13 依頼者を問い詰める
――冒険者ギルドへ。
「よお、お嬢ちゃんたち。
初仕事はうまく行ったのかよ?」
剣士トロサールが、ユイカに話しかけてきた。
「うん、大変だったけどね」
ユイカはピースサインをした。
「やるじゃねえか!」
「「おめでとう‼」」
そこにいた冒険者たちは一斉に立ち上がって、ユイカたちに拍手をしてくれた。
「ありがと!」
「あ、ありがとうございます!」
ユイカもカンナも嬉しそうに笑っていた。
この前の飲み会以来、ユイカは冒険者たちと仲良くなったようだ。
というか、他の門下生のお嬢さんたちはモジモジしていて、冒険者たちとあまり話をしていなかったようだけど、ユイカは人見知りしないからな。
拍手にぶんぶんと手を振り返した後、ユイカたちは受付嬢のジーナに依頼達成を報告。
指輪を渡し、報酬を受け取っていた。
「先生、ご飯食べて帰ろうよ。
今日は珍しく、私がおごっちゃうよ?」
ユイカは初仕事を終えた興奮でテンションが上がりきっているようだ。
「……ちょっと、レイラに用があるんだ。
先に帰っていてくれ」
「そっか。
私、先生の邪魔はしないよ。
じゃあ、明日のお昼おごってあげるね!」
「先生、失礼しました」
ユイカはぶんぶんと手を振り、カンナはぺこりとお辞儀をして、二人仲良く一緒に帰っていった。
ユイカたちがギルドから出て行ったことを確認し、受付嬢ジーナにレイラとの面会を依頼。
すぐにギルドマスターの部屋へ呼ばれた。
「やあ、アスランさん、依頼お疲れ様。
ユイカの笑い声が、この部屋にも聞こえたよ。
護衛任務は成功だったようだね」
話しながらレイラは立ち上がり、ソファに座るよう促した。
「依頼内容は指輪の捜索だったが……その指輪は火炎鬼の指にはめられていた」
「何? 火炎鬼だって?」
レイラは顔をしかめた。
「火炎鬼だけでなく、鬼たちも集団で襲い掛かってきた」
「トルトナム湖はそんなに強いモンスターは現れないはずなんだが……道理でトルトナム湖周辺の依頼が掲示板に残ったままなわけだ。
ギルドに入る情報が遅いのは、改善していかないとだね」
「ギルドに依頼を出すときは、環境の変化を報告することになってないのか?」
レイラは首を振った。
「もちろん、依頼を出すときは周りの状況が変わっていたら、きちんと言うように依頼者たちには伝えてある。
でもね、そうすると報酬額があがるから……依頼者によっては、全く教えてくれない人もいる」
「何とか罰することが出来ないのか?
初めての依頼なのに、ユイカたちは火炎鬼と戦う羽目になったんだ。
正直、護衛についてなければあいつら生きて帰れなかったと思うぞ」
「……『依頼の捜索品の近くに、強いモンスターがいるなんて知らなかった。』
そう言われると弱いよ。
ほとんどの場合、証拠が無いからね」
トルトナム湖で拾ったナイフを机に置いた。
「……これは?」
「火炎鬼を倒した現場で拾ったナイフだ。
レイラは知らないかもしれないが、ユトケティア王国の父親は、男の子が成人するときには、柄にその子の名前を刻んだナイフを与える。
このナイフで獲物を狩り、独り立ちできるように祈りを込めて」
「私も知ってるよ、兄がいるからね。
もらったときの兄はとても嬉しそうで、大事そうにしまっていたよ」
レイラはナイフを掴み、柄に刻まれた名前を見る。
「『ジラフ・スノウ』……依頼者と同じ名前だね」
「今どこにいるかわかるか?」
「そうだね……ギルド内で聞いてみれば顔見知りがいるだろうさ」
――酒場で見たという情報を得て、ジラフに会いに酒場へ行く。
レイラも一緒についてきた。
「ああ、いるね。
あの色白の小男がジラフだよ」
「わかった」
上機嫌で一杯やっているジラフの向かいに無言で座り、睨みつけた。
「な、何だよ、アンタ」
「知らないのか、アスラン・ミスガル。
簡単に言うと、凄腕の剣士で、私の友達さ」
「ゲッ……レイラ」
ジラフはレイラの顔を見て、驚いて立ち上がった。
「ははは、ギルドマスターの私に会って『ゲッ』てことはないだろう?
それとも、何かやましいことでもあるのかな?」
「い……いや……」
ジラフはずっと目を逸らし続けていた。
「座りな」
レイラは低く響く声でジラフに命令した。
「は、はい……」
ジラフはさらに小さくなって椅子に座った。
「これがアンタが捜索依頼を出した品だ」
「指輪か……取り返してくれたのか」
ジラフはレイラに渡された二つの指輪を大事そうにしまいこんだ。
「取り返した、ね」
「いや、ははは。
見つけてくれてありがとう。
友達から頼まれた品なんだ」
ジラフの声は裏返っていた。
「依頼を受けたのは、今日がはじめての現場になる新米冒険者だった」
オレの話の中で新米冒険者と聞いて、ジラフは目を伏せた。
「……新米冒険者が依頼を受けたのか」
「現場にな、火炎鬼がいた」
ジラフは顔色一つ変えなかった。
「……なんだ、驚かないんだな。
火炎鬼がトルトナム湖に現れるなんて普通驚くもんだけどな」
「い、いや……か、火炎鬼か。
あ、あまりのことに声がでなかっただけだ」
ジラフは早口になり、額に汗を浮かべていた。
「新米冒険者は苦戦をしててな、たまたまオレが通りがかったから良かったんだが……」
「なあ、その新米冒険者、助かったんだよな?」
「そうだ、オレが火炎鬼を倒したからな」
「そうか、良かった……」
ジラフがほっとしていたのが、傍から見た俺にもわかった。
「その火炎鬼が2体とも指輪をしていた」
「……そうか」
「お前、指輪を火炎鬼がはめてたこと、知ってただろ。
……火炎鬼の討伐依頼だと高くつくから、指輪の捜索だということにして報酬を安くした。
おまけにトルトナム湖に強いモンスターが現れたこともお前、ギルドに黙っていただろ」
強い口調で問い詰めた。
「違う、オレは知らなかったんだ。
強いモンスターが現れたなんて知らなかった!」
先ほどまでオドオドしていたジラフはやけに冷静に主張した。
なるほど、こう答えればいいと事前に想定していたんだろうな。
ジラフはニヤニヤ笑いながら、知らなかったと喚き続けていた。
フン、声高に主張できるのも今のうちだぞ。
「トルトナム湖に指輪を落としたお前は、指輪を拾いに戻った。
そして、指輪を火炎鬼に拾われたことに気づいた。
2体の火炎鬼が夫婦だったのかはオレの知るところじゃないが、あいつらは2体とも指輪をはめていた。
お前は何とか隙をついて取り戻そうとしたが、火炎鬼に殺されそうになり、命からがら逃げだした。
大事なものを、落としたことにも気づかずにな」
「何勝手なことを言ってるんだ、オレは火炎鬼に会ったことなんてない!」
「お前のカバンを開けてみろよ」
「何だと……」
「大事なものを落としたと分かるはずだから」
いぶかしみながら、ジラフは自分のカバンを探った。
「あ……」
ジラフはどうやら、たった今ナイフを落としていたことに気づいたらしい。
本当に命からがら逃げだしたようだな。