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73 生体魔導具

・剣聖マリク


「閑古鳥が鳴く道場で、剣聖でなくなればどうなるか。

 聞けばマリクよ。

 お主非公式の戦いで、アスランに負けを喫したらしいな」


 アルス王子は俺の眼を見ず、話し続けた。


「否定はしません。

 でもね、明日の御前試合は俺が勝ちますよ」


 ……そう、どんな手を使っても勝たねばならない。


 アスランの手の内はわかっているんだ。

 あいつは剣以外には小剣二つしか、戦いの場に持ち込まない。


 機械弓と魔法剣、使えるだけの手はすべて使って、あいつに勝つ。

 

 そう……どんな手段を使ってもだ。

 決意を新たにした俺の眼を見て、アルス王子はニヤリと笑った。


「剣聖のお主には不要なものかもしれんがな」


 アルス王子は胸元から、鞘に包まれた剣を取り出した。


「もし、必要な機会があれば抜刀せよ」

「これは……」

「手に持って構わないぞ、ただし抜刀するときは覚悟せよ」


 必要以上に大きな鞘に包まれた腕の長さほどの小ぶりの剣。

 ……おそるおそる小ぶりの剣を手に取った。


「何だこれ、見た目より随分重い……」


 手に持った剣は、持ち上げられたときにビクリと反応したように思えた。


「動いただと?……まさか」


 オレの驚愕するさまが、お気に召したようで、アルス王子はパチパチと拍手をした。


「聞いたことぐらいはあるか、マリクよ。

 クライフ神聖王国が誇る、神から下賜されたという【生体魔導具リビングガジェット】だ」

「ただの兵士を殺人兵器と変えると言う……」

「そう、その【生体魔導具リビングガジェット】。

 ただの兵士が殺人兵器と化す。

 さて、剣聖のお主が持つならば、何に化けるか」


 アルス王子は高笑いをするとソファから立ち上がり、これ以上ないほど純粋な笑顔を見せ、俺の手を握って来た。


「私は勝つのが好きだ。

 マリクよ、欲しいものがあったとして……それが手に入らなければお主はどう思う?

 消えてしまえとは思わぬか?

 私は思う。

 私の手に入らぬものなど、すべて消えてなくなってしまえばいいと」


 王子の言葉が不思議とストンと胸に落ちた。


「勝てば手に入る、負ければ手に入らない」


 王子は歌うようにそう述べた。


「マリク、お前だけには私の本心を話そう」

「ありがたきお言葉」


 椅子から立ち上がり、その場にかしずいた。


「私は第2王子だ。

 眼の上のこぶ、第1王子クロードを消し、王位につきたい」


 王の耳にでも入ればたとえ王子でも処罰を免れないだろう言葉を俺に話してくれた。


「勝てば手に入る、負ければ手に入らない」


 王子は自分の胸に言い聞かすようにつぶやいた。


「だから、私は動く。

 なあ、マリク……お前はどうする?」


 王子は黒いローブを着こみ、帰り支度をしていた。


「手に入らないものならば、自分の全てをかけてでも、消えて欲しいと思う。

 お前は、私と同じだろう? 

