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26 イリヤと決闘(2)

「手加減しないで……なんてボクは言わないよ。

 そんなに自信家じゃない。

 だってそうすれば、きっと一撃食らって終わっちゃうからね。

 ねえ、先生。

 ボクがどれだけ強くなったか、見てよ」


「望むところだ」


 イリヤのリクエスト通り、【けんの型】から入ることにする。

 中段――身体の中心に剣を置き、どこから攻撃が来ても対応できるようにする型だ。

 

「……行くよ」


 速い!


 あっという間に近づいてきて、思いがけぬ速さで繰り出される双剣の連撃を、やっとの思いで打ち払う。


「はあッ!」


「……く……」


 跳ね飛ばされたイリヤは、器用に衝撃を殺して壁を蹴り、くるくると回転して何事も無いよう、床に着地した。


「先生の教えを守って、初太刀にかけて一撃加えようとしたんだけど……残念」


 舌を出したイリヤの手足は魔力を纏い、ぼんやりと発光していた。


「へえ、支援術で自己強化したのか。

 足に速度、手に筋力ってところか

 ……今、ようやく気付いた」


「気づいてなくても対応できるんだね、さすが先生」


 イリヤの眼に闘志は消えていなかった。


 なあ、イリヤ。

 次は、どんな手でくるんだ?


 たぶん、オレはこれ以上ないほどに笑っている。

 自分の顔は見れないが、イリヤを見ればわかる。

 きっと、オレもイリヤみたいに笑ってるんだろうから。


 双剣をしまってジグザグに走ってくるイリヤは、牽制のためだろう。

 時々、吹き矢を飛ばして来た。


「食らうかよ」


 剣で軽くはじいた吹き矢が植木に刺さり、そこから一気に燃え出した。


「はあ? 吹き矢に炎魔法の付与術かけたのか? 手合わせでそこまでするかよ!」


 おい、イリヤ。

 ここ借家だぞ? わかってるんだろうな?


「できる工夫は全部やれ。

 そう教えてくれたのは、先生だけど?」


 そう言いながら、さらに炎魔法を付与した吹き矢を贅沢にバンバン飛ばしてきやがる。


「おらあああ!」


 集中して放たれた吹き矢をすべて先ほどの植木にはね返す。

 燃える植木は一本だけで十分だ。


「へえ……いろんな方向から放たれた矢を、おんなじ方向にすべて打ち返せるんだ」


「……借家だからな」


 理由になってない気がするが、そういう精神的なものも戦いには大事だろう?


「行くよ、先生」


「ああ」


 双剣をその場に置いたイリヤは、どこから取り出したのか、片手剣を手にオレへ突っ込んできた。


「はああああ!」


 あっという間に飛びこんでくるイリヤを上段から斬り下ろそうとしたが、イリヤは無理やり空中で動きを止めて見せた。


「何だと?」


 猛スピードで突っ込んできたイリヤが空中で急停止できるとは思わず、思い切り振った上段からの一撃をかわされてしまった。


「もらったよ!」


 急停止から、風魔法で加速したイリヤに対しては、すでにかわされてしまった剣での防御が間に合いそうにない。


「行くよお!」


 イリヤは全力で加速した勢いそのままに鋭い突きを繰り出してきた。


「……はあっ!」


 イリヤに突き出された剣から視線を外さずに恐怖を打ち消し、全神経を集中。

 先ほど上段から斬り下ろした両手のうち、右手だけを使って懐から小剣を取り出し、【槍破の型】を繰り出した。


 イリヤの全力の突きが当たる瞬間、剣を小剣で跳ね上げる。


「うそ……」


 態勢の崩れたイリヤが手を離した剣に斜め上から斬撃を入れた。

 パキンと音がして、イリヤの剣を叩き割った。


 ランスに対してと違って、傷一つつけたくなかったからな。

 

 大技を返され、負けを認めたイリヤは仰向けに寝っ転がった。


「投擲用の小剣で【槍破の型】を繰り出すなんて……先生無茶苦茶だよ」


 イリヤは疲労困憊と言った様子だ。


「しかし、強くなったな。

 一瞬焦ったぞ」


「ふふ……褒めてくれてありがと、先生」


 イリヤはやり切った顔で笑っているが、頬を涙がつたっていた。


 悔しいよな。

 一生懸命やった結果、勝てないとさ。

 ……誰だってそうだよ。


 イリヤが頑張ってるのはずっと見てきた。


 負け試合の後は、疲れてるだろうにオレへ手合わせを頼んできて、身体が動かなくなってひっくりかえるまで練習をしていたっけ。


 そのときはこうやって頭を撫でてやったものだ。


 イリヤの頭に触れる。


「頑張ったな」


 イリヤは嗚咽をこらえているようだ。

 

 ……しばらくして、息を整えたイリヤは空を見上げたまま、オレに話しかけてきた。


「ふふ、まだ遠いな、先生は。

 でも、いつか追いついて並び立って見せるから。

 それまでは、ずっとここに居てもいい?」


 ……ずっと、か。


 婚姻すら自分の思い通りにならない王女のイリヤは、それも分かっててなお、『ずっと』って言ったんだろう。

 

 イリヤは賢い子だから。


 そう先の話じゃなく、きっとここを出ていく時が来るだろう。

 それまでは……


「……ああ、ずっと居てもいいぞ」


「ありがと」


 イリヤがずっと夕暮れ空を見ているものだから、昇り始めた赤い月を二人で眺めていた。

≪読者の皆様へ≫


作品を読んでいただきありがとうございます。

これにて3章完結です。


ブックマークや評価をもらえると執筆のモチベーションが湧いてきます。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!


4章もよろしくお願いします。

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