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37 先生と弟子

「この小箱に吸血鬼が詰められてるってこと?」


 洞窟を抜けたオレ達5人は街道を目指していた。

 オレとエメラルド、ユイカ、カンナ、ジゼルはひとつずつ小箱をもっている。

 さすがにオレでも5個全部持つのはつらいものがあるからな。


「ええ、アスラン先生に牙と翼を斬られた吸血鬼はたまらず水蒸気となり逃げだそうとしました。

 そこで、私が大魔法を使って……」


「アスランさん、ありがとね。

 また、助けてもらったわね」


 ジゼルはバツが悪そうに笑った。


「だが、王都の近くに魔族が潜んでいるとは思わなかったな」


 王都からはるか北のほうには魔族領域が広がっている。

 魔族は人間よりはるかに強大な存在だが、基本的に魔族領域から出てくることは少ない。


 だからこそ、こんなに近くに吸血鬼がいようとは思わなかった。


「それにしても……目が合っただけで心を奪われるとはね、ちょっと自分が情けなく思えてくるわ」


 ジゼルが苦笑した。


「仕方ないですよ。

 私だって目があえば抵抗できなかったと思います。

 だから、ずっと氷壁の後ろに隠れていました」


 エメラルドは悔しそうにそう言った。


「息を吸うように魔法を使う……それが魔族と聞いてはいましたけど」


 カンナがつぶやいた。


「まさか片目をつぶるだけで魔法効果が発動するなんてね。

 私、操られて先生に斬りかかってたし……

 でも、さすが先生。

 私の攻撃、全部完全に見切ってたね」


 ユイカは小箱を小脇に抱え直し、拍手してくれた。


「操られてる時のこと、覚えてるのか?」


「うん」


 ユイカだけでなくジゼル、カンナもうなずいた。


「頭がぼんやりとして、身体とつながってないようなかんじで……でも、聞こえたし、見えたよ。

 私の剣に先生がどう対処してたのか……すごくよく見えた」


「ただ、ユイカの剣じゃなかったから楽だったぞ。

 本当のユイカの剣は一撃一撃に力があるからな」


「ホント?」


 ユイカは飛び上がって喜び、黒髪の二つ結びがはねまわっていた。


「カンナ、走るよ!」


「え? まあ、いいですけど……何の意味があるんです?」


「アスラン先生に褒められたから、走るの!」


 ユイカはカンナの手を取って走り出した。


「……いいなあ、ユイカちゃん」


「何?」


「何でもないですよ、走りましょう!」


 二人は無駄にわーきゃー叫びながら走り出した。


「私、ユイカちゃんのこんな笑顔見たことなかったわ。

 アスランさん、褒めるのが上手なのね」


 ジゼルは感心していた。


「そうか? まあ、ユイカは頑張ってるなあとは思うよ。

 アイツは豪商の娘だから、剣も魔法もやりたくなきゃやらなくていいんだ。

 王都にこもってソロバンはじいてれば暮らしてはいけるだろう」


「先生、変なキノコあったよ!」


 あっというまに遠くまで行ってしまったユイカは大声でオレに報告してきた。


「何かわからないなら触るなよ」


「もう遅い、触ったもん」


「アホか!」


「私、見てきます!」


 エメラルドがユイカたちのもとへ走っていった。


「ユイカは外の世界を見たいんだっていつも言ってる。

 そのために、剣も魔法も頑張ってるようだから、オレが気づいたことぐらいは言ってあげたいんだよな。

 ユイカは成長してるぞって」


「私もアスランさんみたいにもう少し生徒に向き合わなきゃいけないのかもね。

 大人になっても、私は自分のことばかりだわ」


 ジゼルはつぶやいた。


「「先生! 街道についたよ!」」


 ユイカとカンナは大声で騒ぎ、手招きをしていた。


「はーい、今行くわよ」


 街道についたが、ウルザ魔法学園のジゼル、ユイカ、カンナとはここでお別れだ。


 カンナが銀色の三つ編みを震わせながら、オレの近くに来た。


「……どうした? カンナ」


「あ……あの……」


 カンナは下を向いていたが、覚悟を決めたのか顔を上げ話し出した。


「アスラン先生、ジゼル先生のこと怒ってますか?」


「……そうだな、そういえば怒ってたな」


 色々あって忘れていたが、殺気をとばして驚かすくらいには怒っていたな。

 カンナはぎゅっと手を握りしめ、決意したように話し出した。


「ジゼル先生は、覚えの悪い私にずっと付き合ってくれるいい先生なんです。

 それに、ユイカちゃんが止めたのに先生は連れ去られた私のために飛び出してくれました。

 アスラン先生、ジゼル先生をいじめちゃダメですよ」


 温厚そうなカンナが一生懸命唇を尖らせ、人差し指をたてて怒っているようだ。


「カンナ……」


 ジゼルは瞳を潤ませていた。


「へえ……オレがジゼルをいじめたらどうなるっていうんだ?」


「私が……」


「私が?」


 カンナは体を震わせながらもオレをにらんでこう言った。


「私がアスラン先生を叱ります!」


 いい子だな、ついついからかってしまった。

 くくく、とこらえきれずに笑う。


「わかった。

 カンナに叱られたら嫌だからな。

 約束する、ジゼルのことはいじめない」


「……ありがとうございます」


 カンナは一生懸命オレにお辞儀をしてくれた。


「それと……」


 オレはカンナの前に立ち、目線を合わせた。


「大人の男に文句を言うのは怖かっただろ、頑張ったな」


 カンナの頭を軽く撫でてやった。


「あ……褒められちゃいました。

 でも、私、アスラン先生は怖くないですよ」


 カンナは急に恥ずかしくなったのか、トコトコと歩いてユイカの後ろに隠れた。


「アスランさん、いろいろ助けてもらったわ。

 今度、私ができることでお礼させてもらうわ」


 ジゼルはオレにメモ書きを渡して耳打ちをした。


「これ、私の家の住所。

 一人暮らしだから、いつでもいいわ。

 眠れない日があったら、いつでも来て」


「……からかうなよ」


 耳元に息を吹きかけるなよ。


氷刃剣乱舞アイスブレードブリザード


 急にエメラルドがオレの近くに来て氷の剣を作り出して乱舞をした。


「わわ、エメラルド何するんだよ」


「すいません、先生。

 先生の近くに悪い虫がいましたので、駆除をしました」


 オレが持っていたメモはバラバラに切り裂かれて地面に落ちた。


「あれ? エメラルド随分露骨じゃない」


 ジゼルはにやにやと笑っていた。


「アスラン先生、今度の休みどこか付き合ってくれない?

 生徒の指導のことで相談があるの」


「アスラン先生に休日はありません、冒険者としての仕事、剣術の指導……休みなどないのです」


 二人は視線をぶつけ合っている。


「休みがあっても、私とお買い物にいきますからジゼルと会ってる暇なんてありません!」


 今初めて聞いたが? いや行きたいならいいけどさ。

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