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04 借家の道場に、弟子たちが集う

 ――何だか騒がしくて目が覚めた。


 オレの家の2階の寝室から下へ降りると……


「「アスラン先生! おはようございます!」」


 うら若き生徒たちが廊下を雑巾がけしていた。


「……おはよう」


 とりあえず挨拶を返したが……どういうことだ?

 オレの家の廊下に、女生徒がたむろしてるんだが……


「あ、先生。

 珍しくねぼすけさんだね」


「おい、ユイカ」


 ユイカの肩を掴んだ。


「何がどうなってる? 説明しろ」


「私だってわからないよ。

 先生のところで朝稽古しようと思ったら、すでにみんな来てたんだよ」


「グレアス一刀流のところの生徒がここにいるのはまあいいとしよう。

 全然見たことない子がいるんだが?」


「なんかね、いい剣術道場が出来たって、冒険ギルドから情報を得たみたいだよ?」


 昨日そんな話したっけな? ところどころ覚えてないぞ?

 レイラが無茶苦茶飲ませてきたからな。

 

「まあいいか、とりあえず稽古を始めるか」


 グレアス一刀流の生徒が15人、まったく見たことない子が15人か。

 でも、オレは剣術指導をするなんて言ってないぞ。

 

 見て学びたければ、見て学べばいい。


 さて、稽古をはじめるか。


 オレが息を吸った途端、みながオレに見入っている。

 動きの一つ一つを、見逃すまいとする熱のこもった視線だ。

 

 なるほど、グレアス一刀流の中でも、熱心だった子たちがここに来てるんだな。


 新しく見る子も指を見ればわかる、間違いなく剣をふるって来た子たちだ。


 女の子しかいないのが気になるけどな。


 吸った息を吐き、自然な呼吸をして棒立ちの状態を作ってから、下に落ちた剣を握る。


 連戦の中での初太刀を意味するこのルーティーンが、グレアス一刀流の基本の型だ。


 一撃必殺を掲げるグレアス一刀流は、初太刀にて敵を葬るのを一番としているため、もっとも重視するのがこの【初太刀の型】だ。


 流麗な連撃を得意とするマリクは、この型をおざなりにしていたけど、オレは今でもこの型が最強だと確信している。


 棒立ちの態勢から、身体を斜めに、いわゆる【半身】の態勢を作り、剣を振り上げる。


 剣の重みと腕の振り、腰、胸、肩、背中の筋力をすべて使って相手に斬り下ろす。


「はあッ‼」


 渾身の一撃での素振り。


 風切音とともに、心地よい衝撃が全身に跳ね返る。


 どよめきと拍手が巻き起こる。


 生徒たちはオレの身体の動かし方をトレースしようと、熱心に体を動かしていた。


 初太刀を5回ほど繰り返した後、他の型に移る。


 グレアス一刀流は一撃必殺を掲げる流派だ。


 しかし、間合いで劣る弓矢、槍、魔法に対しては、回避や防御からの戦闘を余儀なくされるため、それらに対する型もある。

 

 剣で槍をいなす【槍破の型】。


 足さばきで弓を交わし、ナイフを投擲する【弓殺の型】。


 硬い外殻を持つモンスターに対する殴打技、【岩砕の型】。


 詠唱中の魔導士にナイフを投擲し、急接近して斬る【魔制の型】。


 それぞれを5回ほど素振りし、朝稽古は終わりだ。


 グレアス一刀流の素振りは、完全に集中し、全身の力を使って行うため、あまり回数はこなせないからだ。


 時間に余裕があれば、試合形式の組手を行うわけだが、今日は相手がいないからな。


「「ありがとうございました‼」」


 生徒たちは動きをトレースして微細な違いを修正しながら、繰り返し練習していた。


 朝ご飯を食べ終わった後も、生徒たちは自主練を繰り返したり、周りと話したりして動きの確認を行っていた。


 いや、熱心だけどさ。

 ここはオレの家で、剣術道場じゃないよ?


「よし、オレは冒険者ギルドに行くからもう帰れ。

 明日からは各自道場で練習するんだぞ」


 わかったな?

 オレんちじゃなくて、どこか他の道場に行くんだぞ?


「「はい、わかりました! 明日またここの道場に来ます!」」


 ピタリと息の合った返事をして、彼女たちはそそくさと帰っていった。


「あれ?

 オレの言うこと、なぜ伝わらないんだ?

 ここ道場じゃないんだってば……」


 自分の道場へ行けといったつもりだったが、彼女たちはここを道場だと思ってるらしい。

 ふう、とりあえず今日の仕事をしないとな。


 ――道場に鍵をかけて、冒険者ギルドへ。


 昨日にぎわっていた冒険者ギルドだったが、今日はガラガラ。


 受付嬢に聞いたところ、冒険者の中で二日連続働かなくても大丈夫なほどお金を持ってる人は珍しいとのこと。


 なるほど、あいつら昨日宴会したから今日は稼がないと飯が食えないわけだな。


 掲示板をのぞく。


 しかし、みんな危険度と報酬の高い依頼を取ってしまっていて、薬草の採取や落とし物捜索など、めんどくさそうで報酬の安いものばかり残っている。


 まあ、とはいえオレは初心者冒険者なんだから、この辺の人気のない依頼でいいか。

 

 掲示板からボードを取り、ギルドの受付嬢に渡して依頼を受ける。

 

 街道で落としたネックレスを探すのはなかなか骨が折れたが、気合と根性で見つけてみせた。


 道中、リザードマンやゴブリンの襲撃を受けたので、斬る。

 なるほど子どもが、ギルドに依頼を出すわけだ。


「ありがとうございます!」


 落としたネックレスの報酬は、果物二つと子どもの笑顔だ。

 それと、親御さんが焼いてくれたホットケーキと紅茶。


 ありがたく頂き、その甘みと温かさで舌と心が満たされた。


 懐は全く温まらなかったが、こんな日があってもいいだろう。


 日が落ちる前に依頼を終えて、道場に戻った。


 ★☆


「先生、先輩たちが来てくれたよ‼」


 道場に帰るなり、ユイカが大喜びで駆け付けてきたが……


 いや、その前になんでユイカがいるんだ? オレ鍵かけたはずだぞ?


 黒髪の侵入者ユイカには笑顔がこぼれていた。


「おい、どうやってここに入った?」


「そんなことどうでもいいんだって、ビックリするよ!」


 ユイカに手を引かれ、道場へ。


「「先生、お久しぶりでございます‼」」


 座布団の上にお行儀よく座っている美女二人から、息のそろった挨拶を受け取る。


「お前たち、どうしたんだ!」


 嬉しくなって思わず二人と握手をした。


「二人とも偉くなったって聞いたぞ? 忙しいところ、出向いてくれてありがとうな」

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