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14 初冒険のご褒美

「お前、火炎鬼フレアオーガに会ってないんだよな?

 だったらその場に落ちてた『ジラフ・スノウ』と書いてあるナイフは、オレのものだってことでいいよな?」


 オレはナイフを机の上に置いた。

 ジラフの顔は真っ青になっていた。


「いや、ちがう……」


 小さな声でジラフはつぶやいた。


「何が違うんだよ」


「そ、そうだ!

 初めに、指輪を落とした時にナイフも落としたんだ!

 もう一度湖に行ったときは何も落としてない!」


「指輪と一緒に落としたなら、一緒に依頼するはずだろ?

 落とした指輪とナイフを見つけてくれってな」


「そ、それは……」


 ジラフは頭を激しく掻いた。


「それにお前、今気づいてないようだが、『もう一度湖に行ったときは何も落としてない』って言ったよな?

 火炎鬼フレアオーガに会ったことを認めるってことでいいんだよな?」


「……違う、違うんだ!」


 ジラフは真っ赤になりながら、違う違うとつぶやき続けた。


「分かったよ、そこまで言うなら違うんだろうな」


「分かってくれるのか?」


 ジラフの顔に笑顔が戻った。

 オレは置かれたナイフをしまい込む。


「お前が火炎鬼フレアオーガに会ってないっていうのなら、このナイフはオレのものだ」


「何を……」


「邪魔したな」


 オレはナイフをしまうと立ち上がり、レイラとともに足早に酒場を出た。


「待ってくれ!」


 ジラフは酒場から飛び出るようにしてオレの近くまで来ると、土下座をした。


「お、俺が悪かったよ。

 すべて認めるから、ナイフを返してくれないか。

 ……親父の形見なんだ、頼むよ」


 地面に頭をこすりつけるように謝るジラフにナイフを返した。


「オレだってユトケティアの民だ。

 父親が子どもにあげる、ナイフに込めた祈りを知らないわけじゃない。

 形見のナイフは返すよ」


「……ありがとう」


「ただ、オレはお前を許したわけじゃない。

 お前のせいで、大事な愛弟子を失うところだったんだ。

 ギルドを騙した罰は、しっかり償うんだな」


「……ああ」


 いつまでも土下座させておくわけに行かないから、手を引っ張って立たせた。


「ジラフ、罰は明日ギルドに来た時に伝える。

 今日はゆっくり寝るんだね」


 ★☆


 次の日の夕方、依頼を早く終えたオレは、庭の落ち葉を集めて焚火をしていた。


 イリヤとエメラルド、ユイカが焼き芋がしたいと、一生懸命に焚火の世話をしていた。


「うう……ユトケティアの冬は寒いよ」


 イリヤは吐く息を手にあて、寒さをしのごうとしていた。

 南国ガーファ王国育ちなので、寒さには弱いらしい。


「部屋に入ってればいいだろ」


 家の中に入るよう促すが、イリヤは焚火のそばを離れようとはしなかった。


「見張ってないとユイカが焼き芋全部食べる」


 イリヤはぼそっと文句を言ったが、ユイカは目を逸らした。


「確かにな」


「全部は食べないもん」


 ノックの音。


「誰でしょう? 私、見てきますね」


「すまん、よろしく」


 一番近くにいたエメラルドが玄関まで見に行き、レイラを連れて戻ってきた。


「先生、レイラさんがお見えです」


「お、焼き芋かな?」


「ええ、まだ出来上がってませんけど食べていきませんか?」


「いいね。

 じゃあ、焼けあがるまで待たせてもらおうかな」


 レイラも焚火の近くへ来た。


「何か用があったんじゃないのか」


「あ、そうそう。

 こっち来てよ、アスランさん」


「ああ」


 たぶん、ユイカに聞かせたくない話かな。

 玄関の方に行って、二人だけで話をした。


「ジラフには罰金とギルドの掃除。

 それと不人気依頼を片付けてもらう罰を与えたよ。

 軽い気はするけど、これで勘弁してくれないかな?

 同じようなことをして、証拠がなくて罰を与えてられてないやつも多いんだ。

 バランスを取ると、ジラフに厳しい罰はできない」


「オレはいいけど、ユイカの親御さんには報告したのか?」


「ああ。

 ユイカが火炎鬼フレアオーガと戦ったって言ったら腰をぬかしていたけど、アスランさんの活躍を言ってあげたら感動してたよ。

 ジラフへの怒りより、アスランさんへの感謝が勝ってたようだね」


 レイラは笑っていた。


「後、これ」


 レイラは、中心に薄青い宝石のついた金属の棒をオレに渡してきた。


「……何だ?

