54 火龍との戦い(2)
火龍が鉄血十字団の団員たちに火のブレスを放った。
「「う、うわああああ!」」
絶望してその場に立ち止まっている団員たちを守るため、火竜の攻撃を氷剣の一閃で受け流す。
「「……助かった?」」
へなへなとその場に崩れ落ちる団員たちにオレは語り掛けた。
「お前ら、鉄血十字団を辞める気はないか。
オレはノイスが嫌いだから、ノイスと、ノイスに付き従う者たちはおいそれと助けてやれない。
ノイスは他の冒険者を見捨ててきたし、お前らもそれを見て見ぬふりをした、そうだろう。
人を助けない奴らは、自分が困ったときにも助けてもらえないんだ」
団員たちは困っていた冒険者を見捨てたのが後ろめたかったのか、下を向いた。
「聞いてくれ。
ノイスは妻子を人質にし、お前らを盾にして、自分達だけ逃げようとした。
オレは大したことない人間だが、ユトケティアのギルドマスターも、クレイ侯爵家の令嬢も、ガーファの王女もオレに味方をしてくれる。
お前ら、オレがお前らとその家族の食い扶持くらい用意してやる。
今から、鉄血十字団を抜けてオレの下につけ!
オレが今から、お前たちを守るから」
「「おおおおお!」」
団員たちは涙を流して喜んでいた。
「早く逃げろ、オレとノイス達でしんがりを務めるから。
お前らの団長と幹部たちに、自分のミスの責任を取らせてやるからな」
「「オレ達も戦います!」」
団員たちは涙を流して全員一緒に戦うと申し出てくれた。
……えっと、とっとと逃げて欲しいんだけど。
さすがに守りながら戦えないし。
レイラとエメラルドが側に来た。
「これから皆さんはアスラン一刀流の門下生です」
「「はい!」」
エメラルドの呼びかけに団員たちは嬉しそうに返事をした。
にこりと笑ったエメラルドは話を続けた。
「アスラン先生の剣を一つも覚えずに死ぬのは許しません。
王都に帰ったら、先生の剣を見て、剣を振るって自己研鑽に努めるのです。
……いいですか。
皆さんがユトケティアに家族を呼び寄せ、幸せに暮らし、アスラン先生の元で学び、いつの日か剣でお返しをする日まで、死ぬことは許されません。
いいですか!」
「「はい!」」
エメラルドの言葉が響いたのか、団員たちはようやく撤退を始めた。
「レイラ、団員たちとこの少女を連れて下山してくれないか。
今は気を失っているが……親が斬られてるところを見せたくない」
「ははは、さすがだね。
アスランさん、火龍を倒す気なんだね……わかった、この子はギルドマスターの名誉にかけて、守り抜くよ」
レイラは龍の少女を担いで下山を始めた。
「エメラルド……危険な戦いになどホントは連れて行きたくないが、一緒に戦ってくれるか?」
「はい!」
エメラルドはオレの手を握った。
「氷魔術が得意な元王宮魔術師長が、火龍と戦わなくてどうするのですか!
先生のお役に立つこの日のために、私は魔術と剣を磨いて来たのですから!」
ははは、エメラルドはやる気満々だ。
正直、火龍相手にこれ以上のパートナーはいないのだが……愛弟子を危険に晒したくないのは、単なるオレのわがままなんだろうか。
「エメラルド、解いてやれ」
「はい」
エメラルドが剣を軽く振ると、ノイス達を閉じ込めていた氷壁が消えた。
「助かった……」
「助かってないぞ」
オレはノイス達に詰め寄った。
「火龍を怒らせた責任は取ってもらうぞ。
とはいえ、お前らが戦力になるとは思えない。
だから、囮くらいにはなってもらうぞ」
「「ひいいいいい!」」
――オレとノイス達が最前線に立ち、エメラルドがその後ろに魔法陣を描いて控えている。
上空を飛ぶ火龍に対して、囮作戦がどうしても必要だ。
ノイス達にはかなり役に立ってもらうからな。
「「ひいいいい」」
身体を震わせるノイス達に声をかけた。
「行くぞ、お前ら!
