表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/88

27 新道場を作ろう

4章スタートです。

 ユトケティア王国のフィリップ王から巨額の褒美を得たので、あくせく働く理由がなくなった。

 散々戦わされたんだから、今日ぐらい惰眠をむさぼっても罰は当たらないだろう。

 

 そう考え、すっぽりと毛布をかぶって眠りについた。

 

 

 ――ブオオオオン!


 毛布を切り裂くような強烈な風切音で目が覚めた。


 さらに地鳴りのような音とともに建物中が揺れているのが目に見えて分かる。


 慌てて枕元にある剣を持ち、階下に急いだ。


「「はあッ!」」


 音の正体はすぐにわかった。

 素振りによる風切音と、踏み込みによる地鳴りか。


 道場に来ると、足の踏み場もないほど門下生で埋め尽くされており、さらには道場の外からも風切り音が聞こえてきていた。


 おい、道場の中だけで300人くらいいないか?

 さらに外で剣を振ってる奴らまで入れたら、いったい何人ここに居るかわからないんだけど……


「アスラン先生が見えられました! 整列!」


「「はい!」」


 エメラルドの掛け声で瞬時に一糸乱れぬ整列が出来上がる。

 だから、新顔の奴らも随分いるのに、いつの間にそこまで仕込めるんだよ……


「さて、皆さん。

 多忙なアスラン先生から一言いただこうと思います。

 一言一句聞き洩らさぬよう、集中しなさい。

 よろしいですか?」


「「はい!」」


 エメラルドの質問に門下生が一斉にうなずいた。

 皆が生き生きとした顔でオレが話すのを待っている。

 

 なるほど。

 昨日の決闘でのことが、こいつらには伝わっているってことか。


「先生、お願いします!」


 人前で話すの得意じゃないんだけどな。


「……昨日、成り行きで決闘をすることになった。

 その際、騎士団長と戦ったのだが……巨躯の斧使いだが魔法を使ってきた」


 皆は真剣に聞き入っている。


「身体の大きさに惑わされず、相手の動きをじっと見ていたから、すぐに魔法の詠唱に気づき、【魔制の型】で完全に見切って勝利できたのだが……。

 シンプルに斧を振るわれた方が苦戦したんじゃないかと思う。

 真剣な試合であればあるほど、自分の一番得意な戦法にかけるべきだ。

 ……自分がすべてを掛けられる一撃を見つけるために、これからも剣を振るい続けて欲しい。

 以上だ」


「「ありがとうございました!」」


 直角に曲がったような気持ちの良い挨拶をした後、門下生たちはますます眼を輝かせて剣を振るっていた。


 さて、オレも剣を振るうか。


 剣を握ると辺りは一瞬で静かになり、全員がオレの一挙手一投足を見逃すまいとしていた。


 今日は、昨日使った型の振り返りと、反省点の洗い出しをしようか。

 

