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ヒーローがいるのに平和な街の裏 十三

 ――諦めちゃうの?

 何処からか、声が聞こえた気がした。誰なんだろう、この暖かみのある優しい声は。

 ――やっぱり栄作は栄作だね。凄いんだけど凄くないよ。

 ああ、わかった。誰かと思えば、この声は亜希子だ。つくづく馬鹿だな僕は。亜希子の声さえも判別出来なくなるなんて。というかまんま叶さんの声じゃないか。流石に似過ぎだろ、亜希子と叶さん。まあいいや。多分これは夢の中だ。或いは、僕の現実逃避の中。どちらの方がいいとかはわからないけれど、やっぱり久しぶりに亜希子と喋ることが出来て嬉しいという気持ちしか生まれなかった。

 何だよ、諦めるって。

 ――私を栄作の目の前から消した徳永のことよ。あんた、一体何がしたいの?

 何がしたいって、どういう意味だよ。

 ――そのままの意味しかないっての。雄二君が死んだと思ったらすぐ様、お世話になった上司さん方に脅迫するなんてさ。何がしたいの? って感じなんだけど。

 何がしたいって……僕は亜希子や父さんや母さんを殺した徳永切裂に復讐したいだけだよ。

 ――だからそこから間違ってるんだって。

 間違ってるって何だよ。

 ――いいから聞きなさいな。まずこうして私の声が聞こえるのは何でだと思う?

 夢の中だからだろ。

 ――ブッブー。やっぱりあんた、何にもわかってないよ。私は栄作が自分で生み出した現実逃避の塊さ。

 現実逃避……。

 ――そ。現実逃避よ現実逃避。あんたは何にも考えたくないから私を生み出して、こうやって喋らせてんの。アハハって感じよホント。

 何が言いたいんだよ、亜希子。

 ――甘えてんじゃないわよ栄作ってことだけよ。私が言いたいのは。

 甘え……って……。

 ――栄作はいつもそうよ。私達が死んだっていう事実から目を背けて、悪い方向悪い方向に目を向けてる。折角この街に来てポジティブシンキング出来るようになったと思ったら、本番でずっこけてまた元通り。ポンよポン。頭パーになったんじゃないの、栄作。

 そ、そこまで言わなくても言いだろ! 僕は亜希子の為を思って……。

 ――自惚れも程ほどにしなさいよ、あんた。その台詞を栄作の口から聞くとは思わなかったわ。絶望したわよ、私。

 ……ゴメン。

 ――いーえ、許しません。罰として私は消えることにするわ。んじゃねー、栄作。

 あ、待ってくれ、亜希子! まだお前と喋りたい!

 ――もう一度、自分を見つめ直してみてね。

 そう言うと、亜希子は姿を消した。いやまずそもそも亜希子の姿があったかどうか微妙なんだけど、そんな境界線はどうでもよかった。

 自分を見つめ直せって何だよ……亜希子……わかんないよ……どうすれば……どうすれば……。

 こんな時、僕はいつも何をしていたっけ?こんな訳のわからない感情がごちゃごちゃになる時、僕はいつも何を……。

 ああそうだ。

 僕はいつも、叫び散らしていた。

 でもそれは、あの時までだ。

 あの時……あの、ヒーロー夫人と高梨君の前で宣言した、あの時まで。

 僕はあの時、何を言ったんだっけ? 確か田中未来がどうとか田中三純がどうとか……いってないな、こんなの。

 僕が言ったのは……僕が言ったのは……。

『謝ります。色んな人に』

 そうだ。こんな感じの、未来を見据えた僕の覚悟。

 未来? 未来ってどんなものだっけ?

 徳永切裂に復讐するのに諦めた上で手に入るものだっけ?

 ……そんな訳、ない。

 そんな未来は、ありえない。

 復讐するんだ、僕は。徳永切裂に。

 でも、もし体力が尽きて、これ以上徳永切裂を追えない状況になったらどうする?

 諦めるのか?

 諦めたのか、僕は?

 ホントウニ、ソレデイイノカ?


「良い訳ないだろ……良い訳ないだろっ!」

 甘えるな。

 力尽きた自分に甘えるな。

 力尽きた自分に甘えるんじゃなくて、それでも火事場の糞力を奮う自分に甘えろ。

 ああ、いいさ。存分に甘えてやる。甘え切って、そんな自分以外頼れないようにしてやる……!

「くそこの徳永切裂がああああああっっっ!」

 何度目かになる咆哮と共に、僕は駆け抜け出した。足に感覚がないけど、そんな些細なことはどうでもよかった。

 到底追い付けないことはわかってる。周りは巨大怪獣が踏み潰されたみたいにスッカスカだ。その先に徳永切裂はいる。だけど、これ以上遠ざけさせる訳にはいかない。何がなんでも距離だけは離さない。だから走り続けてやる。

「…………」

 すると遠くに居た徳永切裂が、何かを言いながら立ち止まった。またコンクリートを投げつけてくる気か。いいぞ。やってやる。十個でも百個でも避けて、お前に近づいてやる。

 しかしどうやら違うようだった。徳永切裂は立ち止まったまま、僕の方を向いてこう言ったからだ。

 ――笑顔で。

 こう言ったからだ。

「暗闇の空間の場所は後回しだ。どうやら私は、君に精一杯の対応をしなければならないらしい」

 そして徳永切裂は、初めて僕に向けて刀を構えた。

「ようやく……ここまで来た、のか」

 走り、近づいた僕は徳永の刃が届かない距離で立ち止まった。銃を浮かばせポケットに手を突っ込み、弾を出してリボルバーに入れる。

 計、十二の銃弾。

 徳永切裂に、放つ為の弾が、準備出来た。

「僕に殺させてくれ……徳永切裂!」

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