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20 喧嘩を売られる

「ふざけるなあ!」


 いつの間にか人で埋め尽くされていた昼餐会の会場に、怒号が響く。


「……剣聖でもないものが、ガーファ王国副騎士団長のランス様と戦うなど……」


 地面に唾を吐きながら、筋骨隆々な大男が大岩を担ぎながらこの場に現れた。


 ドスウウウンン。


 その男が投げ放った大岩がちょうどオレがいた場所に突き刺さった。


 野次馬からパチパチと拍手が巻き起こる。

 おいおい、挑発って言うか、オレ動かなかったらあの岩に潰されて死んでるんだけど?


「上機嫌なご挨拶だな」


 大男にオレは皮肉を飛ばす。


「おお、これはこれは、ユトケティア王国騎士団長ジルコム殿」


 ランスは笑いながらその大男に近づいていく。

 聞いたことがあるな。

 うちの騎士団長は、筋肉自慢の大男だと。


「やあ、ランス様。

 ご機嫌麗しゅう……」


 ユトケティアの騎士団長ジルコムは、ガーファ王国騎士団長ランスにへこへこしていた。


「ははは、ジルコム殿もお元気そうで。

 貴殿の腹踊り、とても面白かったですよ」

「はは、わたくしめの腹踊りなど、ランス様が望むのであればいついかなる時でも!」


 ……うちの騎士団長ジルコムは上にへつらい、下につらく当たるタイプだと聞いてはいたが……


「おい、アスラン。

 てめえ、このクソ平民の癖にランス様と一騎打ちなど……」


 詰め寄ってくるジルコムは子爵の出で、戦場で武功を得て、騎士団長まで上り詰めたということだが……

 

「アスラン、剣聖にもなれてないものが、偉そうに。

 ランス様と一騎打ちなど100年早いわ!」


 うちの騎士団長様は、相手が公爵令息だと年下だろうが何だろうが媚びへつらうタイプらしいな。

 

「あっちからの指名だ。

 オレが決めたわけじゃない」


 ジルコムはランスにひざまずいて尋ねた。


「じゃあ、私が勝てば、私の挑戦を受けていただけますか?

 ランス様」

「良いですよ?

 この国一番の騎士だろうが、剣士だろうが、倒せばイリヤ姫が手に入るのですから」


 高笑いをするランスをイリヤは眺めていた。


「ランスもお父様も、結局ボクの気持ちなんてちっとも考えてないんだ」


 イリヤは諦めたように呟いた。


「アスラン、お前がランス様と戦うことなどない。

 オレの斧の前に沈むのだからなあ!」


 別にオレは誰と戦おうがどっちでもいい。

 だが、オレは二人の態度に少々腹が立っているところだ。


「さて、皆さま!」


 突如、会場に氷の塔が立ち上がる。


「昼餐会のメインイベント、ユトケティア対ガーファの親善試合。

 もうすぐ開幕いたします。

 それまでしばらくご歓談ください!」


 塔からのアナウンスに野次馬たちはいったん落ち着きを取り戻した。


 氷の上からみなに話しかけていた美女には見覚えがあった。

 すぐに塔を消し、オレへ近づいて来た。


「エメラルド、お前だったのか」

「イリヤから頼まれました。

 ランスとジルコムが頭に血が上ってるから、決闘じゃなくてイベントにしてって」

「なるほど」


 決闘となると、どちらかが降参するまで周りは止めることが出来ないから、最悪死人が出てしまう。

 特に親善の昼餐会で死人を出しては、両国の友好に関わるからな。


 ランスとジルコムにはイリヤが説明をしていた。

 二人ともしぶしぶ納得したようだ。


 ――昼餐会の出席者は冷静さを取り戻したようだ。


 各自好きなものを食べて飲み、歓談しているようだ。


「おい、イリヤ。

 いきなり絡まれたんだけど」


 さすがに文句の一つも言っていいだろ。

 肉料理をつまんでいるイリヤに文句を言った。


「先生ごめん。

 ランスの奴、もう少しまともかと思ってた」


 イリヤはため息をついた。


「イリヤはランスと婚約するのか?」

「はあ!?」


 イリヤは飛びあがって手を横に振った。


「しない、しない。

 先生、お願いだから勘違いしないで」

「……おお。

 そうか」

「うん。

 ボク、先生には誤解されたくない」


 イリヤの真剣なまなざしに気圧された。


「わかった」

「でも、周りはそう言う。

 お父様は強い男が好きで、お母様は家格とかを気にする。

 そう考えると、ランスがちょうどいいって周りは言う。

 公爵令息で、騎士団の副団長だから」

「そうか」


 イリヤがガーファの姫だと今日まで知らなかったが、一国の姫ともなると自分の婚約者も自分で決められないものだと聞く。

 

 オレとしては、せめてイリヤのことを大事にしてくれる人と結ばれて欲しいと思うものだが。


「先生、そろそろ出番ですよ」


 エメラルドが迎えに来た。


 さて、国際親善試合にでも挑みますかね。


 ★☆


「斧使いの騎士団長ジルコム・シェラッド対、新進気鋭の剣術流派、アスラン一刀流師範、剣士アスラン・ミスガル!」


 舞台に上がるオレたちを歓声が出迎えてくれた。


 氷の魔法陣で仕切られた特設ステージで、オレたちは戦うことになった。

 会場の細かな飾りまですべて氷で作られている。

 

 オレが知る限り、ここまでの氷魔法を使えるのは一人しかいないな。


 生き生きとした表情でこの試合を取り仕切っている氷魔術師、エメラルド・クレイ。

 実況もエメラルドが行うらしい。


「さあ、私特製の氷に囲まれたステージで、男たちは今から戦いに明け暮れるのです!」


 観客席は大いに盛り上がっている。

 両国の貴族たちは楽しそうに、酒や食べ物を楽しみながら、舞台を見つめていた。


「さて、皆様。

 今から対戦するジルコムとアスランですが……」


 エメラルドは観客に向かって語りかけた。


「二人はユトケティア代表の座を巡って今から戦うことになります。

 そして、勝った者のみが、ガーファ王国副騎士団長ギルスタッド・ランスと戦う権利を得るのです」


 歓声が鳴りやまない。

 ジルコム側の観客席に詰めた甲冑の男たちから野太い声が聞こえてきた。


「「騎士団長、必勝ですよ!」」


 それに対して、オレの背後からは令嬢たちからの黄色い声援が聞こえてきた。


「「アスラン先生、頑張ってくださいね!」」


 見渡してみると、おお……かなりの数の門下生がいる。

 確かにうちの道場には貴族の門下生も多いのだが……

 

 一生懸命応援してくれる彼女たちを見ると、体が熱くなるな。

 正直、負ける気がしない。


「女子の応援だと!?

 なめ腐りやがってアスラアアアン!」

「ははは、今にも襲い掛かってきそうな勢いだな、ジルコム。

 エメラルド、開始の合図をかけてやってくれ、ジルコムが我慢できないみたいだから」

「あ、はい! 用意はいいですね?

 両者見合って……はじめ!」


 エメラルドの合図で戦いが始まった。

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