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目覚め

お茶会を楽しんだリナは、夕方に怪我人が目覚めたという報せを聞いてすぐに2階へと向かった。

アスロが知らせに来てくれたので、彼女と一緒に部屋に向かうと、扉の前にボルドが立っていた。

2人の姿を見て軽く頷く。

「怪我人の具合は?」

「ロイド様が先に来ています。会話ができそうなので相手の素性と倒れていた事情を聞いています」

今日はロイドも神殿にいた。食事の時間には顔を合わせていたがそれ以外は王竜の間にいた。怪我人が目を覚ましたことを知ってすぐにここへ来たようだ。

「入ってもいいかしら?」

話をしているのなら邪魔をしない方がいいかもしれない。だがリナも相手のことが気になっている。できれば一緒に話を聞きたかった。

「相手は魔法師なので念のためスカイもいます。安全を確保しているつもりです」

魔法対策としてスカイを同席させているようだが、彼は小さな魔法しか使えない。魔法への対応は難しいのはわかっている。それでも相手は瀕死だった怪我人。何かを仕掛けてくることはないと判断しているようで、リナが来たら部屋に入る許可が出ていた。

ボルドが軽く扉をノックして開けてくれる。彼は部屋に入らないようで、リナはアスロと一緒に部屋へと入った。

ベッドに横たわる怪我人はじっと天井を見上げていた。その横に置かれていたソファはなくなっていて、代わりに丸椅子が2つ置かれていた。その1つにロイドが座って怪我人に話しかけている。

「森のすぐ近くで倒れていたことを覚えているか?」

「・・・はい」

「なぜ倒れていたのか話してほしい」

「・・・私は、王竜様に会うためにここへ来るつもりでいました」

「何のために?」

「私の国で起こったことを伝えるために」

ロイドの質問に天井を見上げながら淡々と答えている。

名前は既に聞いたのだろう。なぜここへ来たのかその理由を話していた。

「あなたの国であるアストル魔法国で何が起こったのか話せるか?」

大小様々ではあるが魔法が使える魔法師が多く住んでいるアストル魔法国。彼はその国の魔法師であった。

「私の国では他国のような王様という存在はありません」

何が起こったのか聞いたはずなのに、彼は国について話し始めた。

「もちろん王族という存在もありません。ですが、魔法国にも国をまとめる王という存在はいます」

「それは知っている。魔法国の王はその国で一番の魔力と実力を兼ね備えたものが選ばれて王という役目に抜擢されるはずだ」

ロイドの説明に頷く怪我人。リナも魔法国のことは話だけなら聞いたことがあった。あの国は血筋で王を継承していくのではなく、実力ある者を国の頂点に据える。豊富な魔力と、高度な魔法を使いこなせる者を国の代表としているのだ。その代の王に子供がいたとしても、実力がなければ次の王になることは出来ない。実力主義の国ともいえる。

「私はあの国で王という存在をしていました」

国の話をしていた怪我人は突然爆弾発言をしてきた。

「魔法国の王様」

黙って話を聞いていたリナだが、驚きの発言に声が漏れた。

それまで天井を見ていた怪我人が視線だけを向けてくる。リナが部屋に入ってきたことに気が付いていなかったのか、リナの存在に気が付くと目を見開いて驚いた表情をした。

「目が覚めて良かったです。私はリナ=フローネスといって、ロイド=フローネスの妻です」

視線があったため黙っているわけにもいかずリナはすぐに自己紹介をしてロイドの隣の空いている椅子に座った。

「私はオルトロ=ビーカンです。今話した通り、魔法国の王をしていました。ですがここまで悲惨な姿をお見せしたことで気が付いているでしょうが、すでに王座は別の者が座っているはずです」

どこか推測の混ざった言い方だ。

オルトロは再び天井に視線を向けると静かに話を続けた。

「我が国では毎年王となる者の選抜をします。ほとんどが話し合いで相応しいものを選ぶのですが、時には実力を見極めるために王候補と魔法対決をすることもあります。私は22歳から10年魔法国の王をしていました」

随分若い頃から国王として国を守ってきたようだ。それだけ彼の魔力が強く、魔法の技術が優れていたのだろう。そんな彼がどうして大怪我をしているのか不思議であった。

「私の国には神から授かった大魔法と呼ばれる存在があることはご存じですよね」

「魔王討伐のために魔法師に授けられたもののはずだ。授かった魔法師は魔王討伐後、その強すぎる魔法を封印したと聞いている。そのため今では誰もその大魔法を使える者はいない」

魔王を倒すためだけに授けられた魔法。そのため平和になった大陸で大魔法を使う必要性がないことを考え、授かった魔法師本人が大魔法を誰かに継承することなく封印してしまった。

それくらいの話はリナも聞いたことがあった。聖女の力は選ばれた者に受け継がれ、今も王都を守っている。ロイドの故郷であるグリンズにも聖剣は存在しているが、剣に選ばれた者しか扱うことができない。聖剣も初代の聖騎士以外誰かを選んだことがないという。

大魔法は扱える者を選ぶ以前に、その存在がなかったかのように継承されなかった。

「大魔法に関しては、古い古文書に魔法の内容を記した書物は存在しています。でも、古い文字のためそれを解読する必要があり、たとえ解読できたとしても、その力をコントロールできる魔法師はいません。私でもおそらく無理でしょう」

