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大事な仲間

「ご無事ですか」

ロイドと一緒に部屋へ戻ろうとしていたリナは、ホールで叫びながら走ってくるゼオルと会うことになった。

そういえばこの騒ぎで彼は一度も姿を見せることがなかった。今までどうしていたのだろうと首を傾げる。

「どこかお怪我でもされましたか?」

返事をしなかったことでさらに心配するように近づいてきた彼だが、ロイドがリナの前に立って静止させられた。

「心配ない。怪我もしていないし、騒いでいた相手も出て行ったところだ」

「私は平気よ。それよりもあなたはどこにいたの?」

庇われたことでロイドの横から顔を出すと、ゼオルは心底ほっとしたような表情をした。彼は竜王国の神官という立場だが、元はギュンターの神官であり聖女であるリナのサポートをするためにここに居る。リナに何かあってはと思うのは当たり前だ。

「スカイが部屋にやってきて、しばらく部屋から出ないようにと言われていました」

リナのところへ来ていたスカイだが、あの後すぐに部屋を出て行った。騒いでいる侯爵令嬢の様子をずっと影で見ているのだと思っていたが、アスロやリナが部屋から出て来た時も姿を見せることはなかった。どうやら、ゼオルのところへ行って部屋で待機するように伝えてくれていたらしい。必要なら助けに出てくるつもりでいたのだろうが、その前にロイドが戻って来たのだろう。

ロゼストが対応していたが、相手には護衛騎士がいた。戦えないゼオルは部屋にいたほうが安全だ。

事が落ち着くまで部屋から出られずにいたようだ。

「廊下で騒ぎが起きているのはなんとなくわかっていました。出て行っても何もできない可能性もあって躊躇していたのですが、すぐにロイド様も来られたようだったので、しばらく待機していました」

葛藤はあったようだが、自分の立場をしっかりと把握している。ロイドが来たことでアスロがロゼストを連れて避難したこともわかっていたようだ。

ゼオルの部屋は使用人が使う1階にある。リナの部屋からは少し離れているが、あの騒がしい侯爵令嬢の声が聞こえていたようだ。内容までは把握できなかったが、ロイドがいたことでリナが傷つくことはないと判断して部屋でじっとしていた。

神殿に侵入した経験のあるゼオルはロイド達にあっさり捕まって、正確な強さがわからなくても、信頼できる実力があることを肌で感じている。

それでも心配であることは変わりなかったようで、部屋から出られるとすぐにリナの確認をするために駆け付けたようだ。

「全部終わりましたか?」

ゼオルが走ってきたのとは違い、今度はゆっくりと歩きながらロゼストがホールへとやって来た。その後ろにはアスロもいる。

先ほど突き飛ばされていたが、歩いているのを見ると彼もどこも怪我をしていないようだ。

「とりあえずは帰ってもらったが、次に何を仕掛けてくるのか気がかりではあるな」

ロイドがため息交じりに言う。王竜の前で動けなくなる者が竜騎士の妻になれるはずもない。マリアナはもう二度とここへはこないだろう。だが、彼女はグリンズ王妃の命を受けてここへ来ただけだった。王妃が諦めない限り次がある可能性を示唆している。

「そうですね。今後のことを相談する必要があるかもしれません」

今度はどんな手を使ってくるのか、予想できないため対策を取りづらいが、いつでも対応できるように話し合いをしておきたいと考えているようだ。

その話が出た瞬間、リナはぽんと手を打ってあることを思いついた。

「そうだわ。みんなで話をするなら、どこかお茶のできる部屋を作りましょう」

「・・・突然だな」

思い付きを口にすると、振り返ったロイドが数回瞬きをしてからポツリと漏らした。

どことなく重苦しい雰囲気が出ていたが、リナの一言で一気に空気が軽くなったような拍子抜けしたように変わったことに誰もが気が付いた。場を和ませるために言ったわけではないが、思い付きを口にしたのは事実である。

「私はもう貴族ではないから、使用人と一緒にお茶を飲んでも構わないでしょう。食事も部屋になっているし、みんなでゆっくり話ができる広い部屋があるといいなと思ったことがあったから」

街から来た人たちが休憩できるように談話室は設けられている。だがあの部屋は手狭で、ソファを置くことで余計に窮屈感があった。もっとゆったりと使用人たちと会話ができる広い部屋があったらいいなと考えたことがあったのだ。

「まぁ、ここには余るほどの部屋があるから、改装しても問題ないが」

現在の使用人たちを含めても、1階の部屋はまだ余っている。2階や3階もほぼ使われることがないので、空き部屋が多いと言えた。

「だが、今すぐにとはいかない。その提案は後日にしよう。ロゼストと俺は今後の話をするから、リナは休んでおいで」

一緒に話に参加すると思っていたリナだったが、騒ぎで不安な思いもしただろうと、まずは休ませることを優先してくれた。アスロとゼオルが付き添うようにリナを部屋へと案内する。

