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65 道場破り(3)

「どこからでもかかってくるがいい」


 エルフの女弓使いは弓を軽く引き絞り、待ちの態勢だ。


「では、行かせてもらう」


 すり足で少し間合いを詰めた後、一気に加速する。


「ハアアッ!」


 突撃したオレに向かって弓使いは矢を放った。


 狙いを絞るため、あえて斜めには移動しない。

 最短距離を突っ走りながら、矢が放たれた途端に足さばきで身体をずらしてかわし再度前進。


「何だと?」


 二の矢を引き絞る弓使いへナイフを投擲、回避させて弓の攻撃動作をキャンセル。

 相手が構えなおした時には、オレの剣は弓使いの首筋に突きつけられていた。


「どうするまだやるか?」

「……くっ……」


 睨みつけた弓使いに対して、身体をひねって顎を蹴っ飛ばす。


「ぐはあッ……」


 弓使いは吹っ飛んだが、顎を揺らされたので立ち上がれない。


「さて、オレの勝ちだな」


 門下生たちから拍手。


「アスランの旦那、さっきの蹴りは必要なんです?

 もう勝負が決まっていたように見えましたが」


 トロサールの問いに対して、オレは顎で弓使いを指し示す。

 弓使いは、左手にナイフを握りしめていた。


「弓使いは、間合いを詰められてたときのために、ナイフを準備している場合が多い。

 その場合のナイフには前もって毒を塗ってることもあるから、カスっただけで形勢逆転してしまう」

「すいません、アスランの旦那。

 余計なことを……」


 せっかくだから、門下生に話しておくか。


「みんな、聞いてくれ」

「「はい」」


 オレの声掛けを受けて、道場はシンと静まり返った。

 ……お行儀のよい門下生で助かるよ。


 オレの言葉を聞き漏らすまいと皆、真剣な瞳をしていた。


「一撃必殺を掲げる剣を使うオレだが、余計な殺生はしたくないと思っている。

 弓使いへの攻撃に疑問を持ったトロサールは人間として、必要な優しさを持っていると思う」


 トロサールは照れくさいのか、頭をかいた。


「ただ、完全に戦闘不能にするまで、気を抜いてはいけない。

 例えば……イリヤ、手が使えない状況で、今オレに攻撃できるか」

「できるよ」


 イリヤがその場で足をまっすぐ振ると、小さな針がオレ目掛けて飛んできた。

 靴を脱いでいたから、足の指で針を飛ばしたんだろう。


 剣を振るい、針を打ち落とすと拍手が沸き起こった。


「弓使いに接近したから、攻撃されないだろう。

 手を使えないから、この距離では攻撃されないだろう……

 誰しも奥の手を持っている。

 そう思って、弱った相手には接するように。

 以上だ」

「「ありがとうございます!」」


 綺麗な礼が道場を埋め尽くした。


「さて、じゃあ私たちがとりあえず、連れていくよ」


 レイラがならずものの片づけを請け負ってくれた。

 道場破りは余罪があることも多いため、負けた場合はギルドでキツイ取り調べを受けることになる。


「よろしく頼む」

「まあ、これが仕事だからね。

 じゃあ、皆行くよ!」


 レイラの掛け声で、冒険者たちがのびた道場破りたちを運び出していった。


「じゃ、朝ご飯の続きを食べるか」

「先生、もうお昼の時間ですけど……」


 時計を見ると、確かにもうそんな時間だ。


「今から、ささっと何品か準備して朝と昼一緒にいただきましょうか」


 エメラルドの提案に、オレもイリヤも賛成した。


「じゃあ、私お昼作りに行きますね」


 エメラルドは足早に食堂へ。


「じゃあ、ボクは門下生たちを見ようかな」


 門下生たちは目の前で行われた熱戦に興奮冷めやらぬといった様子で、一生懸命型の練習をしていた。

 

「イリヤ師範代、質問いいですか?」


 イリヤの周りにはあっという間に門下生たちが詰めかけて輪を作った。


「いいよ、順番に答えてあげる」


 イリヤは丁寧に門下生たちの指導に当たっていた。



 ――門下生たちが帰り、昼食を済ませたオレは庭先に出て、剣の手入れを行っていた。

 

「エメラルド、魔法剣でも手入れは通常通りでいいんだよな?」

「そうですね、魔法学園ではそう習いましたけど……」


 庭先の掃除をしていたエメラルドが答えた。


 とりあえず、通常通りの手入れでいいか。

 砥石で研ぎ、清潔な布でよく表面の汚れを取り除き、劣化を防ぐオイルを塗りこむ。


「こんなものかな」


 納刀し、立ち上がろうとしたところに屈強な男たちが庭先に大きな箱を二つ持ち込んできた。


「冒険者ギルドからでーす」

「こっちは王宮からでーす」


 男たちが乱暴に落とすものだから、庭先が揺れた。

 中身がぎっしりと詰まっているのかもしれない。


「何、地震?」


 2階にいたイリヤが足早に駆けつけてきた。


「王宮と、冒険者ギルドからお届け物ですって」

「え?」


 イリヤとエメラルドが宝箱の周りに集まった。


「「せーの!」」


 3人で宝箱を開ける。


「綺麗……」


赤い魔石から発する光が金貨に反射してきらめいていた。


「金貨だけが大量に入ってるのが、王宮からだな」

「ギルドのは、大きな魔石と、牙に爪、鱗……全部換金しなかったの?」


 イリヤが尋ねた。


「我々の装備もいいものに新調しようかと思いまして……龍の素材があれば、伝説級の武器や道具が作れますから……先生、どうでしょうか」

「お前がオレにそう言うってことは、既に何をどうするか決めてたりして」


 ちょっとした冗談のつもりだったが……

 エメラルドは両手をパチンと合わせた。


「さすが、先生ですね!

 すでに、こういうのはどうかと調べてあるのです!」


 エメラルドは何やら素材と、成果物がびっしり書かれたリストを見せてくれた。


「……イリヤはそれでいいか?」


 イリヤはエメラルドが取り出したリストをじっと見つめていた。


「先生用の火炎の魔法剣と、ボク用の魔法双剣、それにエメラルド用の魔法盾か……」


 イリヤもニヤニヤが止まらない。


「だいぶ強くなりそうだね」


 迷宮を攻略して、褒美をもらい、武器防具を強化して……未知なる迷宮へ挑むのだ。

 ……オレも随分、冒険者らしくなってきたものだ。


 金貨そのものよりも、冒険者稼業が順調に回りだしたことがオレにとって一番うれしかった。

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