グリンズの使者
翌日にロイドは朝早くリカルドの部屋を訪れた。
母親と2人で過ごせたことが良かったのか、リカルドは顔色も良く覚悟を決めたように力強い眼差しを向けてきていた。
隣に立つレーリアはロイドがどんな判断を下すのか心配そうに両手を握りしめている。
「母親を人質にされ第1王子の言いなりになるしかなかったとはいえ、竜騎士とその妻を殺害しようと剣を向けたことは事実だ。このまま何事もなく国に帰すことはできない」
静かに告げると、リカルドは静かに頷いた。自分の仕出かしたことの重大性を15歳ながらに理解しているのだろう。母親は顔色を悪くしているが、しっかりと立っている。
2人はどんな罰でも受け入れる覚悟をしているのだろう。
できるだけ罪が軽くなってほしいとレーリアは望んでいるだろうが、それを口にすることはない。
そんな2人を見つめてから、ロイドは結論を口にした。
「今後2人にはこの神殿で使用人として働き、自分の罰を償う仕事をしてもらうことにした」
一瞬何を言われたのかわからなかったのか、ぽかんとした顔をする。さすが親子だと思う程そっくりな顔つきに内心笑ったが、表情に出すことなくロイドは続きを言っていく。
「母親であるレーリア=ホートネルは罰を受ける必要はないが、息子のリカルド=ホートネルがここで働くことになれば一緒に働いた方がいいだろう」
再び人質にされることはないだろうが、息子を心配して竜王国に移り住む可能性は十分にあった。それを考慮して2人とも受け入れることにしたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
自分の立場を理解したのか、リカルドが我に返ったように口を開いた。
「未遂とはいえ暗殺をしようとした相手を、神殿で働かせるつもりですか」
「聞こえなかったのか。お前は今日からここで神殿の使用人として働くことになった。自分の罪は自分の体で償え」
突き放すような言い方になったが、それでも親子は顔を見合わせて困惑していた。
「また、襲う可能性だってあるのに・・・」
「お前は母親を救うために利用された。母親が無事なら命令に従うことはしないだろう」
それがロイドの見解だった。レーリアさえ人質にならなければ竜騎士襲撃などリカルドが自らするはずがない。だが、このまま無罪放免にすることもできない。そのため贖罪としてここで働かせることを思いついた。
「首を斬ることはいつでもできる。それにお前が何か行えば母親も道連れになることを忘れるな」
レーリアを一緒に働かせることは、ある意味神殿での人質にもなる。母は息子を想いここを離れることができず、息子は母を守るために裏切ることができない。それもロイドの思惑ではあった。とはいえ、それは建前に近かった。
襲撃に失敗したリカルドは第1王子にとって邪魔な存在となり、母親は始末されそうになっていた。2人の安全を確保するため、竜王国へ移住させることが目的でもあった。そしてリナと結婚したことで神殿の人手不足を解消したかったのもある。
「ちょうどリナの護衛を増やそうと思っていたし、世話役もいるといいと思っていた」
2人が再びぽかんとした顔をする。使用人として働くにしても、妻であるリナの側に置くと言っているのだ。襲撃犯とその母親をそんな立ち位置にする夫の考えに理解が追いつかないのだろう。
2人をそばに置くことに不安がないわけではなかった。ただ、リナの聖女としての力が働いていれば危険に晒されることはない。そして王竜も反対しなかった。
どう反応するべきなのか困っていたようだが、先に我に返ったのはレーリアだった。
「いろいろと不備はあるかもしれませんが、一生懸命働かせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げてきた。それを隣で見ていたリカルドも覚悟を決めたように同じように頭を下げた。
「償いは身をもってさせていただきます。よろしくお願いします」
後頭部が見えるほど頭を下げた親子に、ロイドはわずかに口元を緩めた。
血を流さないでほしいと言っていた妻の願いはこれで叶えられただろう。あとは2人の処分を伝えて護衛と世話役にしたことを伝えるだけ。
その時彼女がどんな反応をするのか楽しみだ。
「2人にはそれぞれの部屋を後で与える。自分たちの立場をわきまえてしっかり働くように」
それだけ告げるとロイドはそのまま部屋を出た。扉を閉める寸前、顔を上げた親子が明らかにほっとした顔を見合わせていたのを見た。
そして、レーリアは今にも泣きそうな顔をすると息子を力いっぱい抱きしめる。
その姿を見て、自分の判断は間違っていなかったとロイドは心の中で思うのだった。




