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夢から現実へ

「リ、ナ・・・リナ」

遠くで聞こえる声がだんだん近くで聞こえるようになると、リナはロイドに呼ばれていることに気が付いて意識を取り戻した。

「大丈夫か?」

「・・・うん」

そう返事をすることしかできなかった。体は寒くないが呼吸が少し苦しいように思う。

「王都の近くまで来た。少し高度を下げているからゆっくり呼吸をしてみてくれ」

リナが気を失っていたことはロイドも気が付いていた。だが途中で起こすようなことはせずそのまま呼吸が乱れていないことに注意を払って飛んでくれていた。今は高度を下げているので呼吸が少しはしやすいということだが、リナは出来るだけゆっくりと呼吸を繰り返してみる。

勢いよく飛んでいた時と比べると、ずっと息がしやすい。そのことにほっとしていると、少しずつ周りの状況もわかってきた。

空は相変わらず青空が広がっている。王都に近いということは、広大な草原の上を飛んでいるのだろう。山は遠くに見えて、時々小さい規模の森が点在している。

ギュンターの王都は草原の真ん中に存在している。守護を持っている聖女がいる国なので、敵に攻められても鉄壁の結界があることから無防備にも見える場所に王都があるのだ。

その代わり見渡す限り遮るものが少ないことから敵を見つけやすいという利点はある。ただ、攻撃力の低い国ということで、攻め返すだけの力は戦争時にもなかった。

ひたすらに耐える国ではあったが、当時の聖女は完璧に王都を守り抜いた。

「どこかヒスイが降りられそうな森を探す」

点在する森は大小様々だが、その中で王都から近く王竜が降りても気づかれることのない場所を探すことにしたようだ。最初は王都の様子を確認してから国境まで戻ることを話していたが、ギュンター王国に直接降りることに変更したらしい。

「王都の上空を飛ぶことはしないの?」

まずはリナの夢を確かめるため王都の上空を飛ぶと思っていた。

「上空となるとかなり高度を上げる必要がある。近くで確認するにはヒスイから降りて王都に向かった方がいいだろう。ヒスイも上空から様子を見ることになるが、俺の目を通してすぐ近くの様子も確認できる」

竜騎士は王竜といつも繋がっていて、竜騎士の見聞きしたことは王竜にも伝わるのだ。上空からの観察とロイドの目を通して王都で何が起きているのか確認できる。

説明をされている間にいい場所を見つけたのか、王竜が高度を下げ始めた。

やがて視界が空の青から森の緑へと変わると、ふわりと王竜が着地した。体に大きな負担もかからず静かな到着に無意識に力が入っていたようだ。ほっとするとバランスを崩しそうになる。だがすぐにロイドの腕が支えてくれて王竜の背から転がり落ちることはない。

そのまま抱きかかえられて地面へと降ろされると、毛布やコートを剥ぎ取られていった。

「開放感があるわ」

蓑虫状態で上手く体を動かせなかったこともあり、両手を空に向かって突き出すように伸びをしてみる。

「ここから少し歩くことになる。必要のない荷物はヒスイに預けてできるだけ軽装で行こう」

リナを巻いていた毛布などは王竜の背に縛り付け、荷物を入れたバックを持った。それほど大きな荷物もないので、ロイドがバックを持ってくれてリナは手ぶらで歩くことができた。

森を抜けると遠くに王都が見える。あそこを目指して歩けば道がなくても迷うことはない。

夢のことを思い出すと、王都の入り口辺りで何かが起こった痕跡がきっとある。大きな爆発が起こっていたのは覚えているのだ。

王都は結界で守られているとはいえ、リナに大きな影響が出たことを考えるとあそこに住んでいる人々が穏やかに暮らしているとは思えなかった。

「リナ」

無言で歩くリナの手をロイドが優しく包み込むように握ってきた。

「まだ何もわからない状態だ。今は王都を目指すことだけ考えよう」

どうやら難しい顔をしていたようだ。リナはギュンターの聖女であり王都の結界を維持している張本人だ。王都で何かが起これば聖女を頼る者たちもきっといる。考えなければいけないことは沢山あるだろうが、それは何が起こっているのか確かめてからだ。今ここであれこれ考えても始まらない。

