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28 緊急招集

「おいおい、この金使うのかよ。

 オレの金だぞ」


 皆は眼をぱちくりさせていた。


「……そうだね、先生のお金を当てにしちゃいけない」


 イリヤは強くうなずいていた。


「イリヤ……」


 そうか、分かってくれたか。


「お父様に言って、ランスの件でギルスタッド公爵家に謝罪と賠償を要求して……そのお金で道場作ろう」


「こらこら。

 イリヤ、ガーファで反乱起こす気か」


 エメラルドもうなずいていた。


「では私も、お父様にお願いしてクレイ公爵家領地に重税を課しましょう。

 それで道場を作らせていただきます」


「エメラルド、お前はお前でユトケティアに反乱を起こす気か?」


 イリヤもエメラルドも顔が全然笑ってないから、本気で実行しそうで怖いんだが。


「もちろん、会費を上げて後で回収することも出来ますけど……」


 エメラルドはオレの表情をちらりとのぞき見た。


 昔、グレアス一刀流は親のいない子を預かってタダで剣術を教えてきた。

 オレもそのうちの一人だ。


 もちろん、それに見合う分は働かされた。

 掃除や洗濯、お使い……思えばそれは、一人立ちするための教育も兼ねていたのだろう。


 ユトケティアはここ30年ほど大きな戦乱は起こっていない。

 だから、グレアス一刀流も役割を変え、王侯貴族へ剣術指導することが多くなった。

 

 それに伴って会費も上がっていったし、今じゃグレアス一刀流に貧しい家庭の子なんて一人もいやしないだろう。


 ――先代はある日、オレに話してくれた。


 『貧しい子どもは結局、生きていくため何も学ばないまま剣を握るしかねえんだ。

 剣術なんてできなくても、数合わせで傭兵や冒険者にはなれるんだからよ。

 だからよ、やりてえ奴には剣術くらい俺が教えてやる。

 そしたら、少しくらい死ぬやつが減るかもしれねえ。

 アスラン、おめえも死ぬんじゃねえぞ』


 今、先代が生きてたらなんて言うかな……


「エメラルド、会費は上げられない。

 グレアス一刀流からの門下生もだいぶ、いまうちに来てる。

 そんな状況で会費を上げたら先代に申し訳ない。

 一番剣術が必要な奴らってのは、会費すら払えないような奴らだからな」


「わかりました」


 エメラルドはうなずいていた。


 ……はあ。

 少しだけため息をつかせてくれ。


 オレだって、できれば働きたくなんてない。

 この金があれば、極楽自堕落生活が送れると思うと、少しもったいない気もする。


「……わかったよ、この金で道場作ろう。

 先代の願いだと思えば、惜しくはないな」


「「先生……」」


 エメラルドとイリヤはどうやら喜んでくれたようだ。


「それにオレが金出さないとお前ら本気で冗談を実行しそうだからな」


 イリヤもエメラルドもきょとんとしていた。


「ボク、冗談なんて言ってないよ?」


「私、あまり冗談はうまくありません。

 もっとユーモアあふれる人間になりたいところですが」


 ……オレが金を出し渋った場合、どうやら国家に対する反乱が巻き起こるところだったようだな。

 危ないところだった。


「よし、じゃあこの金で新しい道場を隣に作る。

 みんな、協力してくれ。

 頼むぞ!」


「「はい‼」」


 みんなで協力して道場を作ろうとなった矢先……


「アスラン様!」


 ん? 女の子がここまで走って来て、ぜいぜいと息を切らせていた。


「受付嬢のジーナか、どうした?」


「大変です!

 レイラさんから緊急招集です、トルトナム湖に来てください!」


「わかった、すぐ行こう。

 どうやら何かあったようだからな。

 行くのはオレだけでいいのか?」


「戦える人はぜひ来てほしいとレイラさんは言ってました」


「どうする? 行くか?

 って聞くまでもないようだな」


 イリヤとエメラルドはさっそく準備に取り掛かっていた。


「準備完了!」

「準備完了です!」


 二人はあっという間に出陣準備を整えていた。


 ★☆


 目的のトルトナム湖には王都東の城門から出て、ラングニーク草原を超える必要がある。

 だが、城門前の広場は人と馬と荷物でごった返していた。

 

「わわ、うちの道場くらい混んでる」


 イリヤがあまりの混雑ぶりに驚いていた。


 隊商が足止めされ荷物がうずたかく積まれる横を、緊張した面持ちで新人冒険者が城門をくぐってゆく。


「ちょっとただ事じゃないな」

「ここ最近行われていないはずですけど、まさか街道を封鎖してるのでしょうか」


 馬車に乗るため、エメラルドが停留所に近づく。


 往来馬車の停留所には【運行休止】と立て看板が掲げられていた。


「ダメですね」


「歩いて行くしかないか」


 城門入口に目をやれば、警備兵が商人たちを追い返していた。


「ダメだ、街道は封鎖した。

 今日はクライフ神聖王国へいくのは諦めるんだな」


「そ、そんな……」


 商人たちは警備兵と交渉し、ワイロを渡そうとしていたが、それでも警備兵はクビを縦に振らなかった。


「やはり街道封鎖しているようですね」


「らしいな。

 オレたちは通れるのか?」


 人ごみに潰されそうになりながら、城門を目指す。


「あ、アスランさん!」


 警備兵の横に冒険者ギルドの職員がいて、オレの顔を見つけ警備兵へ話を通してくれた。


「……戦ってくれる人たち以外、通れなくしてるんです」


「街道はそれほどひどい状態なのか」


「はい……その眼で確かめてください」


 城門を開き、オレたちは外へ出た。


 ★☆


「こりゃ、ギルドに緊急招集がかかるわけだ」


 街道を歩いて進むが、あちこちにモンスターの死体が転がっている。

 ゴブリンやスライム等、比較的弱いモンスターばかりではあるが。


 遠くから魔獣らしい遠吠えも聞こえてくるし、今この辺りにモンスターが多く出現していることに疑いはない。


「街道から遠くに行かない方がいいですよ。

 モンスターが潜んでるかもしれませんから」


 街道沿いに立つ冒険者が声をかけてくれた。

 見渡せば、彼と同じような軽武装の冒険者が一定間隔で立ち、互いに魔法を使って交信していた。


「なるほど、冒険者たちの帰り道を確保してるわけだな」


 慣れた冒険者であっても、依頼を達成した帰り道、ゴブリンに狩られることがあると聞く。


 疲れた冒険者がなるべく安全に街道へ戻れるように、彼らを配置しているのだ。

 街道までたどり着けば、彼等が身の安全を保証してくれるはずだ。


「モンスターを追って帰り道がわからなくなったとしても、とりあえず街道を目指して彼らの光を見つければ、安全に帰れるってわけか」


「魔物相手の集団戦闘は、騎士団や魔術師ではなく冒険者ギルドが仕切ると聞いたことがありますが……なるほど、ギルドには集団戦闘のハウツーが受け継がれているのですね」

 

 エメラルドは関心していた。

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