 【けんの型】、【槍破の型】、【魔制の型】を一通り行い、昨日の実践との剣の軌道の違いをひとつずつ確かめていく。


 昨日試合をしたから、ちょっと身体がこわばってるな。

 今日は軽く流すだけにして、身体を休めることにするか。


 納刀し、ストレッチをして今日の朝稽古を終えた。


 門下生たちはオレが反復練習してたそれぞれの型を真剣に見つめ、自分の振りと違う点はどこかと真剣に動きを研究し、自分の動きを修正するのに活かしていた。


「門下生たちは先生の活躍を聞いて、一層稽古に身が入っているようですね!」


 エメラルドは嬉しそうに門下生の練習を見て回っていた。


「……さすがに多すぎないか?」


「門下生のことでしょうか」


「外にいるのは良くない。

 先生の動き、見えなくなるから」


 イリヤもオレたちの話に加わってきた。


「あらあら、これは嬉しい悲鳴ってところかしら。

 門下生がたっくさんいるわね」


 黒い日傘をさして、シルメリアさんが現れた。


「ふふ、ちょうどいいところにシルメリアさんが来たね」


 イリヤはシルメリアさんの抱えているバスケットの中身が気になって仕方がないようだ。


 ★☆


 朝稽古を終え、門下生を帰したオレたちは、食堂に集まった。


 シルメリアさんが用意してくれた焼き菓子を手に、会議が始まった。

 もちろん、イリヤがお茶を淹れてくれている。


 オレとエメラルド、イリヤで会議をしようかと思っていたんだが、せっかくなので大家のシルメリアさんにも話を聞いてもらおうということになった。


「この道場が門下生であふれるなんて、とっても嬉しいわ。

 これも、アスランさんのおかげね」


 シルメリアさんは、満足そうな笑顔を浮かべてイリヤの入れてくれたお茶を楽しんでいた。


「昨日の決闘で先生が一躍有名になったからね」

「ええ、どうして先生が有名にならないのか、不思議でしたけど……やっと世間の皆さんが通常な思考能力を取り戻したようですね」


 エメラルドとイリヤは、オレが有名になったのが嬉しくてたまらないようだ。


「この道場に入りきらないほどの門下生が来るなんて」

 

 シルメリアさんもうっとりしている。


「ただ現実問題として道場に入らない件はどうするんだ?

 外で門下生が剣を振ってるのは、さすがにご近所さんにも迷惑だろうし……」


 あ……やっぱりイリヤの淹れてくれるお茶は旨い。

 華やかな香りが、ふわあっと漂ってくるんだよな。


「ねえ、エメラルド。

 ここより大きな道場ってあるの?」


 そう質問したイリヤは香ばしい匂いにうっとりしながら、焼き菓子を楽しんだ。


「それにしても、シルメリアさんはお菓子づくりの天才だね」


「あら、イリヤちゃん。

 褒められるとまた作ってもってきちゃうわよ?」


 良くお菓子を作ってくれるシルメリアさんとイリヤはいつのまにか仲良くなっているようだ。


「……大きな道場ですか……グレアス一刀流も大手の剣術道場ですけど、ここと同じくらいの大きさですしね。

 王都に、そんな都合の良い物件あったかしら?」


 エメラルドは宙を見つめながら、どうやら頭の中で物件探しを行っているようだ。


「シルメリアさん、どこかいい場所知らない?」


 イリヤの質問に、シルメリアさんは首を振った。


「やっぱり道場の大きさは流派の大きさに比例するもの。

 グレアス一刀流より大きな流派は、ここ王都ディオラにはないわ」


「だったら、朝稽古を何回かに分けたらいいんじゃないか?」


「ダメ」

「ダメです」


 オレの意見はシルメリアとイリヤが強い口調で否定した。


「アスラン先生の剣を皆に広めなくてはなりません」


「先生の剣を見て、先生の話を聞いて強くなるんだよ。

 みんなで一緒に先生の剣を見なきゃいけない」


「そ、そうか……」


 イリヤとエメラルドの圧が凄い。

 思わずのけぞってしまった。


「じゃあどうするんだ?」


 ……どうやら、解決方法に行き詰ってしまったようだ。


「うーん、無いなら作るしかないのか?」


 何気ないオレの一言に、皆の視線が集中した。


「シルメリアさん、道場の周りの土地って誰が持ってるの?」


「見渡す限り、バウンス家が持ってるの。

 もちろんアスラン先生にだったら安くお譲りするわ」


 イリヤの質問にシルメリアさんが答えた。


「ちなみに、これが私が書いた新しい道場の設計図なのですが……」


 いつの間にかテーブルの上の食器やコップが片付けられていて、エメラルドはその上に丸めた設計図を広げた。


 は? 何で既に新しい道場の設計図があるんだ?


「レイラさんには冒険者たちに声かけるよう頼んであるし、他のつてもある。

 人員の手配は今日に工事にとりかかれるようになってるよ」


 おい、イリヤ。

 どうして既に人員手配が終わってるんだ?


「私の方で既に資材には手を回しています。

 木材と石材は今日中に運び込めるでしょう」


 おい、エメラルド。

 資材の手配が終わってるだと?


 何だお前ら、準備が早いってレベルじゃないぞ!


「おい、金はどうするんだよ!」


 こいつら準備がいいけど、肝心な金はどうする気なんだ?


「「王宮からのお届け物でーす」」


 突如、屈強な男たちが道場に入って来て、大きな箱を庭にどさりと置いて帰った。

 中身を詰め過ぎたのか、蓋がパカリと開いて、中から黄金の輝きがこぼれだした。


「あ」

「「金貨だ……」」


 王から届いた褒美の金を、みなで見つめていた。


 人、モノ、金。


 プロジェクトを動かす要素の全てが、この瞬間に揃ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