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52 火龍と龍の少女

「ここは救出終わったみたいだね」


 レイラとともにもう一度、中腹に取り残された冒険者がいないか確認して回った。


「こちらも誰も居ません」


 別行動していたエメラルドも辺りの確認が終わったようだ。


「よし、じゃあオレ達も上に上がるか」

「ああ」

「はい!」


 ――ますます傾斜がきつくなる中、灰色の岩肌を駆け上る。

 上がれば上がるほど、瘴気は濃さを増してきていた。


「……くぅうううう……」


 エメラルドは体力の多い方ではないから、顔から尋常じゃないほどの汗を流し、それでもへこたれず、歩みを止めることはない。


「ねえ、アスランさん。

 魔術師の女の子にこの坂は辛いんじゃない?

 おぶってあげたら?」


 額に汗をにじませながら、レイラはエメラルドを気遣っていた。

 エメラルドと長い付き合いのオレは、首を振った。


「大丈夫です、レイラさん。

 私は女の子でも、魔術師でもありません。

 立派な大人ですし……剣術も修めていますから!」


 ほらな。

 オレはレイラに耳打ちをした。


「言って言うこと聞くならそうしてる。

 エメラルドはな、ぶっ倒れるまで自分の頑固を貫こうとするんだぞ」

「……困った公爵令嬢だね」

「全くだ」

「き……聞こえましたよ、ふ……二人とも……私の、悪口……言いましたね……」


 おい、エメラルド。

 怒るのか呼吸するのかどっちかにしろよ。

 今にも倒れそうな顔しながら文句言うなよ。


 突如、火山を揺るがすような咆哮が聞こえた。

 聞くものすべてを畏怖させるような、そんな迫力があった。


「アスランさん、ちょっとヤバいかもよ。

 私、この咆哮さ。

 昔子どもだった時に聞いたことがあるけど……聞いた瞬間逃げ出したんだ」


 レイラは身体を震わせた。


「オレも昔、遠くで聞いたことがあるだけだな。

 もちろん聞いた瞬間、声が聞こえる方から反対側に駆け出した」


 ゴクリと唾を飲み込んだ。


「私は聞いたことないですけど……聞いただけですぐに逃げたい気持ちになっています」


 オレたちは、上空を仰ぎ見た。

 瘴気がある一点から噴き出しているのが見て取れた。


 そうか、この咆哮はとんでもない瘴気をまき散らしている元凶だと言うことか。


「ギルドマスターとして、こんなこと言うの情けないんだけどさ。

 逃げちゃおうか」


 レイラが笑いながらそう言った。


「冷静な判断なのかもしれませんね」


 エメラルドはうなずいた。


 二人の視線がオレに集中する。


「そうだな……オレは……」

「「うわああああああ!」」


 上方から、悲鳴が折り重なって聞こえてきた。


「行くぞ!」

「ええ!」

「はいよ!」


 逃げようとしていた二人も、オレについて来てくれるようだ。

 たぶん、二人とも人がいいんだろう。

 助けられるんだったら、助けてあげたいよな。


 ――悲鳴を聞き、駆けつけた先には瘴気が渦巻いていた。


 そして、その瘴気の渦の中心には、赤い鱗に覆われた巨大なモンスター……火龍がいた。

 その爪のひとつだけで、人間一人分を超えようかという巨体の火龍が、こちらを見据えていた。


 その火龍と向かい合っているのは、ノイス率いる鉄血十字団だ。

 

 前方の団員たちが腰を抜かしてへたり込んでいたから、さっきの悲鳴はあいつらのものだろうな。


 へたり込んだヤツらの周りから煙が上がっているのを見ると、火龍がブレス攻撃をしたのだろうか。

 だが、ブレス攻撃を受けたにしては不思議なことに今のところ死者は出ていないようだ。


 変だな、火龍のブレスなどまともに食らっては、普通の人間などひとたまりもないはずだ。


 火龍の前には、赤い服を着た少女が一人。

 黒い髪に、真っ赤な瞳。

 どこか儚げなその少女には、人を惑わすような魅力が備わっていた。

 ぱっと見、10歳くらいにしか見えないんだが……

 

