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王都の結界

日が昇り朝を迎える頃には、リナは夢の内容を思い出していた。

「ギュンターの王都にいた夢を見たわ」

寝室に戻ってベッドに寝かされたリナだが、眠気は飛んでしまっていたので眠ることは出来ず着替えて隣の部屋に行こうとした。だが体に上手く力が入らないことから着替えさえできない状況を知ったロイドに休むよう言われ、ベッドで横になったまま天井を見上げながら夢のことを思い出そうとしていた。

ゆっくりではあったが自分が見ていた夢を思い出していくと、窓の外はすっかり明るくなり、身体も歩く程度は大丈夫なまでに回復した。

着替えて隣の部屋に移動すると、いつも庭で剣の稽古をしているロイドは、ソファに座って静かに窓の外を眺めていた。リナの状況を気にしてずっといてくれたようだ。

隣に座って夢を思い出したことを伝えると、まずは体の状態を確認されてしまう。もう平気だと説明して納得してもらってから夢の話になった。

「全部思い出せたのか?」

「たぶん」

気が付けば王都の上空にいたところから、王都に向かって光の球が飛んでいき弾けて爆発したような場面までなら思い出せた。その前と後に夢の続きがあったのかはわからない。

「夢の内容を聞いても?」

思い出せた夢がすべてかわからないが、話せる範囲なら伝えることは可能だ。

悲鳴を上げて意識を失ったリナを隣で見ていたロイドは、その原因を知りたいと思うのは当然だろう。それにリナもあの夢が何だったのかわからない。話を聞いてもらった方が今後どうするべきか相談もできると思った。

「気が付いたらギュンターの王都の上に浮かんでいたの」

夢の説明を始める。もう一度王竜の間でヒスイも一緒に話をするべきかと思ったが、ロイドは何も言わなかったため、きっと彼を通して話を聞くという形を取ったのだろう。そのまま続きを話していくことになった。

「黒マントが誰なのかわからなかったけれど、その人物が放った光の球が王都に向かって投げつけられて、それが結界に衝突して爆発したところで終わったわ」

その後のことはわからない。気が付けばロイドの腕の中で意識を取り戻し、目の前の美しい顔に手を伸ばしていた。

「あれがただの夢ならいいのだけど、なんだか不安が残っていて、どうしたらいいのかしら」

ロイドへの相談というより自分への問いに近い呟きだったように思う。

「悲鳴を上げたことは覚えているか?」

その問いに首を横に振る。目を覚ましてロイドの名を口にしたようだが、まったく覚えていない。

「ヒスイにすぐに王竜の間へ来るように言われて連れて行った。そこでリナが聖女の力を使っていると言っていた」

「聖女の力を?」

そんな感覚もない。聖女の力は目に見えないため感じ取るしかないのだが、聖女の力は祈りを捧げることで力を発揮する。夢を見ていただけで力が勝手に発動したということだろうか。

「それと、ギュンターの方で何かが起こったことも察知したようだった」

「え・・・」

自分の力の発動とギュンターで何かが起こったこと。それに王都の夢を考えると、一気に血の気が引くのを感じた。

「まさか本当に夢のようなことが王都で起こって・・・」

声が震える。

その場で起きていたことを夢に見ていたのだろうか。そんなことがあるのだろうか。よく考えると王都は薄暗いようにも感じた。それは夜だったからなのだろう。だがいろいろな景色がはっきり見えていたので夜目が効いていたようだ。そんな能力をリナは持っていないが、夢の中だからあり得たと考えるべきかもしれない。

わからないことだらけに再び混乱しそうになる。

するとロイドがそっとリナの手を握った。

「王都に確かめに行くつもりだ。不安はあるだろうが待っていてほしい」

王竜とともにギュンターに向かうつもりでいたようだ。すぐに向かわなかったのは意識を失ったリナを優先したからだ。

「私も一緒に行っては駄目かしら」

王竜の背に乗るのはリスクがあるが、自分の目で確かめたいとも思う。本来は竜騎士以外背に乗ることはないが、特別に乗せてもらったことがあった。今回もそれが可能なら自分の目で早く確認することができる。

「急いで行くつもりだからスピードもあるし、前のように低く飛ぶこともできない。リナの体では耐えられない可能性がある」

一度乗せてもらったことがあるが、王竜の加護を持たないリナに配慮してゆっくり低く飛んでくれていた。だが今回は速く高く飛ぶことを予定しているため体への負担が大きくなる。

「でも、私はギュンターの聖女だから、何かが起こっているのなら王都に戻って確認するべきだと思うの」

ロイドの言っていることは理解できる。だがここで彼が戻ってくるのを待っているわけにはいかないと思った。もしも本当に王都で何かが起こっているのなら神殿から連絡が来るだろう。そうなれば馬車を使って時間がかかっても王都へ行くことになる。

「そうだな・・・」

理解を示すもロイドは考えるように天井へと視線を向けた。もしかするとヒスイとどうするべきか相談しているのかもしれない。

しばらく待っていると、彼が瞼を閉じて頷く。やはりヒスイと会話をしていたようで結論が出たようだ。

「ヒスイも一緒に行くべきだと判断した。ただ、まずは様子を見るだけになる。他国に降り立つにはヒスイは目立つ。完全に誰にも見つからない場所を確保できれば王都の近くに降りられるが、そうでない場合は一度国境付近まで戻ることになる」

もしも国境まで引き返したとしても馬車移動よりはずっと早く王都に行ける。

何かが起こっているのなら、それをまずは確認するしかない。リナは気持ちを奮い立たせるようにソファから立ち上がった。

「すぐに準備をしないと」

空の上は寒い。しかも今回はもっと高く飛ぶことになるので、前回よりも万全の準備が必要になる。

意気込むリナだったが、すぐにロイドに止められた。

「まずは朝食を食べてからだ」

「え、でも・・・」

「聖女としての力を使ったようだし、空を飛ぶのに体力も使う。万全の体制をと考えるならまずは食事をしっかり摂ることだ」

そう言われてしまってはリナだけ準備をしてもギュンターへは向かえない。大人しく従うしかないと思っていると、タイミングを合わせたかのように扉がノックされアスロが朝食を運んできた。

朝食を準備している間に、ロイドはロゼストと今後の打ち合わせをしてくると言って部屋を出て行く。

「何かありましたか?」

何も知らないアスロは準備の手を止めることなく、何気ない会話のように訪ねてきた。

昨夜起こったことはまだ使用人たちに伝わってはいないようだ。

リナはどう説明するべきか悩んだが、苦笑するだけになってしまい、後でロイドが説明してくれるからと言うだけになってしまった。


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