魔力量が多く魔法の技術に優れている王であっても扱えない力。なぜ大魔法の話をしているのかリナはわからなくて首を傾げた。いったい彼は何を言いたいのだろう。

「ですが、その大魔法を再現しようとした者がいました。私とそれほど魔力量が変わらないのですが、技術で劣ると判断された人物です」

魔法国の王と肩を並べられる人物がもう1人いた。

何度も話し合いが行われ、毎年候補として名が出るがやはりオルトロと比べると魔法の実力で劣るため王座に就くことはなかった。

「彼女は王座に興味がなかったため、私が王となっても何の不満も抱いていない様子でした」

どうやら相手は女性のようだ。

「ですが、大魔法にはとても興味があったようで、古文書を研究して大魔法の再現を試みようとしていました」

「それがあなたの怪我とどう繋がる?」

ずっと話をしているオルトロは怪我をした原因をまだ話していない。まだ話が続きそうだったため、ロイドは簡潔に話してほしいという意味を込めてそう質問したようだった。

「この怪我は彼女にやられました。大魔法の研究をするのは構わないけれど、それを再現してどこかで実験しようとしていたことを知ったから、止めようとした途端にこの有様です」

どうやら王候補の女性が大魔法を使ってみようとしたらしい。それを止めたオルトロは彼女と争いになって怪我をしたようだ。

「情けない話不意打ちを食らいました。魔法国では王に勝てたものが次の王となることが決まっています。たとえ不意打ちだったとしても、彼女は私に勝ったことになる。今魔法国で王座についているのは彼女でしょう。そして、誰も彼女を止められなければ思うがまま大魔法を使おうとするはずです」

話を聞いた瞬間、リナは脳裏にギュンターの王都の夢を思い出していた。

大魔法がどれほどのものなのかわからないが、巨大な光の球を王都に向けて放っていた魔法師。顔はわからなかったし性別も不明だ。だがオルトロが話している女性が攻撃してきたのではと思った。

「だが、大魔法はあなたでも使えない。それを技術で劣る相手に使いこなせるとは思えない」

話を聞いていたロイドが冷静に言うと、オルトロは小さく頷いた。

「当時の魔法を見たことはありません。ですが、魔王と戦えるだけの強力なものであったことはわかります。彼女が再現したいのは大魔法ですが、それに近い攻撃魔法を編み出したと思っています」

大魔法とはいかなくても、研究してそれに近い魔法を開発した。それがどれほどの威力を持っているのか試そうとしていたのだ。

「彼女は今どこに?」

「私が負けたことで王座は彼女の物になりました。ですが実験を続けているのなら、今は王城にいない可能性があるでしょう。魔法国にいるかどうかもわかりません」

国はおそらく混乱に陥っている。オルトロが王でなくなり、怪我をして竜王国にいることを魔法師たちは知らない可能性が高い。そして、王となった女性もまた姿を消している。

「彼女を、キャスティを探さなくてはいけない・・・」

相手の名前を口にすると、オルトロは瞼を閉じた。話すことに体力を使ってしまったのかそのまま寝息を立て始める。

「素性と怪我をした理由はわかったが、どうして森の側に倒れていたのか聞けなかったな」

規則的な呼吸を確認してからロイドは息を吐きだすように言った。

「攻撃してきた相手から逃げるためではないかしら」

不意打ちの攻撃を食らったと言っていた。そこから逃げるために逃げてきたのだと思っていたが、ロイドは違う考えを持っているようだった。

「それならキリアルが見つけた時に王竜に会いたいと言っていたのが引っ掛かる。彼は逃げるためにここへ来たのではなく、王竜に会うのが目的だったように思う」

確かにキリアルが見つけた時まだ意識はあったという。彼は王竜に会いたいと口にしていた。何か王竜に伝えなければいけないことがあるのだろう。

「大魔法を生み出そうとしている魔法師がいることを伝えようとしたとか」

想像で言ってみるが、ロイドは納得していない。

「大魔法を生み出すことだけではない気がする」

別の何かがあると思っているようだ。話の続きを聞きたいところだが、やっと目を覚ましたオルトロを叩き起こして話をさせるのは難しいだろう。

再び話せる体力を取り戻すまで待つしかない。

「ヒスイのところに行ってくる」

立ち上がったロイドはリナに部屋に戻るように言うと、自分は王竜の間へ行ってしまった。ロイドを通して王竜も話は聞いていたはずだ。彼の頭の中で会話はできるはずだが直接会って話をすることにしたようだ。

「私たちも戻りましょう」

ずっと扉の前で黙って立っていたアスロに声を掛けると部屋を出る。ボルドとスカイに後のことを任せて私室へと戻ったリナだったが、これから夕食だとわかっていても心がざわついて落ち着かなかった。

オルトロの話を聞いてギュンターの王都を思い出していた。

ただの勘ではあるが、嫌な予感しかしない。大魔法の再現を王都で試した可能性があるように思う。ギュンターの聖女の結界は大陸に住む者なら誰でも知っている。魔法が結界に対してどんな結果になるのか実験したのではないか。そんな考えが浮かんでいた。

「もしそうなら国同士の問題になるわ」

実験だったとしても他国からの攻撃だ。確証は何もないがギュンターと魔法国の間に大きな亀裂を生じさせる出来事になりかねない。

ロイドが戻ってきたら自分の考えを話しておくべきかもしれない。

落ち着かない気持ちのまま、リナはその日の夕食を済ませると、就寝時間にやっと戻って来たロイドに自分の思い付きを離すまでずっと心が落ち着かない時間を過ごすことになった。


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