16 イリヤの魔力適性
【物見の魔術師】ルミエルに魔力適性を調べてもらったオレは、イリヤとともにギルドを後にした。
「いっぱい買ったから重かった」
二人とも大量の紙袋を持って道場に帰って来たが、不平を言ってるイリヤの方が買った量が多かったと思うんだけど……
下ろした荷物をしまい終えると、指先が冷え切っているのに気づいた。
隣を見ればイリヤも指に息を吹きかけている。
室内だが、誰もいなかったから家が冷えきってるな。
「寒い……先生もお茶飲むよね」
「おー、頼む」
「フフ、先生は砂糖一個だったよね」
かまどに薪を入れているオレの側で、イリヤはお茶の用意をしていた。
「さて、火をつけるか」
火が付きやすいように細く削ったおがくずを用意して、火種の準備をする。
さて、火打ち石で火をつけるか。
「えい」
そう考えていた矢先、イリヤがおがくずに触れるとたちまち火が付いた。
「魔法か」
「うん、火魔法。
威力は弱いから攻撃魔法としては使えないんだけど」
そう言いながら、イリヤはポットに水を入れ、てきぱきとお茶の準備をしてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
目の前に置かれたカップから、ふわりと華やかな匂いが広がる。
「あ、忘れてた」
コロン。
イリヤがカップに砂糖を入れる。
オレは1個。
イリヤは2個。
「砂糖多くない?」
「んー、ガーファ王国はみんな3個くらい入れる。
ボク、少ない方だよ」
そう言うと、イリヤはフーフー息を吹き替えた後、紅茶をすすった。
温かい国の方が、飲み物に甘みを欲しがるとは聞いたことがあるような気がするけど、なんでだろうな。
オレもイリヤが入れてくれたお茶を楽しむ。
「へえ、いつも飲んでるのより華やかな香りだな」
「あ。
嬉しいなあ、先生気づいてくれた。
これね、ガーファのお茶っ葉で作ったんだよ」
いつも冷静なイリヤだが、目いっぱいの笑顔をオレに見せてくれた。
「さっき市場で買ったやつか?」
「そうそう、ユトケティアのお茶も美味しいんだけど。
ボク、このお茶っぱの果物みたいな香りが好き」
おお、イリヤはグイグイと近づいて来て早口で話し始めた。
たまにいるな。
好きなものの話だと、沸騰したように話し始めるヤツ……
イリヤがそうだとは思ってなかったけど。
「先生、冷やしたのも美味しいんだよ!
明日作ってあげる!」
「ははは、美味しそうだな」
「すっごい美味しいの!」
圧がすごいんだけど。
「美味しいのはわかったが、寒いから明日も温かいのにしないか?」
「えー、冷たいの美味しいよ?
……へっくしょん」
オレとイリヤは見つめ合った。
「明日も温かいお茶がいいな、オレは」
「……ボクも、仕方ないけど賛成するよ。
ユトケティアの冬は寒いもん」
――お茶菓子などを食べて、少しゆっくりした後、夕食の準備を始める。
今日の夕食当番はイリヤだが、オレも手が空いてるので一緒にやることにした。
「昨日から漬け込んでおいたよ。
子ヤギのスパイス焼き。
先生、スパイシーなの好きって言ってた」
「おお、あの料理か」
「あれはね、牛の肉だったけど、今回はね、子ヤギなの。
身がしまっててね、旨味がね、すっごいの」
こらこら、包丁持ちながらオレに近づいてくるなってば。
イリヤがまた早口になってるな。
イリヤはお茶が好きなのかと思っていたが、料理全般にこだわりがあるようだな。
イリヤのなみなみならぬこだわりのなせる技なのか、この前の宴会でイリヤが用意してくれたガーファ王国料理はとても美味しかった。
「子ヤギの肉料理楽しみにしてるぞ。
それで、オレは野菜を切ればいいのかな?」
「うん。
千切りだよ。
できるだけ細かく切ってね」
……イリヤのこだわりを知った分、プレッシャーがかかるな。
「任せろ」
包丁を剣だと思い、全身全霊で野菜に向き合う。
「はああああッ!」
……疲れた。
「あ、千切り上手い。
さすが先生」
「はは、どーも」
こんなに真剣に野菜切ったことないもんな。
……というのも、料理するときのイリヤの眼がとっても一生懸命なのが伝わってくるから。
こんなに気合入ったメインディッシュをイリヤが作ってくれるのに、適当な千切りを付け合わせるわけにはいかないからな。
料理にこだわるだけあって、さすがにイリヤは手際がいい。
あっという間にほとんど準備が終わって、後は煮込み料理と、最後の仕上げだけ。
煮込み料理をかきまぜる以外にすることがなく、オレはソファに座って、煮込み料理をかきまぜるイリヤと雑談に興じることにした。
「さっき、火魔法使ってたけどさ。
イリヤは、魔力適性どうだったんだ?」
「ボクは魔縁型だよ」
「魔縁型?」
「あ、そっか、知らないか。
先生は魔法学校とか行ってないんだよね?」
「オレは王族のイリヤと違って由緒正しき平民だからな。
剣術道場に通うだけで精いっぱいだったぞ」
「じゃあ、ボクが教えてあげるね」
イリヤは煮込み料理をかきまぜながら、オレに教えてくれた。
「魔力適正にはね、3タイプあるんだ。
先生の魔絶型と、ボクの魔縁型、それとエメラルドの魔導型だね」
「オレ、攻撃魔法に向いてないってさ」
「……あ、だから先生ちょっと元気なかったの?」
「そうだな、魔法剣士って響きにも憧れがあった」
「そうだね、エメラルドとかカッコいいよね。
攻撃魔法って派手だから」
イリヤもオレと同じだったのか。
「でも、前衛は魔絶型に向いてるって言うよ。
人より魔法耐性が高いから」
「そうか」
オレはもともと剣士だ。
魔法なんかにうつつを抜かさず、自分のできることをやれと言われているがした。
「イリヤの魔縁型ってどういうタイプなんだ?」
「魔縁型は、常時一定の魔力を体に纏わせてる。
だから、ずっと一定の作業が必要な錬金術や付与術、支援術などが向いてるって」
「でも、さっき火魔法使ってたよな?」
イリヤは料理の味見をした後、話を続けた。
「ボクの場合はだけど、ほとんどの属性の魔法が使える。
魔縁型は使える属性の数が多いんだ」
イリヤは右手から、それぞれの指に違う光を宿らせた。
「炎、水、風、土、光……どれも使えるけど、威力が出ない。
だから、ボクは攻撃魔法は特に苦手なんだ」