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29 ウルザ魔法学園の生徒たち

「誰か助けて……」


 魔獣の雄たけびに交じって、か細い悲鳴が聞こえた。


 オレとイリヤ、エメラルドは顔を見合わせた。


「……聞こえたな、行くぞ」


「「はい!」」


 街道を離れ、叫び声の元へ足音を消して近づく。


「黒いローブに銀の刺繍。

 あの制服、あの子たちウルザ魔法学園の生徒ですね」


「うん」


 よく制服だけでわかるなと思ったが、そういえばエメラルドとイリヤは、二人ともウルザ魔法学園の元生徒だ。

 ちなみに女子校だ。


「じゃあ、あの倒れてる人が先生かな、近くに杖あるし」


「うう……」


 イリヤが指した方向には黒いローブに三角帽子を身につけた男が倒れ、うめき声を上げていた。


 倒れている魔導士然とした男の近くには、おそらく魔法学園の生徒の女の子だろう、10人ほどが固まって震えていた。


「……震えています、お助けしないといけません」


 イリヤは心を痛めているようだ。


 その生徒たちの周りを5体のゴブリンが取り囲んでいた。


「5体か。

 魔法学園の子たちなら、ゴブリンくらい倒せそうだけどな……あ。

 人質取ってるんだ、最低」


 イリヤは唇を噛んだ。


 線の細い女の子が下着姿にされ、両の手を2匹のゴブリンが掴んでいた。

 そして、ひときわ大きいゴブリンに首筋に剣を突き立てられていた。


 あいつがリーダー格だろう。


「ギャッギャッ」


「たすけて……」


 先ほどの悲鳴はあの女の子のものか。


「どうすればいいの?……」


 他の魔法学園の子たちは助けられない悔しさで拳を握りこんでいた。


「許せませんわ、女の子にあんなことを……」


 エメラルドの眼は怒りに燃えていた。


 隙をうかがい、リーダー格が後ろを向いた途端、オレとイリヤ、エメラルドはゴブリンたちへ向かって飛び出した。


「ギギイ?」


 ゴブリンたちが襲撃に気づいた時には、人質の女の子を抑えていたゴブリンたちの眉間にはナイフが突き刺さっていた。


「ギヤアア……」


 オレとイリヤの投げたナイフはゴブリンの急所を正確にとらえており、ヤツラは叫びをあげて崩れ落ちた。


「もう大丈夫だよ」


「うう……」


 イリヤは防寒用のローブで人質の女の子を包んであげた。

 さて、オレは大将をやるか。


「グ……」


 大将格のゴブリンが襲撃に気づいて叫ぶより早く、上段から斬り下ろし、絶命させた。

 

 子どもたちを取り囲んでいたゴブリンたちが周囲の状況に気付く前に、エメラルドは既に詠唱を終わらせていた。


「ウルザ魔法学園の後輩たち、決して動かないでくださいね!」


氷壁アイスウォール


 エメラルドの唱えた魔法で、氷壁が瞬く間にせり上がり、子どもたちを取り囲んだ。


 ゴブリンごときの力では絶対に破壊されない防御壁は、子どもたちを守ってくれるだろう。


「さて、後は斬るだけだね」


「ああ」


 イリヤとゴブリンたちに剣を振るった。


「「ピギャア」」

 

 5匹のゴブリンは瞬く間に10の肉片に変わった。


「では、溶かしますよ」


 あたりの安全を確認したあと、エメラルドが氷壁に触れ、氷が蒸気へと変わり霧散した。


「大丈夫だったか?」


「「ありがとうございます!」」


 魔法学園の生徒たちは、オレたちに一糸乱れぬ礼を繰り出した。


「後輩たち……恩を受けたら、礼を返す。

 ウルザの教えをしっかりと守れているようですね」


 エメラルドは優しく微笑み金色の髪をかき上げた。


「え?……もしかして、伝説の氷魔導士のエメラルド先輩?」


「ええ。

 頑張りましたね、私の後輩たち」


「……エメラルド先輩!」


 エメラルドの周りに後輩たちが殺到し、涙をこぼしていた。

 うーん、どうやらエメラルドはウルザ魔法学園で伝説的な人気を誇っているようだな。


「おい、叫び声が聞こえたんだが……」


 どうやら、オレたちの他にも叫び声を聞いて、駆けつけてくれた奴らがいたようだ。


「あれ、アスランの旦那!」


「トロサールじゃないか」


 冒険者ギルドの剣士、トロサールがそこにいた。


「女の子の悲鳴が聞こえたんで来たんすけど……へへ、旦那がいるってわかってたんなら来ないっすよ。

 無駄足でしたね」


 トロサールは辺りを見回した。


「オレ、全速力で飛ばしてきたんっすけど……その間にこのゴブリンたち倒したんすか?」


「ああ、まあ弟子たちが活躍したからな」


「へへ、さすがっすね」


 トロサールはオレに対して憧れの視線を向けている。

 どうやらオレになついてくれているらしい。

 まあ、悪い気はしない。


「それで、何があったのです?

 街道は封鎖されてるはずですけど……」


 エメラルドは魔法学園の生徒たちに尋ねた。


「初めはこんなにモンスターいなかったんです。

 だから、予定通りトルトナム湖で演習しようってなって……」


 赤髪の女の子が答えた。


「そうでしたね。

 冬の時期にトルトナム湖で氷魔法の演習を行うのがウルザの伝統行事でした」


「トルトナム湖につく直前で、急にオークやオーガが襲ってきて……先生と私たちで応戦したけど……」


 赤髪の女の子は嗚咽した。


「それから、どうしました?」


 エメラルドは緊張をほぐすため、赤髪の女の子を抱きしめ、にこやかに笑いかけた。


「モンスターを倒したけど、みんないるか確認したら……カンナちゃんがいなくなってた」


「カンナだと?」


 確か、魔法学園にいたユイカの友達だったな。


「うん。

 カンナちゃんがいなくなったのを知って、ジゼル先生が慌てて探しに行ったの」


 ……教え子を見失ったならば、同じ先生と呼ばれるものとして飛び出していく気持ちはわかる。


 だが、他の子も安全に王都まで返さなければならない中で、その判断が正しかったかどうか……オレは同意できない。


「ユイカちゃんは言ってた。

 助けを待ちましょうって。

 それでもジゼル先生は飛び出して行ったんだ」


「ユイカはどこにいる?」


「ジゼル先生と一緒に行ったんだと思います」


 なんてことだ。

 トルトナム湖近くにユイカがいるとは……


「トロサール」


「アスランの旦那、どうしました?」


「冒険者ランクはいくつだ?」


「えっと……オレはボーンランクっす。

 ダンジョン探索も護衛も出来ますよ!」


 トロサールは嬉しそうに言った。


「奥へ急ぐ用事が出来た。

 魔法学園の生徒たちを街まで護衛できるか?」


「へへ、任せてください。

 あ……オレのお願いも聞いてもらってもいいすか?」


 トロサールはちょっともじもじしていた。


「何だよ?」


「今度一緒に飲みに行って欲しいっす」


「はは、そんなことか。

 王都に帰ったら麦酒エールたらふく飲ませてやるから、生徒たちのこと頼んだぞ」


「了解! おし、お前らさっさと帰るぞ!」


 トロサールは魔法学園の生徒たちを引き連れ、街道を目指してくれているようだ。


「オレたちも行くぞ」


「「はい!」」


 ユイカの無事を祈りながら、街道を急いだ。

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