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38 迷宮認定

「そんなに大広場に買い物行きたかったのか?」


「あの……」


 街道をエメラルドと二人で歩く。どこに行くかは光図こうずである程度判断できた。

 強い魔力を持つ光の近くに、レイラがいるに違いないから。


「先生がイリヤと買い物行ったときのロウソク綺麗でした。

 夜にぼんやりと光って……」


「ああ、あれ面白かったな。

 光だけじゃなくて、色によって匂いも違ってさ」


 市場で買った色と匂い付きのロウソク。

 イリヤはゲラゲラ笑いながら遊んでいた。

 

 綺麗だなとは思うが、笑うようなことはないだろ……イリヤは『先生、赤い赤い』って床をバンバン叩いてたが……


「その時のイリヤの顔が見たこともない笑顔だったから……羨ましくて」


 エメラルドが金色の髪をかき上げながら、オレを見て笑顔を見せてくれた。

 

「じゃあ、帰ったらすぐに行くか」


「はい!」


 ニコニコとエメラルドはほほ笑んでいた。


 お前が誘えば、ついて来る男なんて山ほどいると思うけどな。

 

「ユイカも大広場の焼き鳥が美味しいって言ってたんです。

 楽しみです!

 さっさと終わらせて帰りましょうね!」


 エメラルドの歩く速度が変わったのは、オレの勘違いじゃないよな?


「アスラン先生、速く行きましょう!」


 ――エメラルドにせかされてあるくと、ようやくレイラが見えてきた。


「や、アスランさん」


 大勢の冒険者に囲まれて、レイラは話し合いを行っているところだった。


「良いのか、話し合ってたみたいだけど」


「ああ、終わって雑談してたからいいんだ」


「そうか」


 レイラはオレ達に簡素な椅子を進めてきた、っていうか丸太だなこれは。


「緊急って言ったのに遅かったね、何かトラブルあった?」


 その言葉に非難するニュアンスがないのはオレたちを信じてくれているということだろう。


「すまん、トラブルがあった」


「やっぱりか……話してみてよ」


 オレはレイラに今まであったことを話した。


 魔法学園を助けたこと、吸血鬼を倒したたこと、イリヤが騎士団に呼ばれていったこと。


「え?

 騎士団側の戦線が復活したって聞いたけど……」


 オレはうなずいた。


「イリヤの手腕だろうな。

 さすがガーファの元騎士団長ってことだ」


「私はアスランさんが何かやってくれるのかと思ってたけど……すごかったんだね、あの子」


 レイラは感心していた。


「でもさ、吸血鬼って本当?

 不死って言うけどさ、本当に倒したの?」


 エメラルドがオレの方を見た。


「……倒した」


「……そうか、ま、アスランさんが言うならそうなんだろうね。

 信じてるよ」


 レイラはオレの肩を叩いた。


「それでさ、緊急招集って何があったんだ?」


「アスランさんなら街道を見て来てたなら分かってくれるんじゃない?」


 異常なほどのモンスター。

 ユイカの初依頼の時、火炎鬼フレアオーガがトルトナム湖に現れた時から、異常を感じてはいた。


「ブレンダン火山か」


「そう、噴火するのかどうかはわからないけど……ブレンダン火山にはとんでもないほどの瘴気が満ちてる」

 

 レイラが指差した先で、黒煙が上がっていた。


「どうするんだ?」


「火山自体がどうなっていくか、私には予想もつかないけどさ。

 対策することはできる」


 レイラが指さした場所には魔力を練り込んだロープが引かれていた。


「ここまで強くなった瘴気に対しては、通常の人間では対抗できない」


「そうだろうな」


「王都ディオラの冒険者ギルドは、ブレンダン火山を迷宮ダンジョン認定することにした」


 迷宮ダンジョン認定。

 ほっておくと瘴気をまき散らす厄介な場所を隔離し、人間の住まう場所と冒険者(死にたがり)の稼ぎ場所をわける作業。

 

