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元護衛騎士

竜王国の上空を飛んでいたロイドは、夕方になって神殿へと戻った。ヒスイも途中で帰るようなことを言わなかったので、特に神殿内で何かが起こっているとは思わなかった。

だが、神殿に戻り王竜の間を出たところで、目の前に直立不動のボルドがいたことに少し驚いた。

彼が戻ってきていたのなら、ヒスイは気が付いていたはずだ。

「久しぶりだな」

最初に出た言葉は素気ないものだったが、ボルドは胸に手を当てて目礼するだけだ。

彼はロイドが竜騎士選定を知って竜王国へ来るときに、一緒についてきてくれた騎士だ。もともとは母が側室として嫁ぐときに実家の伯爵家で護衛騎士をしていた。護衛騎士になりたてだったが、子爵家の二男ということと、忠誠心の強さを買われて抜擢された。母の騎士としてずっと従ってくれていたのだが、国を出たロイドを心配した母が後を追わせたのだ。

竜騎士に選ばれたことでボルドは国に戻ると思っていたのだが、神殿の使用人となり各国の偵察役を今はしてくれている。

親子ほどの年の差があり、子供のころから知っているボルドは口数が少ないが、剣の腕は信頼できる。

定期的な報告は手紙で行っていたが、急に戻ってくるようなことは聞いていなかった。

彼が目の前にいるだけで、何かが起こったのだろうと予想がつく。

「話は部屋で」

「奥様に聞かれてしまいます」

ボルドはグリンズの調査をしてくれていた。ロイドの故郷の事情をリナに知られていいのかと問うているようだ。

「リナなら心配ない。彼女にはすべて話してある。何も知らせずにいると悲しまれる可能性が大きいから、一緒に話を聞いた方がいいだろう」

そう言うと、ボルドは少し驚いた顔をしていた。

ロイドの事情を話したこともそうだが、隠し事せずリナと話を一緒に聞くと言ったことが予想外だったようだ。正妃や兄王子に虐げられてきたロイドは護衛騎士をしてくれていたボルドに対しても、いつも距離を取るように心を閉ざしていた部分があった。その彼を知っているボルドからすると、リナに心を開いていることが驚きでしかないのだろう。

偵察中だった彼には結婚したことと、リナの名前を伝えるくらいだけだったので、ロイドの変わりようは衝撃的に感じたと思う。

「リナにはまだ会っていないだろう。顔を合わせるいい機会だ」

まだ会ったことのない使用人がいることはリナも知っている。会ってみたいとは彼女は言わず、彼らが戻って来た時に会えればいいとのんびり構えてくれていた。

「奥様でしたら、戻って来た時にちょうど顔を合わせることができました。挨拶をした程度ですので、それ以上の会話はしていません」

口数の少ないボルドでは会話がどこまで続いたかわからない。そう思っていると、彼が予想していなかった人物の名前を出してきた。

「ちょうどマルス様もこちらに到着していたので、簡単な情報交換はしておきました」

「師匠がいるのか?」

「詳しいことは聞けませんでしたが、ロイド様に話がある様子でした。私はここで待たせてもらいましたが、マルス様は部屋で休まれています」

「師匠が戻って来た・・・」

彼が竜王国を離れて侯爵令嬢がやって来た。ロイドが結婚していたことが王家に知られて王妃が動いたのは間違いない。戻ってきたということは、何か情報を持って来たのか、それともロイドのもっと詳しい情報を集めるために送り込まれてきた可能性もある。

話をしたいようなので、できるだけ早く会った方がいいかもしれない。

嫌な予感が胸の奥に燻るのを感じる。

「まずはボルドの話を聞く。その後で師匠からも話を聞こう」

もう夕方だ。リナが食事を済ませて就寝準備を始めていてはボルドと会わせることができなくなる。

彼女も交えて話した方がいいと考えていたのですぐに部屋へと移動することにした。

「一つ言っておくが、ここではみなリナのことを名前で呼んでいる。誰も奥様とは呼ばないから言いなおした方がいいだろう」

ボルドと話していて気が付いたことがあった。彼はロイドに仕えていたこともあり、その妻であるリナのことを奥様と呼んだ。だが、彼女は竜騎士の妻と使用人という立場を理解したうえで、彼らと気さくに話ができるように名前を呼ばせている。初めてここへ来た時から名前を呼ばれていたこともあり、使用人との壁も作りたくないのだろう。

お茶を一緒に飲むための部屋が欲しいと言い出したのもそれが理由だと思っている。

指摘するとボルドは一瞬眉根に皺を寄せて難しい顔をした。彼も元子爵令息だ。生真面目な性格をしているため違和感だらけのようだ。

反論したそうに口を開きかけたが、すぐに閉じて頷いた。

「わかりました。気を付けます」

とりあえずは納得したようだ。

リナに対して気さくで優しい使用人ばかりであったが、真面目で堅苦しく感じるボルドがどこまで打ち解けてくれるのか、少し心配ではあったがリナなら大丈夫だとなぜか思うことができ、ロイドは無言のまま部屋へと歩いてくのだった。


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