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66 カーミラの来訪

・元鉄血十字団団長ノイス


 薄暗い酒場で麦酒エールを片手に、本日の成果を検証する。


 雇ったならず者たちをアスランの道場にけしかけてみたが……筋肉自慢の大男も、歴戦の槍使いも、エルフの弓使いも……まったくもって相手にならなかった。

 

 ははは、さすがに火龍を討伐しただけはある。

 アスランを正攻法で叩き潰せないことは十分理解したが……あまりにも強すぎる。


 斧使いが振りかぶってるところにさらに踏み込むとか、弓使いが引き絞ってるのに一直線に突き進むとか、正直頭がおかしいとしか思えない戦法だが……

 

 すべて結果が物語っている。

 

 であれば、アスランを倒す方法を頭を振り絞って探すよりは、何か別の方法を探した方が良さそうだな。


「イブ、マリア居るか?」


 酒場で独り言ちてみる。


「「はい、ここに」」


 どこからともなく二人は現れた。


 薄気味悪いことに、こいつらはどこであっても名を呼べばすぐに姿を現す。

 私の手駒であると同時に監視役でもある、といったところか。


 アルス様から預かった間者だ。

 こいつらを頭として、アスランの弱みを握ることにするか。


「手を出せ」

「「はい」」


 二人が差し出した手の上に、ジャラジャラと金銀の硬貨を置く。


「あら、私これだーい好き」

「奇遇ね、イブ。

 あたしもよ?」


 二人は顔を見合わせて笑った。


「その金で間者を雇えるだけ雇って、アスランと周りの奴らを監視しろ。

 交友関係や、性格、食べ物の好悪に至るまで徹底的に調べ上げろ。

 冒険者になってから、ほんのわずかな間に伯爵位を得たんだ。

 どこかに怪しい交友関係があるに違いない」

「「わかりました、ノイス様」」


 そう答えた時には、二人はすでに薄暗い酒場から姿を消していた。


「フン、不気味な奴らだ」


 他に寄る辺のない私には、アルス様を頼る他ない。

 だが、あの二人の様子を見るに、あのお方からの信頼はまだ半ばと言ったところか。


 私もクライフ神聖王国所属として、少しは政治を知っているつもりだ。

 あのお方は今、王位継承を確固たるものとすべく、動き回っている。

 

 部下たちをアスランに奪われた私は、このままではもはやクライフ神聖王国に帰れぬ。

 私のためにも、身を粉にしてアルス様を王位継承者にするしかないのだ。


 ★☆


 旧道場に、元鉄血十字団の門下生たちが集まっていた。


「「アスラン様、ありがとうございます!」」


 先ほどもらった宝箱から金貨を袋詰めしてそれぞれの団員たちに渡した。


「転居費用にでも当ててくれ」

「……これ、一年遊んで暮らせますよ!」


 背の高い団員が袋の中身を見て、驚いていた。


「一年暮らす中でこれからユトケティアでどう暮らしていくか、考えてくれたらそれでいい。

 許されるなら、クライフ神聖王国に戻ってくれてもいいからさ」

「いえ、もし許されるなら、私はアスラン様の剣を学びたい。

 そのために、家族も呼び寄せています。2,3日中には王都につくと思います。

 機械弓ボウガンの技術を捨てるわけではありませんが、アスラン先生の剣を学び、少しでもあなたに近づきたいのです」

「「私たちも同じ気持ちです!」」


 こうして元鉄血騎士団員20名は、正式にうちの門下生となった。


「それでは、宿の手配ですとか、王都の案内は私が行いましょう」


 エメラルドが名乗り出た。


「助かる」

「イリヤは今日家事当番ですし、先生はまだ火傷が痛むでしょう?

 私がするのは当然のことです」


 エメラルドは涼やかな顔でそう答えた。

 

「では、みなさん。

 行きましょうか」

「「はい!」」


 エメラルドは皆を率いて、大通りへ向かっていった。


「先生、ボクも出てきていい?

 ちょっと野菜が足りないんだ」

「ああ、気を付けて行ってこいよ」


 イリヤは足を止めてむっとした顔をした。


「もう……先生ったら。

 ボク、もう子どもじゃないよ」

「ん? そういう意味じゃなくてだな……。

 魅力的な女性になったんだから、悪い男が寄ってくるぞって意味だ」

「あ……」


 イリヤは急に頬を染めた。


「先生、ボク綺麗になった?」

「……あらためてそう聞かれると、言ってやりたくなくなるな」

「もう……」


 イリヤは唇をとがらせた。


「心配してるのはホントだからさ、早く帰って来いよ」

「うん、行ってくるね、先生」


 イリヤは手を振りながら、元気よく出ていった。


 珍しく、誰もいなくなった。


 小剣でも磨くか。

 

 戦闘用にいつも二つ懐に入れているが、いつも8つは常備している。

 自分の部屋から、小剣を布にくるんで持ってきて、庭先に並べた。


 時間もあるし、日に当たりながらゆっくり磨き上げるとするか。


 ぼんやりと庭を眺めながら、小剣を磨いていると、2つ磨いたところで思わぬ来客があった。


「アスラン、大変なのじゃ!」


 何もないところから声が聞こえたかと思うと、植木の陰の中にもやのようなものが浮かび上がってきた。


 極薄の白いワンピースに、透けるような白い肌。

 髪は銀色で瞳は赤く煌々と光っている。


「お前、カーミラじゃないか!」


 半吸血鬼ヴァンパイアハーフのカーミラが、昼にもかかわらず王都に現れていた。


「昼間に王都に現れて大丈夫なのか?」

「そんなことは今いい。

 それより、アコが倒れた」

「何だって!」


 火龍の娘アコ。

 オレはアコを砂漠の隠れ里に連れていくよう、火龍から頼まれている。

 わずかな間、預かってくれるようカーミラに頼んでいたが……


「わかった、すぐに向かう。

 ちょっと待ってろ、常備薬をありったけ持ってくる」


 道場に置いてある常備薬を大きなカバンに詰め、イリヤたちへ向けて書置きを残し、カーミラの住む洞窟へ向かった。

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