 なあ、剣聖マリクよ」


 去り際の王子の言葉が、それからずっと頭の中に鳴り響いている。


 ★☆


・元鉄血十字団長ノイス


 王都の高級宿で、私は間者の報告を待っていた。

 別に好きでこの宿を使ったわけじゃない。


 高級宿であれば、客の情報は外に漏らさないからだ。

 セキュリティも含め、信頼されているからこそ高級宿は高級宿たり得るのだ。


「「ノイス様!」」


 黒ずくめの服を着た者たちが、扉を開け私の元へ報告に来た。


「アスランの弱みを探そうと侵入したところ……重要な情報を手に入れました」


 イブはしゅるしゅると黒ずくめの服を脱ぐと、くすりと笑いながら報告した。


「何と……アスランはその居宅である古い道場で、火龍の娘を飼育しております」


 今度はマリアが報告をした。


「そうか……あの娘か」


 確かにアスランは火龍から娘を託されていた。

 あの娘をどうしたのか、気になってはいたがまさか王都で預かっているとはな。


「危険な生物を飼っているのには間違いないが……あの娘、魔力を封印されているからな」


 危険な生物を飼っているとはいえ、火龍の話が王都の庶民にも伝わっているからな。

 娘が封印されていること、火龍からアスランが娘を託されたこと。


 この辺を、アスランが涙ながらに民衆に訴えれば、お涙頂戴に弱い民衆たちはアスランの味方になってしまう可能性すらあるからな……


「それとは別に……アスランは吸血鬼を居宅で飼っているようです」

「何!」


 思わぬ情報に、身を乗り出した。


「それは本当か!」

「ええ……小剣の投擲にひるみ、水蒸気になって逃げるところをこの眼で見ました」

「私も、この眼で確かに見ました」


 イブとマリアは顔を見合わせて頷いた。


「ははは、よりにもよって吸血鬼か!」


 私は身からあふれ出る笑い声を止めることが出来なかった。


 ――吸血鬼。


 【夜の眷属】とも呼ばれる魔族の筆頭だ。

 人間と敵対し、人間の生き血を啜り、噛まれた人間を自らの眷属として勢力を拡大する最悪の生物。


 力の強い吸血鬼に噛まれたものは吸血鬼となってさらに人間を噛み、その人間をも吸血鬼にしてしまうことすらあると言う。

 

 あまりにも血が薄くなれば、吸血鬼化する能力は失われると言うから無限に増殖するわけではないらしいが……

 そもそも血を吸われた人間は、吸血鬼とならずとも高確率で死んでしまうのだ。


「まさかアスランは魔族と手を組んでいるとでも言うのか?

 いや、仮に事情があったとしても、吸血鬼を王都で匿うこと自体が重罪だ。

 いかに弁明しようとも、罪に問われることに疑いはない」

「ご満足いただける情報でしたか?」


 イブは笑顔で尋ねた。


「ああ、この情報さえあればアスランを伯爵位からも剣聖からも追い落とせる」


 私の身体が熱くなるのを感じていた。


「もう一つ情報を」

「何だ」


 マリアは話を続けた。


「クロード王子が2、3日前にアスランの居宅を訪れていたそうです」

「そうか」


 アスランを追い落とす情報、そのアスランをクロード王子と結びつける情報。

 少なくともアルス王子の欲しかった情報はすべて集まったようだ。


「その情報は、お前たちの口から直接主へ伝えたらどうだ?」

「やだわ、私たちの主はノイス様ですのに」


 マリアは身体をくねらせながら、私の頬に触れた。


「失せろ」


 私は機械弓をマリアに向けて射出した。


「きゃあ!」


 マリアの長い髪の一部が機械弓ボウガンによって斬り落とされた。


「調子に乗るなよ、間者風情が」

「あ……」


 マリアはぺたんと尻もちをついた。


 アルス王子の部下だから泳がしていたが、あまり人をなめるなよ?

 欲しい情報が取れた今、間者風情を甘やかしてやる義理はないぞ?


 アルス王子のためにも、この二人躾けてやる必要があるな。

 この二人の増長は、アルス王子のためにならないから。


「な、何をするのよ!」


 イブは小剣を持ち、私に斬りかかって来た。

 その首筋をかすめるよう、機械弓を射出する。


「ち……ちくしょう……」


 イブの首筋から、ツーと血が垂れた。


「クビを狙って大量出血させてないんだぞ?

 私の大いなる優しさと繊細な技量を褒め讃えて欲しいのだがね」

 

 私は首筋を抑えているイブの顎を掴んだ。


「イブ、マリア。

 アルス王子に命じられているから、お前たちは私の部下でいるしかないんだ。

 部下でいる間、貞淑にしていないと命はないぞ?

 間者は一人いれば足りるうえ、アルス王子からは傷つけずに返せなんて一言も言われてないからな」

「……」


 機械弓から矢を地面に放った。


「返事は?」

「……わかりました」


 イブは力なく返事をした。


「マリア、お前は?」

「わかりました!」


 マリアは元気よく返事をした。


「ははは、お前は物分かりがいいようだな」


 部下がいなくなったなら、作ればいい。

 恐怖と、この機械弓ボウガンの腕で私は部下を増やし、のし上がってきたのだから。

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