「そうね。まずは自分の目で確かめないと」

不安ばかりが募っていたリナは少し体の力を抜いて歩いた。自然と足の運びも軽くなった気がする。

遠くに見えていた王都だが、見えているだけで近いように思えていたが、実際歩いているとなかなか辿り着かないことにその距離を実感させられることになった。

「馬車か、馬だけでも用意出来たらよかったな」

普段から鍛えているロイドは平気そうに歩いていたが、長距離を歩くことのないリナにはさすがに疲れる距離だ。早く着きたい気持ちもあるが、途中で何度か休みながら王都を目指すことになった。

やがてはっきりと王都を囲う壁が見えるようになると、やっと到着できるという安心感とともに、王都の中ではなくその外側にまばらではあるが人がいるのがわかってきた。

それだけで王都で何かが起こったことは確信できた。夢は正夢だったのだ。

「もっと近づいてみましょう」

詳しい状況を知るためさらに近づいて行くと、その途中で衛兵に止められる。

「この先は進入禁止になっています」

「王都に入りたいのであれば別の入り口を使いなさい」

夢で見た王都は街の顔と呼べる正面門に攻撃を受けていた。それと同じ場所はリナ達がいるところからも見えたが特に異常があるようには見えない。だが、正面は正常でもその手前の地面が大きくえぐれ穴を開けているのがわかった。

攻撃の破壊力を物語る光景に息を飲む。ふらついたリナをすぐにロイドが支えてくれた。

「何があったのか聞いてもいいだろうか?」

ロイドが質問すると、別の門に行くよう指示を出していた衛兵たちは顔を見合わせてから困惑した表情をする。

「我々も詳しいことはわからない。何者かの攻撃を受けたことは確かだが、聖女様の結界のおかげで王城も街も無傷だ。ただ、穴が開いてしまったから修復に時間がかかる」

大きく空いた穴は土で埋めることになりそうだ。攻撃されたことと地面がえぐれたことはわかっていても、誰が何のために攻撃してきたのかわからないようで、現在調査中として衛兵たちも答えることしかできないようだった。

「次の攻撃がないとも限らない。できるだけ早く王都に入りなさい。王都内は聖女様の結界で守られているから安全だ」

次の攻撃があるのかどうかもわからないが、警備を強化して対応するつもりのようだ。そして、一般人は出来るだけ速やかに王都に入るように促している。

衛兵の目の前にいるのが王都を守っている聖女だとは思わないだろう。親切に入ることが可能な場所を教えてくれて衛兵たちは自分たちの仕事へと戻っていった。

「想像していたよりも威力のある攻撃だったようだな」

陥没している地面を眺めながら歩き出したロイドは、リナから聞いていた夢の内容からどの程度の被害が出ているのか予想はしていたのだろう。だが思っていたよりもひどい有様に眉間に皺を寄せている。

地面がえぐれていることに衝撃を受けたリナは、それでも王都が無事であったことに心から安堵していた。自分の結界が何者かの攻撃を防げたことにほっとする。たとえ竜王国にいたとしても聖女の力はしっかりと役目を果たせていた。

「王都に入ったら、まずは神殿に行きましょう。大神官様から情報をもらって、今後の対応を話し合わないと」

神殿も攻撃を受けた以上リナと連絡を取りたいと思っているはずだ。

王都は城を3方向から囲うように街が広がっていて、出入りするための門も3つある。城の裏手にもあるがそこは王侯貴族が極秘に出入りする時か、城への荷物の搬入に使われることが多く、平民には縁がない。

街と繋がっている別の出入り口を通って街の中へと入ると、結界の外では大変な光景が広がっていたが、街の中は変わらず人々が生活をしている姿になんだか拍子抜けしてしまう。

「みんないつも通りに見えるわ」

ロイドと並んで歩きながら街の様子を確認していたが、誰も攻撃されたことを知らないかのように生活している。

結界が守ったことで王都の外に出ないと気が付かないのだろうかと思っていると、ロイドが首を横に振った。

「普段通りに見えても、攻撃されたことは知られているようだ。兵士の姿がちらほら見える」

言われて注意深く確認すると、平民たちの生活の中に衛兵の姿が時々見えた。それに耳を澄ませてみると、人々の会話が門の前の地面のくぼみだとか、結界のおかげという言葉が聞こえていた。

普段通りに見えてもわずかに違いはあったのだ。

「とにかく神殿に急ごう」

促されるままリナは自分を待っているはずの神殿へと足を進めるのだった。


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