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68 湯治

「ですが……先生、許可もなしに火龍や吸血鬼を王都に招いたのがバレたら……伯爵位返上どころか、ユトケティア追放もありえますよ」


 エメラルドは真剣そのものだ。


「わかってる」

「御前試合が終われば、正式にノートン伯爵領へ赴任するように言われてるのでしょう?」

「ああ」


 伯爵になったことも先代が存命であれば、きっと褒めてくれるだろう。

 でも、行くあてのなかったオレに道場と言う居場所を作ってくれたのが、先代なんだ。


「ここでアコを見放すようなことはオレはできない。

 居場所がないんなら、作ってあげなきゃな」

「うん。

 ……追放されてもいいように、手を打たないとね」


 イリヤは頷いていた。


「……私も手を尽くします」


 エメラルドも覚悟を決めてくれたようだ。


 ――人のいない間に、できれば王都に戻る必要がある。

 アコとカーミラを起こし、まだ夜が明けきれない街道を急いだ。

 

 イリヤに速度上昇の支援魔法をかけてもらい、カーミラを小瓶ごとカバンにしまい、アコをおぶっての移動となった。


 アコが気持ち悪くなってはいけないと、身体を揺らさないよう慎重に走った。


 ――まもなく、王都への門だ。

 さてと、今日の門番は……やった、顔なじみのヤツだ。


 軽口を叩いて、王都に入る。

 ローブを被ったアコについては特に気にならなかったようだ。

 

 角さえ隠せば、アコの見た目は他の人間の女の子と特に違いはないからな。

 普段、魔力を封印している紋章は前髪で隠れているし……

 

 顔なじみの門番は、オレ達に荷物検査など行わなかった。

 アコについては迷子を捜す依頼だとでも思ってくれたのだろう。


 ――街はずれの、道場へついた。

 まだ夜が明けたばかりで、門下生たちは来ていない。


 パンと卵など、簡単なもので朝食を済ませた後は、アコを風呂に入れてやることにした。


 とはいっても、当然オレが一緒に風呂に入るわけもなく……

 薪割りと、風呂焚き係を担うことになった。


 斧でカツンカツンと小気味よい音を立てて、薪を燃やすのにちょうどいい細さに割っていく。

 その細くなった薪を風呂釜に放り投げ、おがくずや小枝に火打石で火をつける。


 何回も繰り返し種火が出来ると、後は薪に火がつくのを待つだけ。


 よし、燃え上がって来た。


 さらに薪を追加し、しばらく20分も待てば風呂に入れる状態になるだろう。


 頑張って火打石を擦り、種火を育てたものだけが味わえる充実感。

 火が燃えてるのを眺めてるだけの時間ってのは、贅沢な時間の使い方なのかもしれないな。


 しばらくボーっと、火が燃えるのを眺めていた。


「先生、もう良さそう?」


 風呂場の中から、イリヤが尋ねてきた。


「時間からしたら大丈夫だと思うけど」

「じゃあ、確認してみる」


 水はねの音がしたから、イリヤは手を突っ込んで風呂の温度を確認したのだろう。


「ちょうどいいよ、先生ありがと」

「いつもしてもらってるからな」


 そう言うと、足音が遠ざかっていく。

 

 少しして、ワイワイ話しながら足音が聞こえてきた。


「大きい風呂じゃな……」


 カーミラがつぶやいた。


「門下生たちも利用できるようになっていますから、一般の家庭用よりは大きいものですね」

「湯はどうやって沸かしておるのじゃ?

 魔石と魔法陣はどこなのじゃ?」


 カーミラは興味津々なのだろう。


「外で木を燃やして温めてるんだよ」

「なるほど、外か」


 カーミラの声が近づいて来る。


「あ、窓開けてもいいけど、身を乗り出しちゃダメ」

「ん? 身を乗り出すとどうなるのじゃ?」


 カーミラははしゃいでいたのだろう。

 イリヤの忠告も聞かず、窓をガラリと開け、身を乗り出した。


「あ」


 裸のカーミラと目が合った。

 驚くほど白いその身体は、少女らしい幼さと、女性の曲線美をあわせ持っていた。

 

 カーミラはオレと目が合って固まってしまっていたが、慌てて胸を隠した。


「何でここにアスランがおるのじゃ!」

「何でって言われても、風呂釜に薪を入れないとお湯が温まらないだろ」

「ほほう、そういうメカニズムなのか」


 興味があるので、胸を隠すのも忘れ、ぐいっとさらに身体を乗り出して来た。


「あのさ、後で教えてやるから……とりあえず風呂に浸かれよ。

 見えてるぞ」

「見るなああ!」


 カーミラは銀髪を振り乱して慌てて窓をしめた。

 奥に引っ込んだ後、ボチャンと音がしたから、風呂につかったようだ。


「身を乗り出しちゃダメって言ったのに……」

「外にアスランがおるからと言えばよいのに、イリヤがまどろっこしい言い方をするからじゃ!」


 イリヤとカーミラは互いに文句を言っているようだ。


「アコ、洗い終わったから湯船に入りましょう」

「うん! みんなで入ろうね!」


 ざぶんと大きな音がしたので、みなで風呂に入ったのだろう。


「アコ、温かいですか?

 気分悪くなったらすぐ言ってくださいね」

「うん、とっても気持ちいいよ!」


 エメラルドの質問に、アコは元気に答えた。


「身体を温めたら、ひなたぼっこしてお昼寝しましょうね」

「うん! カーミラお姉ちゃんも一緒にお昼寝しようね!」

「もちろんなのじゃ!」


 アコは随分カーミラになついたようだ。


「先生、ちょっとぬるくなってきたかも」


 イリヤが窓越しに伝えてきた。


「そうか、4人も入ってるからな。

 わかった、薪を足す」


 薪を追加して、火の勢いを強くした。


「熱くなったらまた言ってくれ」

「ありがと……アコも元気そうだよ。

 身体を温めてやるのがいいのかもね」


 イリヤの声色も嬉しそうだ。


「そうか、毎日風呂に入れてやろう」

「うん」

「ねえ、外にアスランさんいるの?」

「そうだよ、火の加減を調節してくれてる」


 イリヤが答えたところ、アコは窓を開けた。


「ねえ、アスランさん」

「アコ、どうした?」

「一緒に入ろうよ」


 アコは純粋な好意から、オレを風呂に誘って来た。


「……今、忙しいからな」

「わかったー、じゃあ今度ね」


 アコは湯船に戻っていった。

 返答に困って今忙しいからと言って断ってしまったが……オレの口から男女の違いについて言うのもちょっとな。

 じきにそういう常識なども学ぶ必要があるのだろうが。


 その後も女子たちはキャイキャイはしゃぎながら長風呂をするもんだから、オレは何度も薪を追加することになった。

 

「おい、のぼせるぞ。

 そろそろ出ろ」

「「はーい」」


 ――よっぽど楽しかったのだろう。

 風呂から出た後のアコは、オレに風呂でのことをいろいろ話してくれた。


「アスランさん。

 えっとね、エメラルドちゃんがね、一番柔らかい」

「こら、アコ。

 何言ってるんですか!」


 えっと、何の話だ?

 エメラルドが怒っているので、何の話かは聞かずにおこう。

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