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悪夢

悲鳴が聞こえたことで一気に覚醒したロイドは跳ね起きて辺りを見まわした。

すぐに隣で寝ているはずのリナへと視線を向けると、彼女が体を大きくのけ反らせて胸を押さえている姿が飛び込んできた。

「リナ!」

どこを見ているのかわからないが、目を大きく見開いて陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクと動かしている。呼吸が上手く出来ていないのか必死に空気を求めているように見えた。

両肩を掴んで軽く揺すると、のけ反っていた体が一気に弛緩してぐったりとする。

目は開かれたまま天井を見ていたが、はっきりとこちらを認識しているようではなかった。

「リナ」

軽く頬を叩いて名前を呼べば、うつろな視線がロイドに移される。

呼吸もやっとできるようになったのか、ゆっくりと呼吸を繰り返していた。

「ロ、イ・・・ド」

掠れるような声がロイドを呼んでいる。

「どうした?」

状況が把握できないため呼びかけてみたが、彼女の反応は思わしくない。何も答えず呼吸を繰り返すだけだ。

どうするべきか窓の外を窺うが外はまだ真っ暗で、街へ行って医者を呼べる時間でもない。

「リナ」

妻の名をもう一度呼ぶが、リナは疲れ切ったように目を閉じてしまった。ぐったりしてしまったが呼吸はちゃんとしている。

アスロを呼ぶべきかと思っていると、頭の奥に声が響いた。

『連れてこい』

それだけですべてを察したロイドは意識を失っているリナを抱えると、寝室を出てそのまま廊下へと出た。無言で歩きホールを抜けて王竜の間へと入る。

台座に座っている王竜はじっとこちらを見つめていた。

薄暗い王竜の間だが、ロイドは王竜の加護をもらっているため夜目が効いている。特に足元を気にすることなくリナを抱えて台座へと近づいた。そのまま台座に飛び乗るとヒスイを見上げる。

「わかるのか?」

リナの状況がまるでわからず心配するロイドに対して、ヒスイは静かに鼻先をリナへと触れさせた。

ゆっくりとした息吹をリナに浴びせるとすぐに離れる。

『聖女としての力が働いている』

「どういう意味だ?」

理解できずに聞き返すと、ヒスイは顔を上げた。

『ギュンターで何か起こった』

その言葉に息を飲む。ギュンターで何かが起こりリナの聖女としての力が働いていると聞けば、王都で何かが起こり結界に異変が起きていると予想できた。

「すぐに、ギュンターに飛ぶべきか」

その呟きにヒスイは待ったをかけた。

『リナが目覚めてからの方がいい』

夜でも王竜は空を飛べる。もちろんロイドも一緒に行くことは出来るし、王竜の加護のおかげで夜間飛行に問題ない。すぐに飛び立って王都の様子を確認することは可能だが、ヒスイはリナが目覚めるのを待つべきだと判断した。

王都で何が起きているのか不安はあるが、王竜が下した判断ならそれに従うしかない。

「・・・ん」

ヒスイと会話をしていると、腕の中のリナがわずかに声を漏らした。覗き込めば瞼が微かに震え、ゆっくりと開かれると青い瞳が彷徨いながらもロイドを捉えた。

「リナ」

声を掛けたが、意識がはっきりしていないのかリナの視線はロイドに向けられているがはっきりと認識されている気がしない。もう一度名前を呼ぶと、ゆっくりと腕が持ち上がってロイドの頬に手が添えられた。

「ロイド・・・」

確認するように指先が頬を撫でる。

「そうだ」

返事をすると、わずかに時間を置いてリナが数回瞬きをした。意識がはっきりしたのか、視線が合ったのがわかった。

「ロイド。え?」

急に目が覚めたようにリナが辺りを見回して、目の前にヒスイの鼻先があることに気が付いて驚いている。

「ヒスイ様・・・どうして?」

完全に混乱した様子に落ち着かせるように台座の上に座らせると、さらに周囲を確認する。自分がどうして王竜の間にいるのかまったく見当がついていないのだろう。

「何も覚えていないのか?」

片膝をついて視線を合わせたロイドは、就寝中に突然悲鳴を上げたことを説明してみた。

「私が悲鳴・・・何か夢を見ていたような」

「慌てなくていい」

やっと目が覚めて王竜の間にいたことに戸惑いを隠せていないリナは、自分が悲鳴を上げたことを思い出そうとした。だがすぐには思い出せないようでしきりに視線を動かしている。

『部屋に戻れ』

一度落ち着かせた方がいいと判断したヒスイの声にロイドも頷いて従うことにする。2人とも寝間着のままだ。今は夏も終わりかけ。秋に向かって夜が少しずつ冷えてくる季節ではあるが、まだまだ暖かい夜だ。だが油断をすると風を引いてしまう可能性もある。いったん部屋に戻って着替えることも考えた。

「一度戻ろう。話は思い出してからでいい」

まだ日が昇るにも時間がある。寝室に戻って気持ちを落ち着かせてからの方が話しやすいだろう。

「はい」

混乱しているリナは立ち上がろうとして自分の両手を見た。

「どうした?」

「なんだか力が上手く入らないの」

それを聞いてヒスイを見上げる。

『聖女の力を使いすぎているのかもしれない』

リナの聖女としての力がギュンターの王都で大きく働いた。その反動が彼女の体に現れている可能性を指摘してきた。

リナ自身はよくわかっていないようで首を傾げているが、ヒスイの言葉を伝えることはやめておいた。詳しい話は彼女を休ませてからの方がいいと判断したのだ。何もわかっていないリナにギュンターで何かが起こっていて、王都を守る結界に異変が起きた。それによって聖女の力が働いていると説明しても混乱させるだけだろう。

「今は休もう」

そう言ってロイドはリナを抱え上げた。意識を失って連れて来た時と同じ体制ではあるが、今はちゃんとロイドを見つめてくれる。それだけで部屋へ戻る足取りが軽くなっていることを感じながらロイドはほっとした気持ちも抱えて寝室へと戻るのだった。


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