たまには命令するだけじゃなくて、自分で最前線で働け!
一斉射撃!」
「「ひいいいいい!」」
オレの命令によるノイス達の一斉射撃。
どうやら火龍を怒らせることには成功したようだ。
「グオオオオオオ!」
火龍はまんまとオレたちのところまで高度を下げた。
ノイス達の前で火龍はブレスを吐こうとする。
「お前ら、逃げるなよ!」
「ひいいいい」
オレはノイス達の前に立つ。
【氷柱】
エメラルドの魔法、氷柱はノイス達を守る壁であり、オレにとっては足場だ。
オレの足元で氷柱が伸び、あっと言う間に火龍の高さを超えた。
一瞬、火龍は何が起きたかわからずオレを見失ったのだろう。
首が隙だらけだ。
氷柱から火龍の首めがけて落下し、上段に氷剣を構えて全力で振りかぶる。
敵を一撃で倒しきることにこだわったユトケティア王国一の剣術、火龍にも通じるとオレが証明してみせる!
やはりここ一番で頼るべき技は、何度も何度も振り続けてきたアスラン一刀流の基本中の基本技、オレにとっての必殺技、【初太刀の型】だ!
落下の勢いと合わせて、剣の振り、氷剣の魔力をすべて剣が首に当たる一瞬で炸裂させる。
――上段から叩きつけられた剣は、落下の勢いも加わって火龍の硬い鱗を砕き、剣を肉にめり込ませたが、骨にかちあたるとなかなか進まなくなった。
火龍は苦痛に身をよじらせようとするが、肉に食い込んだ剣をオレが離すことはない。
火龍の身体から発する身を焼くような高温に耐えながら、火龍の首に足をつけ、踏み込みの力も利用して、剣を進め続ける。
「おおおおおおお!」
武器も作れるほど硬い龍骨の抵抗を、ただの根性だけで砕きながら進み、身体が焦げそうになりながらも、力強く剣を押し進めた。
バキィンと竜骨が壊れる大きな音がすると、抵抗はもうないも同然だった。
「はああああああ!」
叫び声をあげながら、剣を振り抜いて残りの肉を断つ。
次の瞬間、オレは地面へと落下した。
やった!
火龍の首を斬り落としたぞ!
落下の衝撃も気にならないほど、達成感に満ち溢れていた。
「グオオオオ……」
断末魔の叫びをあげて、火龍は身体を地に横たえた。
「先生……」
エメラルドは倒れたオレの手を握ると、自分の頬に当てて、嬉しそうに涙を流した。
「おめでとうございます、先生。
先生は、ユトケティアの歴史に名を刻みましたよ。
何と言っても火龍を倒したのですから」
「喜んでくれると、凄いことをしたんだって実感がわいて来るな」
「凄いことをしたんですってば」
そう言いながらエメラルドは自分の手に魔法をかけ、オレの身体をゆっくりと冷やしてくれていた。
あちこち火傷してるからな。
「そういえば、ノイス達は?」
「逃げるなって言ったのに、逃げるからブレスに当たってあそこで焦げてますよ」
「「うう……」」
髪と装備を溶かされ、悲惨な姿になっているノイス達だが、一応エメラルドの魔法で適当に氷をぶっかけられ、一命は取り留めていた。
オレとはだいぶ扱いが違うな。
「先生、そんなことより……ほら!
空を見てください!」
エメラルドの指先に眼をやった。
「瘴気が晴れて行きます!」
火龍が倒れて、瘴気の元がなくなった空は、急速に晴れ渡っていった。
「先生、私たち迷宮踏破しましたよ!」
「やったな」
晴れ間に照らされたエメラルドの笑顔がまぶしい。
迷宮を踏破したことも嬉しいが、エメラルドが喜んでくれることも、オレにとっては嬉しいことみたいだ。
読んでいただきありがとうございます。
これにて5章完結となります。
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