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21 決闘(1)

「アスラン先生、頑張ってー‼」


 オレの応援団は貴族の令嬢たちだ。

 門下生の彼女たちは懸命にオレを応援してくれている。


「女子たちに応援されるなんぞ戦士の風上にも置けぬ振る舞い、ふざけやがって!」


 騎士団長ジルコムは大きな斧を左手に担ぎ、オレを睨んだ。


 ふん、大きな斧だな。

 よほど腕力に自信があるんだろうな。


 楽しみだな。

 騎士団長程の実力者とやり合うことなんて、ほとんどないからな。

 

 ……オレも全力で挑ませてもらうぞ。


 ジルコムに敬意を表し、絶対の自信を持つ【初太刀の型】、上段の構えで迎え撃つ。


「先生本気だ……」


 イリヤはワクワクした様子で戦いの行方を見つめていた。


「ジルコム、アスランの両名は互いに構えたまま、隙をうかがっていますが……さて、先に動くのはどちらでしょうか」


 実況のエメラルドも解説に熱がこもっている。


「おっと、ジルコムが先に動くようです!」


 ジルコムが力を込めると、右手が碧く光り出した。


「ククク、俺のこの巨体から魔法が繰り出されるとは思わなかっただろう?

 死ねええええ!」


 相手の見た目で戦法を決めつけるほど、油断した戦いをしたことなど一度もない。

 ジルコムの右手が光り出した瞬間、オレは【魔制の型】へと構えを変え、相手の右手めがけてナイフを投擲する。


「ぐああああああ!」


 ジルコムが風魔法を放とうとしていた右腕から血が噴き出す。

 そして、ジルコムが痛みをこらえきれず叫んだときにはオレは剣を首筋に突き立てていた。


「……おい、剣で斬るための牽制技に当たってるんじゃないぞ」


 ナイフが手首に当たったようだな。

 かわせるように投げたつもりだったが……速かったのかな?


「ジルコムの意外な魔法攻撃が放たれる前に、アスラン先生のナイフがジルコムの腕をとらえました。

 盛大に血が噴き出しています!」

「こら、エメラルド。

 呑気に解説してないで、患部を凍らせてやれ」


 このままだと死ぬぞ、コイツ。


「あ、そうですね……【氷結輪フリーズリング】」


 エメラルドがジルコムの腕に氷魔法を放つ。

 腕ごと傷口を凍らせたので、とりあえず出血の心配はないな。

 

 良かった。

 あの出血量だと回復魔法の使い手が到着する前に死ぬところだった。


「畜生……卑怯だ、卑怯だぞ!

 アスラン、剣士なら剣で勝負しろおおおお!」


 救護者に担がれながら、ジルコムは捨て台詞を吐いた。


「一応、ナイフは剣だぞ。

 小剣って呼ばれる類の武器だ。

 それにさ、ジルコム。

 いきなり魔法を使ってきたお前が何を言ってやがる」

「くっそお、卑怯だ!

 卑怯だああああ!」


 ジルコムは元気よく叫びながら、救護者たちに運び出されていった。

 はあ……あんなヤツが騎士団長で大丈夫なのかよ……


「何という強さでしょうか、アスラン先生!

 えっと、いいえアスラン選手!」


 エメラルドはきちんとした性格だ。

 今は実況役だから、先生と呼ぶのはやめておこうと思ったんだろうな。


「屈強な肉体を持つ騎士団長ジルコムに対して、牽制技一つで戦闘不能に追い込みました!」


 会場は割れんばかりの歓声と拍手で大盛り上がりだ。

 

「「初太刀大事だ、アスランの剣♪

 悪い奴らをぶっ飛ばせ! おおー、アスラン、アスラン、世界一の剣士―♪」」


 オレの門下生たちが、肩を組み、よくわからない歌を息を合わせて合唱している。

 おい、誰が仕込んだんだよ。


 みんな凄い美声なんだけど。

 どれだけ練習したんだよ?


「それにしてもいい歌ですね、イリヤ」

「ボクたち頑張って作ったもんね、エメラルド」


 ああ……犯人わかっちゃったんだが……


「皆さんも練習頑張ってくれましたね」

「「ありがとうございます!」」


 イリヤは門下生の令嬢たちと手と手を取って喜び合っていた。


 ……何でオレが戦って勝ったときの歌を準備できるんだろうな?

 オレがジルコムやランスと戦うことになるなんて、誰も知らなかったはずなのに。


「クククク、ハハハハハ!」


 ガーファ王国副騎士団長、公爵令息ギルスタッド・ランスは高らかに笑った。


「ははは、ユトケティア王国はそこまでして私に勝たせたくないのですか?

 騎士団長と剣聖候補の真剣勝負がそんな結末を迎えるはずがない!」


 ランスは高笑いをしてるけど……いや、実際本気で戦った結果があれだったんだからしょうがないと思うが……


「ククク、国を挙げて私と戦うにあたり、手の内を見せたくなかったのでしょうね。

 ジルコム殿のお情けで勝ちを拾ったあなたに、私が負けることがありましょうか……いや、ありえません!」


 さっきの試合を見て、どうしてオレがお情けで勝ちを譲られたと思うのか?

 おい、ランス。

 さっきの試合、見てたか?


「アスラン・ミスガル殿。

 先ほどまでのわざとらしい喜劇で私を惑わせたつもりでしょうが……」


 ランスは自慢の槍術を曲芸のように観客に向かって見せつけた。


「「おお……」」


 その優美な姿に会場はうっとりしていた。


 武術は曲芸じゃないって言うのに、どうして若い奴らは身体能力に任せて踊ってしまうんだろうな。


「私の武術はあなたの詐術などに騙されてしまうほど、やわなものではありませんよ?

 正々堂々、かかってきなさい!」


 ランスの言葉にガーファ王国の貴族から拍手が届いた。

 ランスはガーファ国内ではそれなりの人気があるようだな。

 

 とりあえず、礼をした。

 失礼な奴だろうが、オレは戦う前の礼は欠かさず行うようにしているから。


「ランス、退屈な踊りをありがとう。

 そろそろ戦いたいんだが、いいか?」

「退屈な踊りですって?

 私の槍術が曲芸ならば、あなたのナイフさばきはただの的当てでしょう?」


 ランスは不敵に笑った。


「私をユトケティアの鈍重な亀、ジルコムさんのように簡単に倒せると思わないでくださいよ……」

「あれ?

 ランス、お前ジルコムと仲良くしてなかったか?

 ジルコムが負けたからって、そんなに悪く言うなんて友達甲斐のない奴だって思われるぞ?」


 ランスは怒りに体を震わせて槍を地面に叩きつけた。


「黙りなさい!

 ジルコムみたいな弱いヤツと仲良くするんじゃなかったです!

 ヤツがすり寄ってくるから、相手をしてやってただけのこと。

 役に立たない人脈なんて私の人生には必要ありません」


 寂しい奴だな、オレがお前の友達だったら説教してやるとこだぞ。


「ランスは器が小さい」


 イリヤはぼそっと呟いた。


「イリヤ姫……この決闘であなたの私への見方を真逆に変えて見せます」


 真逆って……ランスはイリヤに好かれてない自覚はあったんだな。

 哀れな奴だ。


「さあ、悲壮な決意をにじませるランス選手とアスラン選手の戦いが間もなく始まろうとしています!」


 エメラルドの実況が会場に響いた。

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