 女ものの髪留め?

 使い方がわからないけど……」


「ジラフから、お詫びの印だって。

 最近王都で流行ってる『かんざし』」


「あいつお洒落なものをくれるな」


 金属本体にも精緻な細工が施されている。


「ジラフはさ、戦闘はからっきしダメなんだけど手先が器用で魔力の素養があるんだよね。

 罠の解除や宝箱の解錠が得意でね。

 昔から錬金術師の真似事みたいなこともしてたんだけど……今回の件で錬金術師として生きてくって決めたみたい」


「そうか、それでお詫びの品ってことか。

 じゃあ、ユイカに渡してやるか」


 オレたちは焚火の近くに戻った。


「おい、ユイカ。

 これジラフ……」


 レイラがオレの話を手で遮った。


「……何だよ?」


「ユイカちゃん。

 先生から依頼達成のご褒美があるってさ」


「え?」


「ほら、渡してあげて」


「……ああ」


 レイラにうながされるままに、かんざしを渡す。


「え?

 これ本当に先生からですか?

 『かんざし』なんて知ってたんですね、尊敬します」


 エメラルドはオレがあげるものがお洒落でびっくりしていた。

 いや、実際は知らなかったよ?


「私、先生からこんなお洒落なものもらえるなんて思わなかったよ。

 毎日使うね!」


 ユイカは飛びきりの笑顔を見せてくれた。

 おお、そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。


 レイラが耳打ちしてきた。


「アスランさん。

 ジラフからのお詫びの品だって渡すより、アスラン先生からのプレゼントって言った方がユイカは喜ぶからね、余計なこと言わないでね」


「いや、でもなあ」


 一応、ジラフのお詫びの気持ちも伝えたいような気がするが……


「アスランさん、割と女心わからないんだね。

 フフ、まあそれもアスランさんらしい気はするね」 


「レイラ、それ褒めてないだろ」


「……褒めてはないね」


 レイラはけらけらと笑っていた。


「ユイカ、今つけてあげよっか?」


「ホント? イリヤさんありがとう」


「ユイカさん、ここに座ってください」


 エメラルドが椅子を持ってきて、ユイカを座らせた。


「綺麗な髪。ちゃんと毎日髪をといているみたいだね」


 イリヤはてきぱきとユイカの髪にくしを通す。


「えへへ。

 イリヤさんみたいな艶のある黒髪になりたいからね」


「……可愛い子」


 イリヤはユイカを抱きしめた。


「フフ、可愛くしてあげる」


「お願いします」


 イリヤは鮮やかな手付きでくるくると髪に触り、あっという間にユイカの髪をかんざしでまとめた。


「はい、出来上がり」


「先生、どうかな?」


 いつもの二つ結びじゃなく、かんざしでアップにしたユイカはいつもより少しだけ大人びて見えた。


「似合ってるよ。可愛いぞ」


「えへへ、やったあ!」


 飛び上がって喜ぶユイカの髪はぶわあっと緩み、かんざしがぽとりと落ちた。


「ユイカにはかんざしはまだ早いようですね」


 エメラルドはくすりと笑っていた。


「……もう、かんざしつけたら走り回るもんじゃないよ」


 ぶつぶつ言いながら、イリヤはもう一度、ユイカの髪をまとめていた。


「ユイカはこの方がいいかな?」


 いつも通り二つ結びにしたうえ、飾りとしてかんざしをつけた。


「飛び上がっても、落ちないようにしたよ」

「やったあ!」


 ユイカは性懲りもなく、飛び上がって喜んだ。

 だが、さっきとは違って、髪はまとまったままだった。


「ほら、大丈夫でしょ」


 イリヤは得意げに口角をあげた。

 

「ホントだ」


 嬉しそうなユイカを見て、みんな笑っていた。


「みなさん、もう焼き芋しっかり焼けてますよ!」


「「はーい」」


 エメラルドの声掛けを聞き、皆はぞろぞろと焼き芋に群がっていく。

 後ろにいたはずのユイカが皆を抜き去り、一番に焼き芋にかぶりついていた。

≪読者の皆様へ≫

これにて2章完結です。


作品を読んでいただきありがとうございます。


ブックマークや評価をもらえると執筆のモチベーションが湧いてきます。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします!

3章は主にイリヤの話です。

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