 どうしてこんなところに少女が――と思ったが、頭の上に角があるうえ、平気で火龍の顔に手で触れている。


 おそらく……人に姿を変えた龍だろう。


 ただの人間が火龍に触れたならば、触れた箇所は瞬時に火傷、いや消し炭になっているだろうから。


 赤い服を着た少女は毅然とした態度で鉄血十字団に向かって語り始めた。


「ママをいじめないで」


 少女は両手を広げ、火龍をかばっていた。


 部下を周囲に立たせたノイスは恐る恐る立ち上がってこう言った。


「……何言ってる? ブレスを食らわせたくせに!」


 ノイスは威勢よく、少女を非難した。


「ママは驚かせただけ、当たってないじゃない。

 私達のこと、放っておいてよ」


 少女は下を向いたままそう言った。


「放っておけるわけないだろ!

 この瘴気が見えないのか!」


 ノイスは火龍から吹き上がっている瘴気を指さした。


「龍は多大なる魔力を持つ。

 それは、モンスターと対峙する者の基礎知識だ」


 ノイスは気分良さそうに語り続けた。


「飛ぶにも動くにも食事をするにも、龍は等しくその魔力を消費し、そしてそのために魔力を産み続ける。

 だが、龍の長い命が終わるとき……その身体は魔力を保っておけず瘴気を放ち、やがて瘴気に飲まれ朽ちるという。

 そして、その瘴気によって迷宮が生まれ、人の生活領域は後退する」


 ノイスは機械弓を少女に突きつけ、こう言った。


「寿命が尽きようとして、瘴気を生み出す狂龍になってるヤツをこのまま放っておけるか!」

「……それは、謝る」


 少女はぺこりと頭を下げた。


「ママは、少し私と話したいって言ってるの。

 私、これから一人で生きていくから、そのために必要なことを教えてくれるって」


 少女は必死に言葉を続けた。


「話し終わったら、ママと私はすぐにここの火山から出てく。

 だから、ちょっとだけ……今夜だけでいいから、時間が欲しいの」


 頭を下げた少女の瞳から涙がこぼれた。


「その間にも、瘴気が沸き、火山に溶岩が沸き続けている。

 どうしてくれるんだ!」


 ノイスはその少女に詰め寄った。


「……今日だけでいいから」


 少女は膝をつき、頭を下げた。


「……今日、殺すのも明日殺すのも同じだろうが」


 ノイスは冷たく言い放った。


「もし、火龍が寂しがるなら……お前も一緒に地獄に送ってやるよ」


 ノイスは笑いながら機械弓で少女に狙いをつけた。


「……ううう、今日だけは一緒にいさせてよ……

 何でわかってくれないの? だったら……」


 息を大きく吸い込み、少女はブレスを吐いた。

 それを見て、瞬時にノイスは機械弓を発射した。


「死ねぇっ!」

「グオオオオオオオオ!」


 それを見た火龍は怒りに雄たけびをあげる。

 クソ、ノイスのバカ野郎、いたずらに死人を増やしたいのか!

 

 あえて、人間たちを攻撃せずにいてくれたんだぞ?

 オレは二人の間に立ち、少女めがけて飛んでいくボウガンの矢を掴んだ。


「……バ、馬鹿な!」


 ノイスは驚いて地面にへたり込んだ。


 さて、矢の次はブレスか。

 龍の少女のブレスがオレの眼前に迫っている。

 さすがに食らうと無事じゃ済まないよな?


【盾の型、風鏡】


 火のブレスに対し、剣を一周まわして冷気の風を発生させ、相殺した。


「え……」


 ブレスを止められ面食らっている少女に近づき、首元に手刀を入れる。


「悪いな」

「あ……」


 気を失った少女を担いで火龍の前に立つ。

 今にもブレスを吐きそうにいきり立っているように見えた。


「すまない、火龍よ。

 怒りを鎮めてくれ。

 オレの名誉にかけて娘を傷つけるようなことはしないから」


 火龍は咆哮をやめ、オレを両の眼で見据えた。

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