ロイドはロゼストと一緒に王竜の間へと戻っていった。ヒスイも含めて話をするつもりのようだ。

「リナ様の提案、私は大賛成です」

部屋へと戻る途中、アスロは猫耳をピンと張るようにして喜びを表現した。

「ここは男所帯で、会話も必要なことを話すくらいしかなかったので、ゆっくりお茶をしながら談笑するなんて発想は誰もしませんでした」

それが当たり前のように生活していたロイド達はおしゃべりに花を咲かせるという発想がなかったのだろう。女性であるアスロはリナの提案に嬉しそうだ。

「皆さんで集まるということはあまりありませんね。人数が少ないのも要因なのでしょう」

ゼオルはギュンターの神殿にいた頃のことを思い出して、今の状況を分析するように言ってくる。

「ギュンターでは神官の人数もずっと多かったですし、集まって会議をすることはありましたから、大部屋は用意されていました。ここでは神官はロゼスト様と私だけですし、全員に何かを伝えるのもすぐです」

人数がいない分、すぐに情報が伝わりやすい。一か所に集まって指示を出すことも少ない。

「リナ様が来た時も、ホールに集まって挨拶をしただけでしたね」

「そう言えば、そうね」

リナに使用人の紹介をしてくれた時を思い出す。

ロイドと結婚して半年が経とうとしているが、それ以降全員が集まってお茶をしながらゆっくり談笑することなどなかった。

「お茶をしながら友人とおしゃべりをする生活をしていたから、こういう発想が出来たのかしらね」

侯爵令嬢時代、お茶に誘われて他の貴族令嬢の屋敷でお茶をしながらおしゃべりを楽しんだ思い出を持っているリナにはそれが当たり前だった。今は自分の部屋でアスロがお茶を淹れてくれるのを飲む程度。食事はロイドと一緒にするが、お茶を飲みながらおしゃべりをする相手はいない。

アスロと女性同士でと思ったが、まずはみんながゆっくりできる空間が欲しいなとも思っていた。

「急な提案だったけれど、ロイドは前向きに考えてくれそうね」

あまりに急すぎて驚かれてしまったが、否定されることはなかった。

「それよりも、今はグリンズ王国の動向が先になりそうですけど」

耳を少しだけ垂らしてアスロが苦い顔をする。先ほどマリアナに獣人族を侮辱されたことを思い出したのかもしれない。

「グリンズは獣人に厳しい国だとは聞いたことがなかったけど」

獣人と人族が平等に暮らせている国は少ない。人口の多い人族が、少数である獣人族を忌避しているのも事実だ。そのため一緒の生活圏にいることの方が稀となっているが、あそこまで拒絶反応を示すような国だとは聞いて事がなかった。

「あれはごく一部の反応だと思います」

首を傾げて考えていると、答えたのはゼオルだった。

「貴族の中には自分たちの地位や権力を示すように、相手に厳しくなる者もいます。人族同士でもそうなのですから、自分達と違う獣人族にはより一層見下すような態度を取るのでしょう」

まるで見たことがあるかのような口ぶりだ。

「神官として他国の神殿に赴くこともありました。その中で獣人族を虐げるほどの貴族の対応を見たことがあります」

ギュンターには獣人族が少ない。自ら関わることもしないが、拒絶もしない国だと思っている。リナも竜王国へ来て初めて獣人と出会った。だが特に拒否反応を示すこともなく、アスロとは仲良くやっていると思うし、他の獣人とも険悪になることはない。彼らはともに暮らす仲間という意識の方が強い。

「リナ様が私の前に立ってくれた時はかっこよかったですよ。でも、無茶はしないでくださいね」

戦闘能力のないリナでは騎士たちに太刀打ちできない。アスロを守るためとはいえ、今後は自分の立場も考えなければいけないだろう。

少し反省をしつつ、それでも無事でいられる自信がリナの中にあった。

「大丈夫よ。私は聖女だから」

神から授かった幸運と守護の力を持つ聖女。きっと特別な力がリナの味方をしてくれただろう。

「聖女でも、危ないことに変わりはありません。無傷で済むとは限らないのですよ」

「そうですよ。今後は飛び出して来て使用人を庇うなんてしてはいけません」

聖女と知っている2人が年下であるリナを諭すように注意してきた。

使用人にお説教される竜騎士の妻という構図は傍から見るとおかしなことだが、リナはそれを楽しむように部屋へと歩いていくのだった。


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