 王都の警備隊も、魔術師団も迷宮ダンジョン認定された場所には手を出さない。

 そこは、通常に人間の領域ではなくなっているから。

 

 冒険者(死にたがり)しか、そこには入らなくなるんだ。

 ただ、その周りには結構な数の衛兵が立つ。


 境界をはみ出したモンスターに対しては、騎士団や王宮魔術師団の役目だ。


「へへ、喜びなよアスランさん。

 私たちの仕事場がまた一つ増えるんだからね!」

「オレ、ランクが低いからまだダンジョン探索にいけないんだけど……」


 オレは数日前に一番最低のウッドランクからスタートしてる。


「今アスランさんは……」


 レイラはぺらぺらと手帳をめくった。


「んー、火炎鬼フレアオーガを倒したから【ストーン】ランクに昇格だね、おめでとう」


 レイラは拍手をしてくれた。


「ああ、アスラン先生。

 やはり、先生は素敵です!」


 エメラルドは涙を流していた。

 いや、【石】ランクはやってりゃなれるって聞いてるんだが……


「は? 火炎鬼フレアオーガを倒したって言ったか?」

「倒して昇格したって言ってなかったか? 木ランクが火炎鬼フレアオーガを倒したのか?

 嘘だろ?」


 周りの冒険者たちは驚いていた。


「でも、今度吸血鬼倒したなら、次はランク上がるんじゃない?

 牙とか持って帰ってないの?」


 レイラは吸血鬼の話に感心があるようで、身を乗り出して聞いて来た。


「……ないな」

「うわー、もったいない。

 吸血鬼退治なんてダンジョン退治と肩を並べるほどの功績なのに」


 レイラはがっかりしてくれた。


 エメラルドは何か言おうとしていたが、オレが目で制した。


「そうだな。

 でもいいんだ、冒険者はゆっくりやるって決めてるから」


 オレは、冒険者を始めるときに決めたことがある。

 

 一つ、したくないことはやらない。

 二つ、やりたいことは報酬が安くてもやる。


「ふふ、アスランさんらしいや」


 レイラは立ち上がった。


「冒険者や騎士団たちの活躍で、だいぶ人間の活動領域を取り返せた。

 後さ、トルトナム湖に今いるモンスターを倒してブレンダン火山を迷宮化する。

 みんな、最後の仕上げだよ!」


「「おお!」」


 冒険者たちもやる気満々と言った様子だ。


 オレの隣にも尋常でないやる気を出している奴が一人。


「……絶対に活躍して見せます!」


 エメラルドは眼の色を変えていた。


「どうした、やる気が凄いな」


「私、改めて思ったんです。

 イリヤもジゼルも……私のライバルはとっても凄い人たちです。

 ですから、全力を尽くさなくては欲しいものは手に入らない……」


 エメラルドは決まりきった顔でオレを見た。


「私は手に入れますよ、アスラン先生。

 では、行ってまいります」


 エメラルドの手に入れたいものって何なんだろうか。


「いや、オレも行くけどな」


 ……あまりオレの声は聞こえてないようだ。


 レイラの後をついていくと、王都ディオラが誇る冒険者たちがトルトナム湖畔東側へ集結していた。

 レイラの話によれば、西側はイリヤ率いる騎士団が何とかしたらしい。


 しかし、オレの弟子はホントに優秀だな。

 オレみたいに剣を振るうだけでなく、攻撃魔法や支援魔法でそれぞれ最高峰の実力をもってるんだからな。


 ……もっと、オレも頑張らないとな。


「さて、じゃあ行くよ。

 みんな!」


「「おう!」」


 レイラの掛け声に、王都ディオラが誇る猛者が呼応した。


 その声を聴き、ゴブリン、オーク、リザードマン、オーガ火炎鬼フレアオーガ……トルトナム湖に集結したモンスターは一斉に雄たけびをあげた。

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