すると、剣を横薙ぎ。

 刃を当てないように剣を縦にしてクオラルを思いっきり吹っ飛ばした。


「ゲホッ……」


 城外まで吹っ飛ばされたクオラルは壁に激突した。


「細剣破壊と、ふっ飛ばし。

 一応、ちゃんと二撃で倒しておいたぞ。

 ……聞こえてないと思うがな」


 迷宮じゃないんだ、ちょっとのミスで死ぬわけじゃない。

 クオラルは、カッコつけるために剣士の道を見失なった。


 来年、この決勝の場所に来るのは、おそらくクオラルじゃなくてセイルだろう。

 少なくとも、あいつは真正面から向かって来たから。


≪勝者、アスラン・ミスガル! 本選へのカードを手にしたのはアスラン!

 午後から行われる御前試合、栄光をこの手にするため、アスラン・ミスガル走り出します、みなさんご期待ください!≫


「「アスラン先生!」」


 門下生は興奮に包まれていた。

 観客に向かって軽く拳を突き上げると、


 控室に戻ると、イリヤとエメラルドが詰めていた。


「お疲れさまでした」

「さ、筋肉の疲れを取ろう」


 手際よく椅子に座らされ、両腕を浮かされて揉みこまれている。


「予選参加は連戦だからね。

 万全にしとかないと」

 

 イリヤは丁寧に、オレ腕の筋肉をもみほぐしていた。


「私は、足を担当しますね」


 エメラルドはオレのふくらはぎに手を当てた。


「冷たっ!」

「ふふふ、冷やしつつ揉むとより疲れが取れますよ!」

「それにしても、冷たいんだけど……」


 稀代の氷魔術師にマッサージを施術してもらうのは光栄だが、痛いくらいに冷たいんだけど……


 エメラルドは真剣にオレの足を揉んでいた。

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